第2話 探偵小説の真使命
2 探偵小説の真使命
なんとなく習慣になってしまった早起きのせいで教室に来るのはいつも一番最初だ。でも寝起きがいいというわけでもなくてまぶたは重い。ただ誰かとすれ違うような時間の登校なんていいことは一つもない。なのでいつも早起きしてはホームルームまでの時間をモヨコは机に倒れこむことにしている。
夢の中でもお兄様に会えるようになんて思いながら。
教室がだんだんとざわめいて来てるので他のクラスメイトももう登校してきているのだろう。
蝉の声が聴こえるとはいえまだ本格的な暑さには遠く、まどろむにはとても気持ちがいい。
「モーヨーコー…」
恨みがましい声が聞こえて不機嫌そうにモヨコは顔を上げた。げっそりした表情の絢香。頭の上にはやはり黒い靄が浮かんだままだ。
「なによ、今寝ているの、わかるでしょう」
「もう学校なんだからいい加減起きなさいよ!ったく昨日はさっさと先に帰るから」
「しかたがないじゃない、時間遅かったし。それよりも」
モヨコは教室の様子を伺った。台風の目のようにクラスメイトから孤立したモヨコに話しかけるのはクラスどころか町中で一番視線を集めるといっても過言じゃない転校生の絢香。
周りは二人の様子を見守っていた。まるで動物園の檻の中のようであまりいい気分はしない。
「いいの?わたしなんかに話しかけたら井ノ口さんも変な目で見られるかもしれない」
「見た目こんなだからとっくのとうに変な目で見られてるよ。ぜんぜん問題ない」
と絢香は金髪のツインテールを指でいじってみせる。だけどモヨコは机に向かったまま顔を挙げずにぼそぼそと言葉を紡いだ
「そういう意味じゃなくて、わたし、嫌われているというか…だから井ノ口さんもみんなの前じゃわたしに」
「話しかけないほうがいいって?昨日はあれだけ堂々としてたのになんか急に弱気じゃん」
「…」
「そんなのはモヨコが気にすることじゃない。友達でしょ」
「その言葉の意味…意外と重いのよ?」
「素直にありがとうって言えばいいのに」
「ええ、そうね。でもその言葉の意味はきっと後悔させてあげるわ」
「うえ、な、なんでそんな捨てゼリフ風なのよ!なんか話の流れ的におかしいよね?よね?」
「そんなことはないと思うけれど?」
「むっかつくなー!あ、さすがに教室じゃ昨日の話の続きはしにくいからさ、放課後またいいかな」
「長くならないならね。早く家に帰ってお兄様とイチャイチャしないといけないから」
「ああ、お兄様とイチャイチャ…ね、はい」
絢香は昨日で学んでいるので余計なことは言わないのだ。
そこで教室の前の扉が開いた。
「みんなっおおおおっっはよーーー!!!」
今日はいつも以上に元気がだだ漏れている女教師の登場である。さて朝っぱらからこのご機嫌の理由はなんだろうか、と思いながらみんながいそいそと机の位置に戻るのだった。
一時間目の授業が終わって休み時間に入ると早速モヨコの予想通りの展開だ。机に突っ伏したモヨコは薄く目を開けて絢香の様子を伺っていた。クラスメイトに未だ囲まれている絢香はやっぱりモヨコとの関係について質問されている。
「友達ってホント?やめといたほうがいいのに…」
「そうだよなにかあってからじゃ絶対遅いって」
「だいたいなんで友達になろうと思ったの?」
「別に友達をどう選ぼうとわたしの勝手でいいじゃん…」
疲れた、と言葉にしなくてもにじみ出ている。クラスメイトたちの表情が若干こわばったのをモヨコは見逃さない。だから言ったのに…、と。
「そりゃ普通の人間ならね。でもアレはモヨコじゃん」
「そうそう、いったいどれだけみんながめいわくかけられたっていうかさー」
これ以上は聴いていたくないな、とモヨコは本格的に目を閉じることにした。学校なんて義務じゃなかったらいいのに。とかく教室の中は倦怠にみちみちている。
「なんかみんなモヨコモヨコって、ホントはモヨコのこと大好きなんじゃないの?そんなに口をそろえて言うことでもないじゃん」
「ばっ、誰があんなやつ!」
「そーよそーよ!」
「そう思うならもう話題にも挙げなくていいじゃん。お互い疲れるでしょ」
「いや、ただ転校生に気をつけなよって意味ぐらいで…」
「まぁすでに別の理由で身の危険を感じているから一つや二つ増えても一緒よ」
「え?」
「なんていったの?」
「さてね」
結局それっきりでモヨコの話題は打ち切り、それどころか頑なな絢香の態度でなんかモヨコの話をすること自体がちょっとタブーみたいな感じになった。はっきりしたフォローを絢香はしてくれたわけじゃなかったけれどそれでモヨコは十分だった。むしろ最善だったかもしれない。
ここで友情熱く絢香がクラスメイトたちを批判すればきっとモヨコにもとばっちりが来ただろうし絢香にも大なり小なり何かあるだろう。だから結局無かったこと、にする絢香のやり方は嬉しかった。
それでいてもちろん、友達だ、の一言はなかったことにしなかったのも。
ということで休憩時間も昼休みも絢香とは多少何度か目が合うだけでろくに話もしなかったのだけど今日もいつもどおりモヨコは一人居残って教室の掃除をしていた。
「おいーっすモヨコー」
今日は学んだのか立て付けのいい前側の扉から現れる絢香。
「あれ、掃除当番アンタだけ?そんなわけないよね」
「別に負け惜しみにとってもらって構わないのだけれど一人でやるほうが気楽だからこれでいいわ」
「ん、まぁそうだよね。それより今日も相談なんだけど…」
「ええ、わかっているわ。愛さんの事件のことでしょう?」
本当は関わりたくないのだけどそれはいえなかった。
「んじゃとっとと終わらせてウチに行こっか」
と、片隅に置かれたバケツから雑巾を取り出す。
「わたし一人で平気よ」
「早く終わったほうがいろいろ話が進むじゃん」
「そう、なら構わないけど、お礼は言わないから」
「モヨコ変な所でプライド高すぎるよ!」
「だってわたしが頼んだわけじゃないから…」
「そりゃそうだけどさ、そうだけどさぁ!」
「仕方ないわね。こんなサービスめったにしないんだからね」
「あ、頭は撫でなくていいよ!!なんで子供扱いするのよ!同い年なのに!」
「え、昨日さんざん幼児化してたから、かしら?」
「あ、あんなのはさっさと忘れなさいよね!!そもそもあの幽霊がいけないのよあの幽霊が!!」
「でも本気で怖がってたわよね、ふふ」
「そんなわけあるかー!そんなわけあるかー!」
「焦りが見事に繰り返される発言に出てるわ」
「大切なことだから二度言っただけなのに!!ああもう全然口じゃ勝てる気がしないわ!さっさと掃除終わらせるわよ!」
雑巾を鷲掴みの絢香はのっしのっしと教壇の方へ歩いて行く。モヨコはその背中を見ながらひとりごちた。
「ええそうね、ありがとう」
「えーなんかいった?」
振り向く絢香。
「空耳じゃないの?」
教室の外ではセミが鳴いている。
二度目となる旧若林邸、そして今では井ノ口一家が住んでいるここへとモヨコは訪れた。昨日に比べればまだ充分に日は高く、その分時間もある。今日は
こってりと絢香につかまりそうで、そして若林愛になんとなく負い目を感じているモヨコはすでに肩をおとしていた。とても張り切って事件の謎を追おうなんて思えない。
「さて…と、はい」
「えっとなんでわたしに鍵を渡すのかしら?ここはあなたの家なんだから自分で鍵ぐらい開ければいいじゃない」
「…さすがのわたしも1週間も繰り返されれば学ぶからね。これ以上あの幽霊に好き勝手されたくないじゃん!」
「むしろ一週間経つまで無警戒だったあなたの頭のほうが心配だわ」
「うっるさいなー!もしこれがモヨコだったら一ヶ月たってもひえぁあぁぁ!なんて」
「なんて?」
「うぐっ」
モヨコの目がすっと細められたせいで絢香の体感温度がグッと下がる。やはり下手なことは口走れない。
「なんてことはないと思うんだけど、やっぱりモヨコさんしっかりしてるなー憧れちゃうなーあははー…ってことでその逆にあの幽霊を驚かしたいわけだよ!」
「だいぶ白々しかったのはきいてなかったことにしてあげる。でもそんなの自分でやればいいじゃない。わたしがやる必要なんてないでしょ。というかもしかしなくてもわかってても開けるのが怖いの?」
「そ、そそそ、そんなわけないじゃん…バレバレの手品が興ざめのように毎回おんなじことを繰り返す幽霊なんてこここ滑稽なだけだわ!」
「なんか妙に芝居がかった言い方するけれど、そんなに自信満々なら別にわたしが手を貸す必要なんてこれっぽちもないと思うのだけれど?」
「あ、あったりまえじゃない!このわたしを一体誰と思ってるの!近代科学の申し子!理論武装で幽霊の正体なんて二秒で科学的に否定できる!井ノ口絢香なのよ!」
「なんかよくわからない肩書きだけどそれじゃあ頑張って」
「ま、まっかせなさいよー…よー…」
語尾がだんだんと弱々しく消えいくのだがモヨコは完全無視。モヨコだって正直やりたくないことに付き合わされてるのだからこれぐらい構わないだろう。
「幽霊出てこいオラー!シャーコノヤロー!」
と明らかに虚勢とわかる気合を入れて鍵をひねる。
「ぶらーん」
「ギヤァァァァあああああ!!」
昨日と同じように血だらけでぶら下がっている幽霊が底にいるのだがさすがにこれほど予想通りだと…と全く動揺してないモヨコと裏腹に早速鍵をほうり投げて抱きついてくる絢香。
「お、おば…」
「科学の力で完全否定なんでしょう?」
「そ、そうアレは科学的に幻覚で幽霊じゃないんだけどいくらわたしが科学の申し子であっても怖い幻覚っていうのは怖いじゃない!」
取り敢えず今日はぎりぎり踏みとどまってるあたりなんとか絢香も頑張ってる。
「はーい愛さん、いい加減毎日そんなイジワルするのやめてあげてください…そもそもその意地悪のために使うエネルギーも井ノ口さんから搾取してるんでしょう」
「ひどいなー、わたしは愛じゃなくてエル=ラヴリだっていってるのにー」
「そ、そんなことどうでもいいよ!アンタのそのイタズラってほんとにわたしのエネルギー使ってやってるの!?」
「うんー!」
にぱーっとぶら下がったまま最高の笑顔を見せる幽霊。
「そんなとこで元気のいい返事は聞きたくなかった!!」
「井ノ口さん、あなたって本当に巻き込まれ損ね」
「たいへんだねーあやかちゃん」
「だ、誰のせいと思ってるのよ!」
「んー…ひょっとするとわたし?」
「ひょっとしなくてもそうなんだってば!!」
家の中に通された。空き家だったとはいえ期間は2年ほどだし管理していた不動産が手際が良かったせいかこの前まで無人だったとはとても思えない。
玄関から土間を抜けていわゆる客間に通されたモヨコであったが畳の上に金髪碧眼の外人がいるのはやっぱりちょっと違和感を感じてしまう。足の低いちゃぶ台の周りにちょこんと座って待機している幽霊も場違いといえば場違いなんだけど。
ちゃぶ台の上には麦茶が二つ。
「えーわたしのはー」
ほっぺたをふくらませて抗議する幽霊であるのだが。
「あんた飲めるの…?」
「ジャバーって下にこぼすと思う!」
「じゃあ取りあえず持つことは出来るの!?」
「…むり?」
「でまぁあいかわらず話が進まないわけだけど結局事件の捜査ってどうなってるの?」
「その前にモヨコはこの幽霊が殺された事件のことってどれぐらい知ってる?」
「あの、あのね!わたしにはエルラヴリっていうかわいい名前がー」
「わたしに聞くより被害者本人がいるんだからそっちが早くないかしら?」
「…コホン。それより昨日はこの幽霊の本名もわかったことだしとりあえずわたしもインターネットで調べてみたんだけど」
多分そこに考えが至らなかったんだろうなとは思ったのだけどごまかすように咳払いした絢香の顔をとりあえず立ててあげる。
「まぁこんなかんじよね」
とプリントアウトした紙をちゃぶ台の上に広げる。その一枚をつまみ上げるモヨコ。
「それにしても未解決殺人事件を集めてファイリングするなんて趣味の悪いホームページもあるものね…」
「まぁそのおかげでこうやって簡単に事件のことを調べられたんだし。幽霊もなんか違うところあったら言ってね」
「だから幽霊じゃなくてエルラヴリー、なるほど、そんなのしてるから昨日は全然相手してくれなかったのか」
「なんか割とあなた達共同生活楽しんでそうじゃない」
「うんたのしいよー」
「そんなわけないじゃんっ!」
「え、あやかちゃん…わたしの一方通行…?」
「毎日生気吸い取ってる相手と楽しく過ごせるとか思ってるの!?」
「あうー」
「しかしこれって…」
モヨコの目は××県○◯郡△△町での女子高生殺人事件、を指さしている。つまり若林愛の事件だ。
「う、うん、マジでこれって…どうなの、モヨコ、本当のところ?」
絢香の方は不謹慎にも笑いを堪えられない様子。
「わたしは逆に身近すぎてその、怖くてちゃんとニュースとか見れなかったし親たちもあんまり話し聞かせないようにしてたから…ただ単に鈍器で頭を殴打された上での失血死なんてぐらいにしか知らないわ」
「それにしてもこの事件名はないわー、ぷっ」
そこにかかれていたのはこんな事件名である。
『未解決事件:女子高生豆腐の角で殴られて死亡?
:詳しく読むはこちらから
201×年6月16日未明 ××県○◯郡△△町にて女子高生が頭部を殴打され失血死する事件が発生。殺人事件として××県警は捜査本部を立ち上げるが今のところ犯人につながる有力な情報はない。捜査は現在も継続中である。現場である女子高生の自宅は当時は内側から鍵がかかっており、犯人は家人とは親しく合鍵等を作れる程度の親しい間柄だったと思われる。また現場には凶器の類はなく、血にまみれた豆腐が一丁落ちていた』
「見てよこの屈辱!!こんな風にわたしのこと全然知らない人にまで笑われちゃうんだよー。わたしなんて殺されているのにーなんで笑われないといけないのー」
「あ、ごめん、それはたしかに悪かったわ」
「でしょー」
「…豆腐」
「ぶふっ」
「そう言えば豆腐の角に頭をぶつけて死ねなんて捨て台詞が昔はあったみたいだけど」
「や、やめ、モヨコ、やめ」
「モヨコちゃんまでひどいよぅー!わたしわりといい年だけど泣くよ?年下に泣かされちゃうよ?」
「とりあえず被害者本人がいることだし確認しておきましょうか。愛さんはこの事件をどこまで覚えているの?」
「あいかわらずスルースキル高い…羨ましい」
「なんか納得できないんだけど…えっと…なんか頭がいたいって思って気がついたらこのとおり、頭から血を流したわたしと、豆腐が落ちていたの…そしたらね、わたしの前に死神が現れたんだ。そしてその死神が」
「えっとちょっと話止めてもらっていい?」
「なんで?」
「いやさらりと流すにはとんでもない単語を出したわよね?」
「なにが?」
「死神って…いったよね?」
「そりゃわたし死んだんだものー。死神だって魂を回収に来るよ」
「…死神なんているわけない死神なんているわけないそんなのって全然科学的じゃない」
「井ノ口さんも耳塞いでブツブツ言ってないでちゃんと話し聞きなさい。これはあなたの事件でもあるんだから」
「わ、解ってるよ…」
「それじゃ愛さんよろしく」
「いつになったらエルラヴリって呼んでくれるのかなー、ま、それはともかくわたしの前に現れた死神はすごくいい人だったの。足元の血のついた豆腐を見て、すごくわたしに同情してくれてたみたいでね。
『なんだったら豆腐をレンガに変えてやり直すこともできるけどどうする?まぁレンガだからさっきよりすっごく痛いとは思うけれど過ぎ去れば一瞬だし』
だから痛いのは嫌だなー、どっちかというと仕返ししたいなーって思って。
『でもその状態というのはとても不安定で3日も立たずに完全に無に帰ることになるけれど』
それも嫌だなーって」
「ちょっとまって、えっと、アンタすごいわがまま」
「よく言われる、照れるー」
「褒めてない、全ッ然褒めてない!!」
「井ノ口さん話が進まないから黙って」
「それにモヨコわたしにだけすっごい冷たいよね!」
「今に始まったことじゃないし黙りなさい」
「うぅ…はい」
しゅんと肩を落とす絢香。大丈夫かな、とモヨコの様子をうかがって再び幽霊は語り始める。
「わたしをこの世に縛り付けておくためにはわたしの未練とか恨みとかそういうエネルギーが低すぎるらしいの。なんでだろうねーわたしだってすっごい犯人のこと恨んでるのに。だから死神が言ったんだ。
『君には協力者が必要だから、その相手が現れるのをまつしかない。だからいまはおとなしく眠っておきなさい。ただまぁ不安定な弱い魂をこの世に縛り付けるというのは思ったよりも生気を使う大変な作業なんだ。君の協力者はひょっとしたら君次第では3ヶ月も持たないかもしれないね』」
「今さらりととんでもない発言をわたしは聞いてしまったわ」
「う、え、あ、うぐ・・・」
絢香にしては言葉もでない。突然つきつけられた余命に対して一体どうコメントをすればいいのやら、いや、遥か未来どころかうまく想像も出来なかった死という絶対の感触がすぐそこまで近づいているというのだから。
「井ノ口さん落ち着いて」
「お、落ち着けるわけないじゃない!!あと、3ヶ月だよ!?そんなしかもこんな意味のわからないことに巻き込まれて死んじゃうなんて誰が!!」
「そう決まったわけじゃないわ」
「そうだよ、わたしがじょうぶつさえできればいいんだしー」
「クソ幽霊!うるさい!誰のせいでこんな目にあってると思うのよ!!なんでアンタのワガママなんかに!」
「あ、うー、そ、それは…」
「今当たり散らしてもどうしようもないでしょう」
「モヨコはいいよね!他人事なんだから!死なないんだからなんとでも言えるじゃん!」
「まぁそれはそうだけど、それでも割とあなたの協力者になりたいとは思ってるから」
「そんなのは今はいいよ…なんなのよこれ…うぅ」
泣き出した絢香に対してモヨコはそっと背中に手を当てた。振り払うようなことを絢香はしない。
「安心しなさい、冥府魔道ぐらい一緒に歩いてあげるのが友達でしょう。愛さん、わたしからも生気を取るようにはできないの?」
「…わかんない、いまあやかちゃんの上に浮いてるのもわたしがつけたわけじゃないし」
「なんかとことん引っ掻き回すだけね…」
「うー、照れる」
「だから褒めてないってば…それにしてもどうしたものかしら…正攻法で本当に愛さんの恨みをはらすしか方法はないのかしら」
「そりゃあやかちゃんには申し訳ないと思うけど…でも本当に恨みさえはらせたらすぐにでも成仏するから大丈夫だよー」
「1つだけ確認しておきたいんだけど、愛さんはちゃんと成仏の仕方わかっているのかしら?」
「失礼な!わたしがいったい何年幽霊やってると思うのよー!成仏の仕方ぐらい」
「2年でしょ。普通は成仏の仕方がわからないから幽霊になるものじゃないの?」
「大丈夫だよー、ちゃんとその時がきたら死神さんが回収しに来てくれるって言ってたから」
「ならいいんだけど…それにしても成仏と死神が回収ってどうにも世界観ごちゃまぜって感じね。確かお葬式も普通にお坊さんが来てたと思うのに。まぁ考えてもしょうがないことね。
井ノ口さんはとりあえずそこで落ち着くまでじっとしてていいから。わたし達は今ある情報をまとめることにしましょう。捜査もなにもまだ指針を立てることもできないわ、こんな状況じゃ」
「なんかモヨコちゃんが仕切ると急に本格的だなー。まるで探偵小説でも読んでるみたい。
そーだ、せっかくだからみんなで探偵名でもつけようよー」
「…愛さん、なんでそこまで自由」
さすがのモヨコも苛立ちを通り越して呆れきってしまう。
「だ、だってなんか暗い感じだからちょっとは楽しくしようと」
「気を使ってくれるのはありがたいのだけど原因の全てはあなただからね?そこはちゃんと反省してるのよね?」
「こ、怖いよー?大丈夫です、まじめにやります、ちゃんとやります、やれば出来る子ですー」
「なんか泣くのが馬鹿馬鹿しくなってきた…」
「本当にあなたには同情するわ」
絢香の肩をポンと叩くモヨコ。
「ってことではいはいーはーい!わたしね、実はずっと前から決めてたんだ!わたしは幽霊探偵L=ラヴリ!世界が羨むS級探偵だよー!」
勢い良く右手を上げて普段の二倍火の玉を浮かべながら満足気な幽霊。幽霊のくせに無駄に生き生きしてる。
「推理方法はー『枯れ尾花』!なんと被害者の幽霊を見て犯人を当てるんだよ!もちろん『幽霊の正体見たり枯れ尾花』からとってあるのだー!」
S級とか推理方法とか分かる人にしかわからない探偵小説のネタを散りばめてくるあたり年齢以上に子どもっぽい。
「胸張って鼻高々なのはいいのだけどじゃあ若林さん今から洗面所に行ってくれるかしら?」
「え、なんでー?」
「だってあなたの推理方法でしょう?」
「え、あ、あう?」
「ああ、なるほど!そうじゃん!バカ幽霊が洗面所行って鏡見れば全部解決じゃん!」
「う、あー…な、なるほどー」
「ええ、あなたの推理は被害者の幽霊を見て犯人を当てるのでしょう?だったら鏡で自分の姿を見れば万事解決のはずだわ」
「ははーこいつはお姉さん一本とられちゃったなー」
「笑ってごまかせると思う?そんなに子ども扱いされるとは思わなかったわ」
「ご、ごめんね?」
「S級探偵(笑)。カッコイイなー憧れちゃうなー(棒)」
「あやかちゃんまでここぞとばかりに冷たいよー?」
「愛さんそうされたって文句言えないぐらいのことしてるよね」
「くー、な、なんて洞察力、モヨコちゃんすごい!じゃ、じゃあわたしがモヨコちゃんにすっごくカッコイイ探偵ネームつけてあげるね!えっと、せめてものお詫びっていうか…うーん、なにがいいかなー」
不利を感じて強引すぎる話題変更を試みる幽霊さんなのだ。
「別に頼んでないからね?」
「んーモヨコちゃんといえば…黒髪…でもなー黒髪美少女ってなんか属性的に弱いよなーむむむ」
腕を組んで頭をひねる幽霊。それに合わせるように浮かぶ火の玉も位置を変える。
「愛さん、話し聞いてる?」
「きいてるきいてるよーとびっきりカッコイイ探偵ネームつけてあげるからそんな焦らずにまっててね!」
「井ノ口さん、どうにかしてよ」
「どうにかっていわれても…ていうかなんでわたしにそれをいうのよ」
「だって愛さんってこの家とセットの存在でしょ?だったら家の持ち主の井ノ口さんが責任取らなきゃ。犬の散歩だって途中でうんこしたら飼い主が拾うでしょう?それと同じことよ」
「ちょ、待て、誰が飼い主だーっ!!」
「愛さんのなんだろう、存在に必要なエネルギーってほら、井ノ口さんの頭の上に浮いてる黒いのが井ノ口さんから吸い取ってるわけでしょう?じゃあ井ノ口さんが餌あげてるようなものじゃないかしら?」
「むしろ奪われてるんだっつうの…わたしは」
幽霊はそんなこと全く聞こえていない様子である。
「えっとねぇ…もっと絶対的な個性っていうかインパクトっていうか…そういうのがすごく大事だし…うーん、そうだ!決まったよー!
今日からモヨコちゃんは絶対探偵!絶対探偵呉モヨコだ!!」
「はいはい、ありがとう」
「なんでそんな投げやりなのー?まだ全然説明終わってないから!絶対探偵の推理方法は『絶対推理』なの!!何と絶対の力で考える前に答えがわかるんだよー」
「わたしはその原理が全然わからないわ」
「それはあたりまえのことだよー。だって人間の長い歴史で未だただ一人として『絶対の真理』に辿りつけた人なんていないんだから。それと同じでこの『絶対推理』はだれひとり原理を解明することができないのです」
「愛さんの割にはうまくまとめたわね、って褒めておけばいいのかしら…」
「っていうか幽霊が一番遊びすぎなんじゃないの?命かかってるってわかったんだから今日からはもっとまじめに事件の捜査に乗り出す必要があるじゃん。ちゃんとしてよ」
「あやかちゃん名前考えてもらえないからってすねちゃったの?でもだいじょうぶ!実はあやかちゃんの探偵ネームはもう考えてありますー」
「誰もそんなこと言ってない言ってない!げんこつの一つでも落としてやりたいのにすり抜けるのが癪だわ、あの頭小突いてやりたい」
「お塩、準備しておいた方がよかったかしら?」
「ちょっと台所行ってくるか」
「ノー!カムバックトゥーミーアヤーカー」
変な外人訛りで追いすがろうとする幽霊だがその手はやはり洋服の裾もつかめない。
「ちょっとはまじめにヤル気でた?アンタの問題なんだからアンタが遊んでたら迷惑なのよ。それはちゃんと刻んでおいてよね」
「わかってるよー外人探偵井ノ口ちゃん」
「ははぁ、反省がねーわ」
ふたたび立ち上がる絢香。
「ノーノー!アイム超反省なのだよー」
「とても元高校3年生のセリフとは思えないわね、まったく」
「わかったらそこに座れ、幽霊」
「はーい…色々探偵能力も考えてたのに…」
幽霊はちょこんと畳の上に正座した。やっぱりちょっとは反省していたのである。
「さてやっとで事件の捜査に入るわけだけど」
丸いちゃぶ台を囲んで三人顔を付き合わせる。なぜか自然と進行役はモヨコが請け負うことになっていた。ちゃぶ台の上にはいくつもの紙切れが積み重なりまるで本当の捜査会議みたいだ。ただしその紙切れは全てインターネットで検索した真偽不明なものばかりである、ということを除けば。
「わたしもこういうのってテレビやマンガでしか見たことないから基本それと同じ方法をたどっていくとするけど問題はあるかしら?」
「ないよー」
「よくわかんないからとりあえずモヨコに任せるわ」
しょっぱなから会議はつまづきそうな雰囲気がありありとわき出ている。まぁモヨコも素人3人、そして最も事件についての情報を握っていそうな幽霊が頭がお花畑状態では大した進展はないだろうな、とは割り切っている。
それでも手持ちの情報を整理すること、自分たちの持ち札を確認すること、そして勝利条件(今回の場合は犯人および、居場所の確定になる)に近づけるための手段、あるいはその要素を探すことは大切である。
「とりあえず殺人事件の解明、容疑者の選定、この2つで犯人を特定するのが一番ありふれたパターンだと思うわ。まぁだいたいの推理小説やミステリの場合すでに登場している人物の中に犯人がいるのが常識だけどこれは現実だからそうもうまく行かないわね」
「ん、あれ、動機とかは?」
「動機は補足であって絶対条件ではないわ。ミステリだとお話によって違うけれど犯人を指摘した時に勝手にべらべら喋るパターンと捜査と並行してつながるものを見つけるパターンとかがあるわ。今回は容疑者候補についてもまず期待できないし、動機についてはまず容疑者候補を探してからになるわ」
「えー?容疑者誰もいないのー?」
「じゃあ愛さんに聞くけれどあなた死ぬほど誰かの恨み買っていたかしら?」
「え、わたしがそんなことするように見えるの?ひどいよー」
「あ、こりゃきくだけ無駄だ」
「わたしもきく前から気づいていたわ。
ということで手始めにまずは殺人方法の特定ね。その結果から何らかの犯人を探すためのヒントを見つけましょう。それじゃまずは状況のおさらいからいきましょうか」
「なんかすごいねーモヨコちゃんって本当に探偵みたいー」
「正直モヨコを選んでよかった…」
「相槌以外の発言もしてくれたほうがわたしも助かるのだけど期待するだけ無意味ね、はぁ。
まずはインターネット上で得られた情報からね」
そして先程の記事を反芻する。若林愛は自室にて殺されていたこと。施錠されたままであり窓なども内側から鍵が下ろしてあったこと。
補足であるが典型的な田舎の日本家屋であるこの家だが2階はリフォームされていたためフローリングだ。若林愛の自室もそうで一階のような襖で仕切られた部屋じゃなくきちんと鍵をかけれる扉がついている。ただし外鍵はなく内側からかけるのみのタイプだ。現実では珍しいまさに推理小説的密室だ。そして被害者の傍らには血にまみれた豆腐が一つ。
ネットの記事によれば豆腐に関しては形は崩れておらず、元の形を保っていたこと。凶器、指紋、足跡のたぐいは現場からは検出されず、また髪や体液といったものも発見されていない、といったことを記してある。
「これだけ見ればとりあえず計画犯罪であることが窺い知れるわね。つまりどういうことかわかるかしら?」
「あやかちゃんきかれてるよー」
「え、なんでよ、幽霊が答えなさいよ」
ため息をつきながら頭をかかえるしかないモヨコ。
「計画的っていうことはね、やっぱり被害者である愛さんと犯人は面識があった可能性が高まるの。
突発的な犯罪ならここまで完璧に痕跡を消すのは無理だし、若林さんの部屋を密室にするようなトリックを扱えるのも事前にある程度はこの家のことを把握していたからだとも考えられるわ。
となると容疑者という線で絞るならまずはこの家に来たことがある若林さんの知り合いから狭めていくのが基本となるのかしら。
それと密室のトリックに関しては時間が経ちすぎているし業者が立ち入って清掃もしていることだろうからそれについての痕跡や証拠を探すのはまず無理と見ていいでしょうね」
「なんだかんだで一番モヨコちゃん輝いてるー」
「口を挟む隙間がない」
「なんかわたしが一番張り切ってるみたいな空気にしないで欲しいのだけれど…そもそも一番無関係なのはわたしなんだからね」
「でもでも完璧だよ。わたしじゃこうはいかないよー」
「年長者の愛さんに本当は仕切ってもらいたいのだけど。張本人だし。
もうそれについてはどうこういってもしょうがないから今度はこのネットで得た情報について、愛さんの覚えている範囲で訂正すること、あるいはここに書かれていない事実なんてあるかしら?」
「待ってね、ちゃんと読むから」
とテーブルにぐーっと顔を近づける幽霊。
「あ、ひょっとして幽霊だから持てないからそうやって見るしかないんだ?」
「そうよね、このとおりスカスカだし、頭、もしかして何も入ってないのかしら」
モヨコは手をブンブンふる。それは幽霊の頭をカスカスと透過する。
「あの、モヨコちゃん、それ割と邪魔っていうかさすがにわたしもイラッと…」
「ごめんなさい、悪気はないのよ、それで?」
「絶対悪気あったよーもー!
それにしてもいやー意外と詳しく書いてあるなーって思います、はい」
「…やっぱり無駄だったようね。ところで凶器についてだけど本当に豆腐でいいの?」
「え、だって現場には血のついた豆腐しか落ちていなかったんじゃないっけ?だったらそれで確定じゃん」
「普通に考えて死ぬほどの力で豆腐叩きつけるならまず豆腐のほうが崩れるでしょう。そもそも豆腐で人を殺せる、というところを認められるかがまずは問題なのだけれどそこは考えないことにしても人を殴った豆腐が無事であるわけないじゃない」
「凍らせて殴れば普通にいけるんじゃ?」
「まぁ凍らせれば確かにいけるかもしれないわ。形も崩れないかもしれない。でもね、一度凍らせた豆腐は中身カスカスなスポンジ状になるの。水分と大豆の凝固点っていうのかしら、その温度の違いのせいでね、凍った水分で豆腐の中身はズタズタになるの。で、この現場の豆腐は一体どうだったのかしら?」
「なんかモヨコって変なところ詳しい。普通そんなの知らないでしょ」
「わたしも正直これっていつ役に立つのかわからない無駄な知識とは思うわ…新しい冷蔵庫がおうちに来た時に今まで冷凍室が上で野菜室が下だったからそのつもりで入れておいたら実は逆で凍っちゃったことがあるのよ。で、とりあえず溶かしてみたらそうだったからね、
とりあえず今言えるたった一つの真実は豆腐はちゃんと冷蔵室で保管しようねってことだけよ…で、愛さん覚えてる?」
幽霊は頭を捻って記憶を探る。
「んー、ん…どうなんだろう…そこまでちゃんと見てなかったっていうか…」
「まぁ実際はそうなのが普通なんだろうけどでもここま被害者張本人がなんにも情報もってないって…それはあまりにもお話にならないわ」
「えうー、なんか今日すっごいモヨコちゃん辛辣じゃないです?」
「正直被害者っていう最も重要な情報を握ってるはずの協力者がこんなだと仮にわたしじゃなくても憤りや憤懣を覚えてしまうことは想像に難くないわね。
そもそも本来ならわたしはもう今ごろ家でお兄様とイチャイチャしてるのよ?その時間を奪っている自覚というのがちょっとはあるのかしら?まぁないでしょうね、あるとしたらだって」
くどくどとお説教を始めたモヨコ。絢香は幽霊の耳元に顔を近づけて囁く。
「おい、幽霊、これめっちゃ長くなるパターンだから早く謝って」
「わ、わかってるよー。
あ、あの、ゴメンねモヨコちゃん」
「なにについて謝ってるのかしら」
「えっと、その、それは…」
「ほらね、反省してないからとりあえず謝っとけっていう姿勢になるのよ。わかる?それこそ」
あちゃーと頭を抱える絢香と、口を挟もうにも挟めないモヨコのマシンガン説教に幽霊はただしゅんとおとなしくきくしかない。
ひとしきりのお説教が続いたあとさすがにモヨコも喉が乾いて麦茶をごくごく一気に飲み干した。
「ふぅ。凶器についてもとりあえず考える余地ありね…」
「あ、でも凶器は豆腐って死神さんが断言してたよー。死神といっても神様なんだし神様が間違えるわけないんじゃないかなぁ」
「神様がでも嘘をつかないとは限らないでしょう?案外ただのコンクリートとかブロックで殴って同じ形に整えた豆腐を置いていっただけ、なんて可能性も…
…そうか、その手があったわね。愛さん、死神さんって今呼ぶことができる?」
「どうだろ…たまにわたしの様子見に来てくれるけどー普段は仕事忙しいみたい」
「死神の仕事が忙しいっていうのはそれだけ回収される魂が多いってことよね…素直に喜べないわ。まぁ豆腐が凍ってたか凍っていなかったか、調べればわかることじゃないかもしれないけれどそれは井ノ口さん調べてくれる?
豆腐が凍っていたとなれば凶器についてはこれ以上考えなくてもいいわ。そっちの方がよっぽど人間の仕業って感じで分かりやすいし」
「え、わたし?」
「あなたも愛さんの次に当事者なんだからそれぐらいやってくれないと困るわ。インターネットで調べられる範囲で構わないから、よろしく」
「あー、まぁしょうがないよね、わかった。そっちは任せて。他にネットで調べられそうなことなら調べるよ」
「とりあえず今のところわたし達の手持ちの情報はこれぐらいなものね。次はわたし達の手札を確認してみましょう。一体どういう方法で捜査ができるのか、ということ
まずは井ノ口さん。井ノ口さんはインターネットでおおまかな事件の情報や調べたいことが出てきた時に大雑把な情報を仕入れることができる。まぁネットの情報なんて嘘も混じってるでしょうけれどないよりはましだわ」
「ああ、うん、まぁそれがわたしの仕事だよね」
「次は愛さん、ところで井ノ口さん、家族は愛さんの存在に気づいてるの?」
「ああ、いや全然、見えてないみたい」
「わたしってば幽霊だからねーそう簡単に誰にでも見えたら困るよー」
「そう、じゃあ隠密スキル持ちってことでいいのね。なかなか入れない場所とかひょっとしたら出てくるかもしれない。例えば事件の資料を警察に見に行ったりとかね。そういう場面が来ればやっとで愛さんが役に立つ時が来るわ」
「えーっとモヨコちゃん、それ、無理だから、ゴメンね?」
「は?」
「だってわたし地縛霊だし…この家から離れられないよー」
「井ノ口さん知ってた?」
「初めてきいた」
「だから家の中ウロウロすることしかできないの」
「あなた…役に立たないどころか難易度上げてどうするのよ…それってつまり犯人見つけてもあなたの復讐を果たすためにはこの家まで犯人を連れてこなければいけないってことでしょう?自分が殺した人間の家になんて呼ばれたら絶対警戒するわよ」
「おぉ…なるほど」
「なるほどじゃないわ、全くもうこれはわたしが精神的にいつ擦り切れてもおかしくないわね。
あとは一応わたしのメリットっていうか役割というかそれは一応地の利ということになるのかしら?
さすがに愛さんの交友関係までは把握できないけれど通っていた高校の場所とかならつきとめることもできるわ。それぐらいね」
「いや、モヨコにはまだあるでしょ」
「なにがかしら」
「ほら、例の黒い靄を見る力。それに幽霊だって普通の人には見えないっぽいし霊感だってあるんじゃないの?」
「…そういうことになるのかしら」
今まで幽霊なんてものを見たことなかったうえに色合いが不自然で火の玉飛ばしている以外ははっきり見えすぎている『幽霊』のせいで自分が霊感があるなんて全然思い至らなかった。
「え、モヨコちゃん幽霊見えるのー?すごいー」
「そりゃまぁ愛さんが見えてるからね…」
この幽霊はホントどうしようもない。
「とりあえず明日は凶器と同じものを探しに行くことにしてみる?」
モヨコの問いかけに絢香は目を丸くする。
「どういうこと?」
「この町で真の豆腐を扱っているところなんて一つしかないもの。我が町の誇るスーパーマーケットはたった一つ。
確かな信頼と実績を持つ、その名もパイナリー、それだけよ。なら犯人がそこで豆腐を購入した可能性もあるわけでしょう?もちろん他所で購入した可能性もあるけれど」
「なら今からでも行こうよ!」
「悪いけれど今の時間わかる?さすがにおうちに帰らないといけないわ」
「は?こっちは命かかってるのよ」
「わかっているわ、でもこの状況、うまく説明できる?わたしはできないわ…うちの親なんて漫画も本も読んだりしないのに幽霊騒ぎに巻き込まれたって言ったって心配されるだけよ。頭の方をね。さすがにそれでおうちの中で過ごすのは苦痛だわ。
ただでさえ遅くなるのに敏感なのよ…うちのお父さん。女の子がほしかったらしくって過保護なのよね…町より遠くに出るのだって許可取らないとだめなんだから。
まぁあなたが説得してくれるならわたしも頑張るわ」
「うぅわかったわよ!じゃあ明日はそのぱいなりー?行くわよ!」
「あ、豆腐代はちゃんと準備しておいてよね」
「お小遣い足りるかな…」
「お菓子一回我慢すれば十分でしょ。それにあなたの事件なんだから」
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