開拓部

 

 今日のお昼は何だろう。卵料理が好みなのだが、是非とも私の期待に応えてもらいたい。


 テーブルの椅子に座って、すこし待つとヤトがコップに水を入れて持ってきてくれた。


「お疲れさまですニャ」


 そういえば、ヤトは普段どう過ごしているのだろう?


「ヤトはウェイトレスをしている以外の時間は暇だと思うが、何かしているのか?」


「ニアさんに料理を教えてもらっているニャ。仕込みの手伝いとかする代わりに教わっているだけなので金銭は発生していないニャ」


 なるほど、魔界に料理の技術を持ち帰るのは急務だな。ニアほど料理の腕をあげるのは難しいだろうが、ちょっとでも料理が上手くなって、魔界の奴らにも教えてやってほしい。


 むしろ、ニアを魔界に連れて行くという方向も考えてみるか? いや、魔界の汚染に耐えられないか。門からダンジョンまでの道のりだけでも浄化できればいいのだが。


 そんなことを考えていると、ロンが手に卵を持って入り口から入ってきた。


「卵はこれだけでいいか?」


 卵って思っていたより小さいな。コカトリスとかバジリスクの卵はもっと大きかった気がするが。


 ニアが「十分だよ」と言いながら受け取って厨房に戻っていった。うむ、それが昼飯に使われるのだな。楽しみだ。


 そうだ、卵を見て思い出した。畜産だ。牛とか豚とか鶏を飼って増やすことを考えていたんだ。魔界に連絡して持ってきてもらおう。昼食を食べたらさっそく魔界に連絡だ。




 昼はパンとオムレツだった。オムレツとトマトソースの組み合わせって誰が考えたんだろう。偉い。


 部屋に戻り、魔界に連絡しようとしたがちょっと考える。畜産関係の依頼先はどの部になるんだろう? 生産部か? とりあえず総務部の代表窓口でいいか。そこへ念話を送ろう。


『はい、こちら魔界総務部です。お名前をお願いします』


『フェルだ』


『フェル様、お久しぶりです。開発部から聞きましたよ。何でも人界にいるとか』


『ああ、なんとか食糧を魔界に送ろうとしていてな。悪戦苦闘中だ』


『フェル様自ら対応してもらえるとは、魔界の者たちも幸せでございます。本日はどうされました?』


『実は人界で、牛や豚、鶏を育ててみたいと思っている。すまないが、手配してもらえないだろうか。そうそう、つがいでお願いする』


『牛、豚、鶏ですね。では、総務の人事課に依頼しておきます。選定の期間もありますので、いつ頃到着するかはわかりませんが』


『構わない。では、よろしく頼む。ああ、そうだ、知っているかもしれんが、ヤトは人界に残る。長期出張か何かにしておいてくれ』


『はい、手続きしておきます。あと、ヤトの所属は新設した開拓部になりました。ちなみに一人しかいないので部長です。適当に課を作ってくれと伝えてもらえますか』


『分かった。伝えておこう。では、またな』


『はい、いつでもご連絡ください』


 これで完了だ。いまから楽しみだな。なんとなく違和感があったけど。


 それにしても、ヤトが部長か。一人しかいないからだけど、これは出世なんだろうな。あとで昇進祝いとかしてあげよう。


 そういえば、魔王様は部屋にいらっしゃるだろうか。今朝はノスト達の見送りで早めに部屋を出てしまったから今日はまだお会いしていない。


 扉をノックしても返事がなかった。すでにエルフの森の方に向かわれたのだろうか。そういえば、魔王様はどうやって世界樹へ行こうとしているのだろう。今度、聞いてみるか。もしかしたら手伝えることがあるかもしれない。決してリンゴを補充したいわけではない。


 部屋から食堂に戻ってきた。まずはヤトに伝えなくては。


「ヤト、新設した開拓部の部長に昇進だそうだ。なにか適当に課を作ってくれと言っていたぞ」


「相変わらず適当ニャ。なら、技術推進課ニャ」


「ヤトも結構適当じゃないか」


「そう言うなら、フェル様が部長をやってほしいニャ」


「私には無理だ」


 私は魔王様の親衛隊隊長という役職があるからな。親衛隊といっても私だけだが。魔王様が直接作られたあらゆる権限を持つ超エリート部隊だ。しかも秘密部隊。他の部の部長をやっている場合ではないのだ。


「無理なのはわかっていますニャ。言ってみただけニャ」


 そういうと、ヤトは厨房のほうに行ってしまった。夕飯の仕込みを手伝うのだろうか。


 私もまた仕事を探さないとな。今日、仕事を探しに行っていないのは、ギルドとヴァイアの店か。とりあえずギルドだろうか。


「フェルちゃん! ウェイトレスをクビになったって本当!?」


 ギルドに行こうとしたら、ディアが食堂に乗り込んできた。なにか面倒そうな予感がする。


「本当だ。今日からウェイトレスはしない」


 ディアがふらふらしながら倒れるようにテーブルの椅子に座った。プルプル震えているがどうしたのだろうか。スライムの真似か? 可愛くないぞ。


「おじさんに文句言ってくる。フェルちゃん、頑張ってたよ。クビになる必要はないよ!」


「いや、皆が納得しているから、そういうのはやめてくれ」


「私が納得してないよ!」


 一番関係のないお前の納得はいらんだろうが。


 タイミングが悪いことにロンが外から戻ってきた。間が悪い奴ってどこにでもいるな。


「おじさん! フェルちゃんをクビにするなんてひどいよ! 撤回して!」


「フェルが昨日食べ過ぎたから宿の商売が本当にギリギリなんだ。必要以上には雇えない。すまないとは思うがこれは決定事項だ」


「そこを何とか! フェルちゃんだって魔界から来て大変なんだよ!」


 いや、別に大変じゃないけど。むしろ、ウェイトレスをやっている方が大変だ。


 しかし、ディアは結構いい奴だな。私のために直談判してくれるとは。ちょっと感動した。


「フェルちゃんがクビになったら、ギルドの収入が減っちゃうじゃない!」


 感動を返せ。利子をつけて一括で返せ。

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