デレ
魔王様と一緒に世界樹から外に出た。
何やら明るい。世界樹を見上げると、青、というか水色で光り輝いている。これがうわさの逆光合成だろうか。いや、魔王様の話から考えると、ハコブネという建造物が光っている?
しかし、不思議だ。こんなものがあったら、森の外から見ればすぐに場所が分かるのではないだろうか? すくなくとも人界に来た時にはこんなものは見えなかったが。
「魔王様、人界に来てこの森に入る前には、このような大きなものは見えませんでした。なにかご存知ですか?」
「ああ、この建造物、いや、この辺り一帯の森は、そもそもエルフの森にあるわけじゃないんだよ」
魔王様の言うことは分からないことが多い。深く聞いても大丈夫だろうか。
「申し訳ありません、魔王様。もう少し詳しく教えていただけないでしょうか」
「ここはエルフの森から転移してこれる場所なんだ。ここに来るまでに何か違和感が無かったかい?」
そういえばここに来る途中、眩暈がした気がする。もしかして、あれが転移した合図だったのだろうか。
「あの惑星は狭いからね。巨大建造物は別の場所に作ったんだよ。エルフの森にあるのは入り口だけだね」
ワクセイとはなんだろうか?
「魔王様、質問ばかりで申し訳ないのですが……」
「フェル、悪いんだけど、しばらく留守にするよ。調べなくてはいけないことが出来てね、すぐに移動しなくてはいけないんだ」
「それでしたら私も一緒に行きます」
「フェルには魔族のイメージアップ作戦をお願いするよ」
お役に立てないということか。無念。
「魔族で一番信頼しているのはフェルなんだ。魔界を存続させるためにも、なんとか人界で信頼を得てほしいんだよ」
そこまで言われて、断ったら女が廃る。
「承りました。魔王様の忠実な僕であるこの私にお任せください」
「留守にはするけど、僕に用があるときは、宿の部屋にある扉をノックしてくれれば良いからね。えーと、魔法で僕のところに連絡が来るようになっているんだ」
「何かありましたらそうさせて頂きます。魔王様はこれからすぐに行かれるのですか?」
「そうだね。すぐ行くよ。あとはよろしくね」
「はい、行ってらっしゃいませ」
魔王様が私に手を振られたあと、薄くなるように消えてしまわれた。やはり魔王様も転移が出来るのか。しかも、長距離転移が可能なようだ。私も空間座標の計算がそれくらい出来るようになればいいのだが。
さて、世界樹も元に戻ったようだし、まずは永遠の園まで戻ろう。
あれ? そういえば世界樹に捧げるってどういうことなんだろう? 世界樹に行っても分からなかったな。まあ、良いか。私はもう捧げられたりしないだろうし。
そうだ、その前に能力制限をしておかないと。あと、魔力高炉への接続も切断しておこう。
戻る途中でまた眩暈がした。これが転移か。視界が変わらないということは、空間そのものを永続的に繋げているのだろうか。すごいな。
そういえば、来るときと違って明るいな。世界樹の光がここまで届いているのだろうか。いや、道そのものが光っている気がする。もしかしてこの辺りの木は自然のものではなく建造物の一部なのだろうか。
長老と別れた辺りまで戻ってくると、なぜか長老が居た。もしかして、ここで待っていたのだろうか?
長老が私に気付くと、いきなりひれ伏した。
「ありがとうございます、フェル様。世界樹を元に戻してくれたのですな。エルフ達を代表して感謝を」
世界樹が建造物であることは言わない方が良いよな。説明できないし、突っ込まれたら面倒くさい。
「確かに世界樹は元に戻ったが、この場所でも分かるのか?」
「この辺りに光が戻りましたからな。この光こそ、これまでの世界樹ですじゃ」
そういうものか。しかし、私に礼を言うのは筋違いだな。
「言っておくが、元に戻せたのは魔王様のおかげで、私は何もしていない。私に感謝する必要はないし、様付けしないでくれ」
「では、その魔王にも感謝を。しかし、フェル殿は謙虚ですな。これまでの魔族のイメージが全くありませんぞ。正直なところを言いますと、私はフェル殿を疑っておりました。しかし、聞いた通り、信頼できる方なのですな」
昔の魔族のイメージってどういうものなのだろう。まあ、やるかやられるかの時代だったから仕方ないのかな。しかし、疑っていた、ね。そんな状態で良く世界樹に一人で行かせてくれたな。
「疑っていたのか。なら、なぜ私を世界樹に行かせたんだ?」
「息子から貴方が信頼できる方だと聞いていましたのでな」
息子? 誰の事だろう?
「その顔はご存じないようですな。息子は今、エルフの部隊長を務めております」
「隊長の奴は長老の息子なのか」
「そうですな。あの子が生まれた時はかなりの難産でしてな。その分、エルフの森で過保護に育ててしまったのです。その結果、エルフ以外の種族は危険で信用出来ないと考えるようになってしまいまして」
隊長が面倒くさいのはお前が原因か。
「その息子が貴方は信用できると言いましたので、疑いはしましたが、世界樹へお連れしたのですよ」
私が信用できるか。人族を追っ払ったのが効いたのかな。しかし、なんという隊長のデレっぷり。なにか色々こじらせている気がする。
「さて、早速戻りましょう。世界樹が元に戻ったことを伝えれば、他の者たちも安心するでしょうからな」
私としては魔王様の依頼をこなせればそれで良いから、エルフ達の安心とかどうでも良いな。
いや、まて、リンゴだ。魔王様からの依頼ではないが、自ら課したミッションがある。隊長の奴とかミトルとかには約束させたが、長老にも許可を貰っておこう。やっぱりやめたとか言われないように。
「長老、さっき感謝していると言ったな? ならリンゴを人族の村まで売りに来てくれないか」
「ほう? リンゴですかな?」
「エルフの森に来た当初、エルフの物とは知らずにリンゴを食べてしまってな。美味かったので、是非、購入させてほしい。一応、隊長とかミトルには許可をもらったんだが、念のため、長老も許可を出してくれ」
「その程度のことなら問題ありませんぞ。それに今回、人族に襲われましたからな。あなたのような方と懇意にするのは、我々にとっても良い事でしょう」
「なら、よろしく頼む」
よし、これで問題なくリンゴを仕入れることができる。ニアに頼めばリンゴを使った料理とか作ってくれるかもしれない。夢が膨らむな。
永遠の園まで戻ってきた。
長老から世界樹のことを伝えると、エルフ達は皆、ひれ伏した。やめてくれ。
「本当に世界樹を元に戻してくれたのだな。ありがとう。感謝する」
これが隊長のデレか。すくなくとも私に需要はない。供給しないでくれ。どうせなら、魔王様が私にデレてほしい。
「すげーな、フェル! いや、フェルならやれるって信じてたぜ!」
嘘つけ。だが、まあ、ミトルはどちらかと言えば最初から友好的な感じだったから許してやる。チャラいけど。
他のエルフ達にもお礼を言われた。一時的とはいえ、魔王様が世界樹を枯らしたことは絶対に言えない。
「では、村まで戻ろう。今日は村で世界樹の快気を祝って宴を催すつもりだ。今日は村に泊まってくれ。明日には人族の村まで連れて行こう」
断る必要もないか。空気を読もう。
「わかった。なら今日は泊めてもらおう」
「よし、俺は決心したぜ!」
ミトルが騒ぎ出した。どうせろくでもない事に決まっている。
「フェルのプロポーズを受けて結婚してや――ごふっ」
殴った。やはりろくでもなかった。絶対殺すパンチにすればよかった気がする。
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