第535話

 ドナサンさんとクラリアさんの2人から報告を聞いた魔王さんの動きは速く、1時間もしない内に、大規模なシーカー部隊が出発したらしい。



 海渡達は、一旦宮殿に戻り、留守の間に溜まった雑務(主に海渡だけ)を行ったり、フェリンシア達は、ワンダーランドで忙しく遊んだりして数日を過ごしていた。

 1期生は、他の弟子の面倒を見たり、簡単な依頼を受けたりして、忙しく飛び回っていた。




 そして、3日が過ぎた頃、海渡の端末に、マッピング終了の知らせが入ったのだった。


「やっとマッピングが完了したか。

 さてと、どんな感じかな?」

 と地図データを表示しつつ、怪しい箇所をピックアップさせると、階段のありそうな洞窟が、39箇所あった。

 幸いな事に、遺跡の様な建造物は無かったので、おそらくその39箇所の内のどれかだと思われる。


 早速フェリンシア達と1期生に招集を掛けて、探索を再開するのだった。



 第15階層の拠点にゲートで飛んだ海渡達は、早速それぞれの担当する洞窟へと散って行く。

 階段を発見した場合は、すぐに伝心で知らせる様に指示しているが、洞窟が深い場合は、洞窟探索様ドローンを飛ばして、次へ進む様にと言ってある。


 しかし、結局どの洞窟も、奥が深く、階段を発見するには至らずに、全員が拠点に戻って来たのだった。


「うーーん、どうなんだろう? 洞窟じゃないのかな?

 でも、建造物とかは全く見つかってないんだよね。」

 と海渡が言うと、


「私もあまりダンジョン専門でやっていた訳ではないので、詳しくは無いですが、仮に最下層であったら、何かそれっぽい物がありそうな気がしますよね。

 やはり、何か何処かを見落としていたりしませんかね?」

 と冒険者としては先輩にあたるミケが思案顔で聞いて来た。


「うーん、一応、探索したドローンには、洞窟や建造物をピックアップする様にプログラムしてたんだけど、足り無かったかな?」

 と海渡も頭を捻る。


「例えば、大きな木の祠とか、湖の水中とかって事は無いですかね?」

 とジャクリーンが提案する。


「うーん、大きな木と言っても、ユグドラシルみたいに、巨木じゃないと無理だろうけど、巨木はデータに無かったな。

 川や泉や湖は、何箇所かあったけど、その下にあるのかな?」


「あ!滝とかはどうですか?

 もしかして、滝の裏側に入り口があったりしませんかね?」

 とプリシラが提案して来た。


「なるほど! 滝か!! あ、滝のデータは抽出してなかったな。

 ちょっと待ってね、周囲の高低差で抽出してみるから。」

 と河川の周辺の高低差でフィルタリングして、滝のありそうな箇所をピックアップして行く。


 滝のありそうな場所は、山間部や渓谷のある場所に限られるので、ピックアップ自体はそんなに難しくなかった。


「一箇所、非常に有望な渓谷があるな。デカい滝も3箇所あるぞ!」


 早速海渡はその渓谷へ向けて、出発する事にした。

 今回は、この階層の観光も兼ねているので、ヒラメ君0号機での移動となる。


 11名を乗せたヒラメ君が飛び上がり、一見ダンジョンの階層内とは思えない空間を高速で飛んで行く。


「この階層の高さって、どれくらいあるんだろうか?」

 海渡がポツリと呟くと、


「確かに、全く普通の空に見えるっすね。

 天井なんか、ある様には見えないっす。」

 とラルク少年。



 一般的にダンジョンは、月日と共に徐々に広がって行くとされているが、その広がり方は様々で、階層が増えたり、既存の階層が横に広がったり、ある日突然、階層の様相が変わったりすると言われている。

 しかし、どのダンジョンも、1階層がこれ程広く高いと言う事は無く、冒険者ギルドで調べた限りでは、こんなダンジョンの例は無かった。


 希望の岬ダンジョンはそれだけ古いのかも知れない。





 機内で、昼食を取り終わった頃、川が見えて来た。

 ヒラメ君は上流の山間部を目指しドンドンと進んで行く。

 そして、漸く山間部付近に到着し、眼下に切り立った渓谷が姿を現したのだった。


「よし、ここからは自前で飛ぼう。」

 と海渡は渓谷の手前着陸し、ヒラメ君を収納した。


 飛び始めて10分ぐらい入った所から、ドンドンと川の周りの崖が高くなっていき、それなりの幅はある物の、圧迫感がある。

 所々から、細い水の流れが川に落ちていて、どことなく元の世界の高千穂峡を思い起こさせる風景で、荘厳である。


「これは、見事な風景だね。

 割とこう言う感じは好きだなぁ。」

 と言いながら昔高千穂峡で乗った手こぎボートを思い出す海渡。


 あれは、高校の修学旅行だったかな・・・。

 友人達3グループぐらいで、手こぎボートを借りて乗って上流へと進むのだが、巫山戯た友人達のボートに押されてしまい、上から落ちて来る水の飛沫を浴びて、びしょ濡れになり、騒いだ事を思い出す。



 海渡がそんな思い出に浸りつつ飛んでいると、ドドドドドドと言う地響きに似た大量の水が落ちる音が聞こえて来た。

 どうやら、第一の滝に近付いたらしい。




 幅10m程で、もの凄い量の水が落ちてい滝を目の前にし、ただただその強烈な風景に見入ってしまう11名。

 水量も多く、滝の裏側が見えない程である。


 問題は、この裏側をどうやって確認するか? だが・・・。


「兄貴!これ、このまま滝に突っ込んで行って裏側を確認しようとしても、滝の水に叩き落とされないっすかね?」

 とラルク少年が少し顔を引き攣らせている。

 他の弟子達も同様であった。


「うむ・・・、確かに半端ない水の量だな。

 ちょっと、試して見るから、ここで待っててね。」

 と海渡は、光シールド強固に張って、自分を中心に球状の不干渉エリアを作った。

 中では空気清浄も行いつつ、気合いを入れて滝に突入すると、流された!!


「「「「「「「あ!兄貴(ボス)!!」」」」」」」


 と思わず声を上げる弟子ズの面々。


 海渡は、頭を掻きながら、

「思った以上に流れが強かった。

 もう一回、気合い入れて行ってくる!!」

 と再度、気合いを入れて、滝へと突っ込んだ。

 3m程下に叩き落とされたが、何とか踏ん張り、そこから巻き返して、みんなと同じ高さまで上がった。


「何とか行けそうだから、確認して来るよ。」

 と言い残し、滝の裏側をくまなく探すが、洞窟は無かった。


「ここじゃないね。次に行ってみよう!」




 更に上流へ進んで行くと、1個目よりも更に大きく高低差のある滝が見えて来た。

「わぁ~、これは更に凄いね。」

 滝へ続く渓谷は、先程よりも深く、抉る様な崖となっていて、渓谷の中は日が差し込みにくい為、薄暗い。


「ねぇ、カイト君、うち思うたんやけど、光シールドを時空間魔法で空間固定するイメージやったら、流されんのとちゃう?」

 とステファニーさん。


「あ!」

 と小さく叫び、ハッとする海渡。


 そして、今度はステファニーさんの助言通り、光シールドを空間固定した屋根を作り、滝の内側へと入って行った。


「みんな! 見つけたよ!!!」

 と海渡が叫ぶのだった。

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