ブラック勇者のめしつかい

夏目

第1話

「いよっしゃああああ! これで終わりだあっ!」|


 威勢のいい掛け声と共に勇者アーレンが剣を勢いよく振り下ろす。断末魔を残し、並の大人の二倍はあろう大猿の化物は、あっけなく真っ二つとなった。白髪銀毛の大猿、シルバーヘッドは、この辺り一帯では有名で凶悪な魔物だ。それをたったの一撃で倒したのは……。


「へへっ。今回も楽勝だったな。僕たちの手にかかれば、こんな猿なんて敵じゃあないぜ。」


「そうねえー……、忘れないで欲しいんやけど、ウチの火炎魔法が効いてたこと、忘れんといてよ?!」


「いやいや、俺の正拳突きっしよ? あれで猿野郎フラフラのボロボロだったし。」


「……。皆さん、お疲れ様でした。傷を癒したまえ、ホーリーヒール。 」


 楽しそうに話しているのは勇者アーレンのパーティメンバー4人。勇者アーレンを筆頭に、ギャル系ルックスで、化粧に余念がない魔道士メイチ。暇さえあれば筋トレの、ムキムキ脳筋系戦士デカムス。そして、パーティで最も落ち着いているお姉さん系な元シスターのガラシャ。


 普通の兵士なら500人掛けても倒せないシルバーヘッドを、わずか4人で一瞬のうちに葬った彼らは、国王から勇者として魔王討伐を命じられたエリートなのだ。


 そして、俺は、そのパーティメンバーのひとり……。正確には、4人ブラスアルファのアルファの部分にあたる


『勇者のめしつかい』だ。


 シルバーヘッドをアーレンが斬り伏せたとき、俺が真っ先に思ったこと。それは、これで襲われていた村が平和になってよかったー。でもなければ、勇者の名声が上がる。でもない。報酬が上がるな、なんてことですらない。


 ただただ、これで『勇者から殴られないで済む。』と、ホッとしただけだった。

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