第536話

 滝の裏側には、直径3m程の穴が開いており、入り口から5m程の所から地下へ向かう階段があった。

 海渡は、再度光シールドの空間を固定して、全員を呼び込み、階段を降りて行く。


 そして、出た空間は、直径7m程の通路が続く薄暗い洞窟だった。

 壁が薄く発光しているので、特に視界に困る事は無く、遠くまでは見通せない物の、15mぐらい先までは見える程度の明るさである。


「うーん、何かダンジョンっぽくない階層が続いたせいで、これぞまさにダンジョンって思っちゃうな。

 我ながら、少し感覚がズレてしまっている気がするけど。」

 と苦笑しながら、海渡が呟くと、全員が苦笑していた。


 取りあえず、先に洞窟探査型ドローンを飛ばし、マッピングを開始し、少し探索を始める事にした。



 歩き初めて20分程経過した頃、洞窟の様子が今までは岩をくり抜いた様な形状だったのが、下水道の様な綺麗な丸いコンクリートの様な滑らかで整備された地下トンネルに変わった。

「凄いね、まるで地下鉄の工事現場の写真で見る様な風景だ。」

 秘密地下軍事施設とかでもありそうだな。


 今までは岩肌が薄暗く光っていたのに対し、この綺麗な円形のトンネルは、天井の一番上が一列に光っている。

「これ凄いっすね。

 こんなダンジョンの洞窟初めて見たっす。」

 とラルク少年や弟子ズ達も驚いている。



 暫く進むと、道が3つに別れる、最初の分岐が出て来た。


「あー、なるほど。こう言う感じが続くのか!?

 これ、上の階層の広さを考えると、下手したら、こんなのが何百kmも繰り返す感じかもね。

 マッピングが終了するまで、延期だな。」

 と海渡は早々に諦めた。

 全員もそれに同意して、ゲートで第15階層の渓谷の所に戻って来た。


「何か不完全燃焼だし、景色の良い所に拠点作らない?」


 と言う事で、海渡の提案にで、全員場所の選定に入る事となった。


 まだ確認していない、上流側の第3の滝を見ると、これまた見事な半円状の内側に流れ落ちる様な滝で、高低差が凄い為、大量の水が途中で空気中に飛んでいる。

 その為、この3個目の滝の渓谷の湿度は非常に高く、近付くだけで、霧吹き状の水分で身体が濡れる程であった。


「景観は良いが、別荘にはちょっとキツいかな。」


「ですね、ちょっと肌寒いっす。」


「総合的には、小ぶりですが、1つ目の滝の渓谷辺りが無難なんじゃないですかね?」

 と言うミケの言葉に全員頷いたのだった。



 全員で1つ目の滝の所まで移動してたが、


「しかし、これ、開けた場所が無いですけど、何処に別荘を建てるのでしょうか?

 崖の上にします?」

 とミケが聞いて来る。


「それなんだけど、どうせ建てるなら、もっと面白い所に建てたくない?」

 と海渡がニヤリと悪い笑みを浮かべる。



「まあ、ちょっと見ててね。」

 と言って、滝から適度に離れた崖の中腹辺りの少し張り出した部分の前に飛び上がって、魔力を練って行く。


 海渡は、その中腹に張り出した土台を部分を作り、その上に拠点を設置した。

 そして、建物からはみ出した空中部分にウッドデッキを作り、空中のバルコニーに仕上げた。

 雰囲気は、観光地の展望台と言った所。


「どう?こんな感じで。」

 とウッドデッキに集まったフェリンシア達や弟子ズのみんなに聞くと、


「兄貴!これ凄いっす。ここなら、日も当たるし、景色も最高っすね。」

 と絶賛するラルク少年。


 一方、ジャクリーンは、

「崖・・・これ、崖崩れませんか? 寝てる間に崩落とかないです?」

 と結構土台自体の立地にビビりが入っていた。


「うん、そこら辺は、大丈夫だと思うよ?

 念の為、この崖半径100m程をガッチリ強化して置いたからね。

 強度的には、多分レイアが元のサイズで暴れても大丈夫じゃないかな?」

 と海渡が説明すると、不安が払拭されたようだった。




 景色も良いので、本日はここで一泊する事にし、夕食は定番のBBQにする事になった。

 夕焼け色に染まるウッドデッキで、BBQの準備をイソイソと始める。


 いつもは肉ばかりなのだが、せっかくなので、上の階層で購入した海の幸も焼く事にした。

 30cmぐらいのアワビをバターと醤油を掛けて焼くと、堪らない香りが立ち上る。

 本当なら、ウニも焼きたかったのだが、流石にサイズがデカ過ぎて、火が通らないので断念した。


 食後のデザートに、海渡は棒を取り出して、食用油を塗りトロミのある生地を垂らしながら棒を回して行く。


「ボス、それは何をしているですか?」

 とプリシラが目をキラキラさせている。


「いや、せっかく炭火が残っているから、食後のデザートに一度やってみたかったバームクーヘンを作ろうかと思ってね。」

 と説明すると、全員がワクワク顔で傍に寄ってくる。

 フェリシアは、既に、皿とフォークまで手に持ち、待ち構えている。


「いや、気が早いって。

 これ、作るのに時間掛かるからね。」

 と一応先に断っておいたが、初めてみるバームクーヘンの製造過程が楽しいらしく、徐々に年輪が増える様をジッと涎を溜めながら見て居る。


 ジワジワと時間を掛けながら回し、年輪を増やし、4cmぐらいの厚みになった所で、火から降ろし、棒から分離した。

 皿に切り分けて、上からパウダーシュガーを振りかけたり、ホイップクリームを掛けたりして、全員に配ると、待ち遠しかったのか、バクバクと食べ始める。


「美味しい!!」

 と女性陣も喜んでくれた。

 まあ、初めてプリンを食べた時程の反応は無かったのだがな。



 海渡は、後日バームクーヘンの製造魔道具を作成して、カフェの各店舗に設置した。

 製造過程が面白いらしく、それが人々の話題を呼び、日持ちのするスイーツとして人気となった。

 買って行くのは、主にマジックバッグ等を持たない冒険者や商団の人達が多く、出先の味気ない食事が華やかになると言う事だった。

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