鏡楽ねくろまんさーは勇者強火担

@Nenenenenever

第1話 【吉報】推しを囲えた件について【でも秘密がいっぱい!】

 「こんにちは。もしかしたらこんばんはかもしれませんが。とりあえずは、はじめまして。」

 ここの屋敷には昼も夜も関係なくて、いつだって薄暗い。

 壁やじゅうたんのみならず雰囲気までじめじめしない様に、これでも内装には気をつかっている。けれど向こう側から来たヒトからすれば、ここは魔窟ともいえるだろう。この挨拶だって、"カガミ"で配信するときの常套句だ。常套句になるくらい、ここでは私(魔族)達ですらも、昼も夜もぜんぜん分からない。

 返答に困るように口を噤んだそのヒトを見て、ちょっと落胆。もう少しマシな挨拶ができたのでは。考えても遅いのだけれど。

 帰りは。出口は。そう相手の口が動いたのに気がついて、私は緩やかに、出来るだけ落ち着いたヒトに見えるように目を伏せて、首をゆっくりと横に振った。そうして、できるだけお願いするように、パパにお小遣いを弾んでほしいという時のように所作を作って、相手の目を見るように、そのヒトの顔を見上げる。真摯な態度が大事だ。なにごとも。

 「まだ。まだ、治りきっていないので。今しばらくお待ちいただけますでしょうか。それに、」

 戸惑いがまだ残っているように、相手は首を小さく縦に振ってくれた。こう話している間も視線は彷徨い続け、口から零れ落ちる言葉は大人のそれの形をとろうとしない。その様を、私は出来るだけ可哀そうなヒトを見る目でみつめ、言葉に迷う素振りで、ダメ押しのように声を作って、

 「自分の名前すら思い出せない貴方を、このまま。この状態のまま、返す訳にはいきませんので。」

 ――だから、ここに居てください、『勇者様』。

 蝋燭に照らされた青年の、ずれた包帯を治そうと爪先立ちになりながら。そうして、零れ落ちる血肉を気がつかれないように拭いながら。私は、ここに居てください、の前の「ずっと」を抜いて願うように『勇者様』へ語りかけた。

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