夜盗退治
スライムちゃん達から入り口付近にはもう誰も居ないから、近づいても大丈夫だと念話が届いた。
「入り口付近にはもう誰も居ないようだ。逃げ出せないように布陣してくれ」
ノストは頷くと、右手の人差し指と中指をぐるぐる回してから入り口を指した。ハンドサインか何かだろうか。兵士たちは音を立てずに入り口に近づいてから包囲した。
なぜかスライムちゃん達はその様子を見て何度も頷いていた。どうした。
「じゃあ、スライムちゃん達を送り込む。誰か逃げてきたら捕まえてくれ」
「はい、よろしくお願いします」
スライムちゃん達に洞窟に入って夜盗たちを捕まえてくるように命令した。
スライムちゃん達は頷くと洞窟の中に入っていった。とてもうれしそうだ。戦うのが好きなのかな。これは私の出番はなさそうだ。せっかくモップを強化したのに。
しばらくすると悲鳴が聞こえてきた。「またこいつらだ!」とか「火が効かねぇぞ!」とか「幼女怖い!」とか聞こえてくる。
何人か入り口から出てきたが、それは兵士達が捕まえた。よく訓練されているのか手際がいい。
そうしていると悲鳴も止まり、スライムちゃん達から、相手が降伏した、という念話が届いた。
「夜盗は降伏したらしい、どうする?」
「珍しいですね。まあ、スライム達に勝てないことを感じ取ったのでしょうか。とりあえず、武装を解除した状態でこちらに連れてくるようにお願いできますか?」
「わかった」
その旨をスライムちゃんに伝えると、すぐに連れていくと返してきた。
数分後、夜盗達はほとんどが気絶していて、スライムちゃん達が運んできた。そんな中、一人だけ頭の後ろで手を組んだ状態で出てくる。ギルドで私と話をした偽物の兵士だ。しかし、なんだろう。捕まったというのに余裕な感じだ。
「スライムは火に弱いんじゃねぇのかよ」
「弱いぞ。マグマに落とせば燃え尽きる」
スライムちゃん達がびくっとなった。いや、そんなことしないから。
ノストは連れてきた奴のギルドカードを手に取り、なにかチェックしている。
「お前が夜盗たちの頭領か?」
「さあな」
「ギルドカードをどうやって偽造した? 確認したがお前には犯罪歴が無い」
「なら俺はただの冒険者だろ。夜盗に捕まったただの哀れな男だよ」
ニヤニヤしている。殴りたい。言い逃れが出来る自信があるのだろうか。
そんなことよりも、ギルドカードは偽造できないものなのか。仕組みを知りたい。というか、ギルドカードを持っていなければ犯罪し放題なのだろうか。
「ロン、ギルドカードって偽造できないのか?」
「仕組みを知らないからわからん。ありゃ、魔法の分野だしな」
どんな魔法なんだろうか。結構気になる。
「ほら、解放してくれよ、俺は夜盗じゃねぇって」
「こういう場合どうなるんだ?」
「たとえ疑わしくても、ギルドカードで犯罪歴が認識できない場合は、夜盗や盗賊等の扱いにはなりません。しかし、ギルドから夜盗を連れ出していますし、間違いなく犯罪者なんですが……」
「おいおい、犯罪者扱いしないでくれよ」
なんか面倒だな。有無を言わさず殴ればいいのに。
「ノストはギルドカードの情報ってどういう仕組みなのか知っているか?」
「ええと、ギルドカードは記載されている名前に対して、分析魔法が使える魔道具なんです。名前をカードに登録すると本人とリンクしますので、それを分析魔法で読み取る、という形ですね。ほかにもカード自体に情報を記録することができます。討伐履歴とか依頼達成の可否とかですね。犯罪歴はカード自体の情報ではなく、本人の分析情報になります」
なるほど。ということは、同じ名前で別人のカードを持っている可能性が……いや、それはないな。同じ名前の奴は存在しないはずだ。
「もしかして、カードの名前が同名の別人だと考えていますか? 魔族の方がご存知かどうかは分かりませんが、同時期に同じ名前の人は存在しません。ですので、同じ名前の別人ということはあり得ません」
「同じ名前が存在しないことは知ってる。世界規則のことだろ。それは魔族も同じだ。ということは、こいつの名前とギルドカードの名前が違うのではないか? 名前の違う別の奴のカードとか」
「カードは分析魔法を使用すると発光します。他人なら赤、本人なら青、血縁者なら黄ですね。確認しましたが、これはこいつのカードです。おい、もう一度分析魔法を使用しろ」
「へいへい」
カードが青色に発光した。なるほど、間違いなく本人の物ということか。
「もういいだろう? 俺はただの人質だったってことだよ」
ノストは悔しそうにしている。そして私の方を見てきた。「何かないでしょうか?」という顔だ。仕方ないな。
「ちょっとまて。よく見てみる」
「そんなに見つめられたら、照れちまうよ」
「黙れ」
殺気を込めてそう言った。正直、腹が減った。この後も二時間かけて村に帰るのだ。ぐだぐだやっている暇はない。
……私がよく見ても名前は間違いない。ギルドカードに記載されている内容と同じだ。
そうなると分析魔法を何らかの形で防いでいる可能性がある。いや、防ぐというよりは偽装した情報を分析させているのだろうか。
少なくとも私の目には、犯罪歴が見えている。カードの分析魔法で表示される情報がおかしいのだ。
どうやって偽装しているのだろうか。もっとよく見よう。
……分かった。腕輪だ。
腕輪に偽装のスキルが付いている。それ以外の装備には偽装スキルが付いていないので、その腕輪で分析魔法をだましているのだろう。腕輪を外せば解決だ。
「腕輪をはずせ」
「なんだと?」
ニヤニヤしている顔が驚愕に変わった。その後に私を睨む。無駄だ、お前では私に恐怖は与えられん。
「どういうことでしょう?」
「そいつの腕輪が分析情報を偽装している。外した状態で分析魔法を使えば犯罪歴が分かるはずだ」
「本当ですか!? よし、腕輪を外させろ!」
兵士が二人、夜盗に近づいて腕輪を外そうと近寄った。
「気をつけろ、そいつ、服の袖にナイフを二本隠し持ってるぞ」
「くそっ!!」
しまった。夜盗も驚いたが、二人の兵士が驚いてこっちを見てしまった。その隙に夜盗が包囲を抜けて逃げだす。なかなかの身のこなしだ。
「くっ!! 追いかけろ!!」
ノストはすぐに兵士たちに命令を出したが、間に合わないだろうな。かなり速い。
「仕方ない、任せろ」
目に入る範囲なら私からは逃げられん。空間魔法で夜盗のすぐそばに転移した。足を引っかけて転ばせる。盛大に転んで痛そうだ。
「ぐっ!」
夜盗は転がりながら武器を袖から取り出し、両手にナイフを持った。
「クソが!!」
素早く急所を狙ってくるナイフ捌きはなかなかのものだ。しかし、当たったところで怪我はしなさそうだな。服が切れると嫌なので全力で躱すが。
「なんで当たらねぇ!!」
攻撃のほとんどが突きだし、フェイントをかけたり、持ち替えたりと色々やっているようだが遅すぎる。
「お前が遅いんだ。先手は譲ったぞ。次はこっちの番だ」
亜空間からモップを取り出して構える。安心しろ、いたぶるつもりはない。
転移で相手の横に移動し、モップで足を後ろから前に払った。仰向けに寝っ転がったので首元にモップを突き付ける――と思ったら、こいつ、首を両手で防御しやがった。
「ぐあ!!」
夜盗の腕が折れてしまった。当てる気はなかったんだけどな。反射神経があり過ぎるのも困ったもんだ。
でも、これはどうなんだろう。死んでないからセーフだと思う。いや、セーフだ。こいつが勝手に防御したのが悪い。とりあえず、今のうちに腕輪も外しておこう。
「フェルさん! 大丈夫ですか!」
ノスト達が遅れてやってきた。結構離れていたみたいだ。
「問題ない。終わったから縛り上げてくれ。腕輪は外したからギルドカードで犯罪歴が分かるはずだ」
ノストがすぐにギルドカードで分析魔法を使った。
「確かに先ほどと変わり、色々な情報が出てきました。これなら犯罪者として拘束できます」
「そうか、あとは任せる。あと、これが偽装する腕輪だ」
「ありがとうございます。この腕輪が何なのかはわかりませんが、証拠として預かります。これは別途調べておきますよ」
「よし、じゃあ、もう帰ろう。腹が減った」
一食逃したら生涯食べられる飯の量も減るんだぞ。
「すみません。洞窟内を調べないといけませんので、もうしばらくお待ちください」
くそう、夜盗共め。こいつらの朝飯を食ってやる。
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