第526話
ここ2日間は、第12階層のマッピング完了待ちだったので、カートコースの隣にモトクロスコースを作ったり、ダスティンさんの依頼で、売れ筋商品の生産ラインを増やしたりしていた。
そして待ちに待ったマッピングが、昨夜に完了し、今朝から第12階層の探索の続きを行う事になった。
マッピングの完了で判った事だが、この第12階層は広い事は広いが、一応紛れも無くダンジョンの階層であり、特に別の大陸と言う訳ではなかった。
この階層の広さだが、半径約400kmで、魔物の分布も地上と変わらず、様々な種類が居る事が判明している。
で・・・だ、ここからが驚きの事実なのだが、建設物や畑等を発見し、データを確認すると、何と人らしき反応や城塞都市らしき物を発見してしまった。
しかも、何箇所かに。
朝、1期生も含め、打ち合わせを行った際に発表すると、全員が海渡と同じ様に、驚いていた。
「ステファニーさん、ダンジョン内に人が住んで居たって事は今までにあるの?」
と聞くと、長寿であるエルフの中でも、過去にそんな事例は無かったらしい。
しかも、この希望の岬ダンジョンに関して言えば、前人未踏の実発見ダンジョンだった筈である。
誰がここまでの事を予想出来るだろうか?
「いやぁ~ビックリだよね。
これ、言葉が同じかは微妙だけど、それとなく普通に訪問すべきか、それとも飛行機とかを使って、派手に登場すべきか、どう思う?」
と全員の意見を聞いてみると、やはり取りあえず穏便に近所から歩いて訪問してみるべき と言う意見だった。
そして、簡素な打ち合わせの終了後、海渡達はダンジョンの第12階層の拠点へとやってきたのだった。
第12階層の様子の確認を兼ねて、ゲートによるショートカットではなく、バイクによる移動をフェリンシアが提案し、全員がそれに賛同した。
颯爽と平原を走る11台のオフロードバイク。
速度自体で言うと、飛行魔法による移動速度より劣る為、時速110~140km前後でのクルージングであるが、気分はツーリングの様で楽しい。
海渡は、メンバー全員のライディング技術をそれとなく観察しているのだが、一つ判った事は、同じパイロットスキルのレベルでも、やはり元来持って居るセンスによる差があるらしく、そう言う意味でフェリンシアは頭一つ抜きん出ている。
次点が、ジャクリーン、僅差でミケと言った感じ。
フェリンシアの乗り方の何が凄いかと言うと、フェンリルの本能故か、とにかく走り廻る走り廻る。
そこら辺のギャップや小さい丘を使って、エクストリームなジャンプを披露したり、教えても無いのにウィーリーしながら抜いて行ったりと、はしゃぎっぱなし。
そう言うチョコマカとした余計な動きをしているのに、ピタリと遅れずに追従してきているのである。
そう言えば、絶界の森を最初に抜ける際も、楽しそうに走っていたよな・・・と思い出して、フフフと笑う海渡。
ちなみに、身体の小さい、海渡、フェリンシア、ラルク少年達3名とプリシラはお子様用バイクに乗っているので、目線が他のメンバーより低い。
何か、絵面的に寂しい気はするが、大人用バイクだとシフトペダルにさえ届かないのだから、諦めるしかない。
動力性能的には大人用も子供用も大差は無いのだが、必然的に子供用のバイクのホイールベースは短い為、大人用に比べ、路面の影響を受けやすい。
よって、大人用に比べ悪路を走る際は、挙動変化が大きい為、疲労度は大きくなる。
オーク等の『美味しいお肉シリーズ』を発見し、休憩がてらの討伐をして、小休止を3回程挟んでいるが、それでも2時間程で最初の目的地である、城郭都市の塀が見えて来た。
「一旦停止!」
と海渡の号令で、バイクを止めて打ち合わせを始める。
「まだ目視出来る程じゃあないけど、もう少ししたら、目視圏内に入ると思う。
一番刺激しない方向なら、徒歩になるけど、ここから徒歩はキツいから、低空を飛ぶか、自動車に乗り換えるか、このままバイクで行くかになるけど、どうする?」
と意見を求めると、
「人の姿が見えるバイクの方が良いのか、台数を減らして自動車の方が良いのか、悩みますね。」
とミケ。
結局、台数が増えない方が刺激が少ないだろうと言う判断で、自動車2台に乗り換えて進む事にした。
まあ、最悪の場合でも矢ぐらいだったら、軽く弾くしね。
幾ら気合い入れれば、弾丸(普通の拳銃レベル)にでも対応出来る身体能力と言えど、100%とは言えないからね。
それに、もしかしすると、地上よりも発展した文化を持つ者達かもしれないし、油断は禁物である。
自動車に乗り換えて暫く進むと、先の方には畑が見えて来た。
それに伴い、チラホラ人影らしき物も見えて来る。
その農作業中の人影は、遠方からやって来た見た事も無い物体(自動車)に驚いて慌て出すのが見えた。
「ん?驚いている感じだな。ちょっと止めるね。」
と海渡は一旦停車して、車外に降りた。
大きく手を振りつつ、
「こんにちはーーー! 旅の者です。
魔物じゃないので、安心してくださーーーい!」
と風魔法の拡声を使って声を掛けた。
すると、ビクッとした農民?だが、安心した様に、逃げるのを止めて向こうも手を振っていた。
さて、既にこの時点で判ってはいたが、既に見た目からして、人族でもエルフでも、ドワーフでもなく、無論獣人とも違う。
どちらかと言うと、エルフに近い感じだが、纏っている雰囲気がエルフのそれとは全く違う気がする。
再度、自動車に乗り込んで、ユックリ(と言っても時速50kmぐらい)近づいて行く。
途中、誘惑に耐えられず、マップで確認すると、この緑色の反応を示す点は、魔族と表示されていた。
「魔族かー! 居たんだね。」
と海渡が呟くと、
「え? あれって魔族やったんかー。
ダークエルフちゃうかと思ったんやけどなぁ。
そっか、魔族かー。」
とステファニーさん。
ん? ダークエルフってのも居るのか。
それは知らなかったな・・・。
と内心新たな存在を知って驚く海渡。
手を振った魔族の男性の近くに自動車を停めて、ドアをユックリ開けて、降り立ち、
「突然お邪魔して、驚かせて申し訳ありません。
旅をしてまして、こちらにやって来ました。」
と海渡が言うと、
「ほげなこつ、ビックリしたばい。(本当にビックリしたよ)
あんた、どっからきんしゃったと?(あんた、何処から来たの?)」
と結構な方言?混じりで聞いて来た。
なので、海渡は上を指さして、
「彼方から」
と言うと、かなり驚かれた。
「ああ、申し遅れました、俺は、カイト・サエジマと言います。」
「フェリンシアです。」
「ステファニーです。」
「ジャクリーンです。」
・・・と全員が自己紹介をすると、
「まあまあ、ご丁寧に。
俺は、ジェロニモっていうたい。
ところで、そのけったいな乗り物はなんね?
初めてみるたい。」
とジェロニモさんが聞いて来た。
「ああ、これは自動車と言って、地面を走る魔道具の乗り物ですね。」
と答えると、
「はぁ~~、こりゃまた驚いたばい。
こげんとがあるったいねぇ~。
ふっふっふ、世の中は広かばい。」
と大層驚いていた。
話している内に、近くで農作業をしていた他の魔族も、恐る恐る寄って来て、ジェロニモさんに、色々聞いて納得していた。
概ね、友好的な第一歩と言う所だろうか? 少々方言に癖はあるけど、意思疎通は問題なさそうでホッとした。
「ジェロニモさん、俺達って、あの城壁の内側に入れて貰えるんでしょうかね?」
と聞くと、
「さぁ・・・どげんやろか?
おそらく、大丈夫とは思うばってん、どげん考えんしゃるかは、魔王しゃまの腹一つやろうねぇ。
まあ、俺も口添えしちゃるけん、どーんとしとかんね。」
と和やかに言ってくれた。
うん、今、何気に結構重大なキーワード出て来たよね。
「魔王様? なるほど、ここは魔王様の治める国なんだね?」
と海渡が聞くと、
「ああ、そうたい。
ここは、ハイデバルト魔王国たい。
なんね、知らんかったんね?」と。
つまり、これから行く先には、魔王城があるって事か!
うっほーー!異世界のテンプレ来たよ! テンション上がって来たぞーー!!
と内心、滅茶滅茶面白がっている海渡であった。
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