第514話
階段を降りた先の第10階層は、廃墟だった。
それも、ただだの廃墟ではなく、ビル群が朽ち果てたり、崩壊したり、蔦が絡んで居たりする廃墟。
「ボス、これって宮殿や総合型の宿舎に似た建物ですよね?」
と驚きながらミケが聞いて来た。
「だな。こう言う建物はビル又はビルディングって言うんだよ。
まあ、うちのとは、構造物が違うと思うんだけど、ちょっと調べて見たいな。」
と海渡が答えると、みんなは不思議そうにしていた。
不思議だな。
これって、デザイン的に、かなり地球のビルディングに似てるよな。
崩壊した古代文明って、地球と同じぐらいの文明レベルだったのかな?
しかし、デザインとかが、ここまで似る物なのだろうか?
パッと見、マンションと思える様なバルコニーのある物、ビジネス用のビル、大型の商業施設の様なビル等等・・・意外に符合する物が多い。
「すまないけど、ここの階層は時間を掛けてジックリ見て廻りたい。
みんなは先に進んでも良いし、ここで取りあえず自由行動にしようよ。
あ、取りあえず、ドローンは飛ばして置くか。」
と海渡が全員にお願いしつつ、ドローンを飛ばした。
「了解っす。
どうせ、ドローンのマッピングが終わらないと、何処を目指せば良いのかも判らないっすから、お気遣い無用っす。
あ、調査の邪魔になるといけないので、適当にして過ごしますので、何かあったら、連絡ください。」
とラルク少年が言って、弟子ズが散って行った。
「あ!建物とか壊さないでねーー!」
と去って行く弟子ズに大声で伝えると、「了解っすーー」と遠くから聞こえた。
「ねえ、海渡。
これって、もしかして、海渡の元の世界と同じ感じなですか?」
と察したフェリンシアが聞いて来た。
「うん。まあ、似せて作られただけかもしれないし、もしくは、同じ発想で発展した古代文明の遺跡かも知れないし、微妙だけどねぇ。
でも、ここまで似せてるなら、内部構造とかも一緒の可能性あるし、滅んだ古代文明がどんな感じだったのか、参考になるかなぁ~とね。」
「へぇ~、カイト君の元の世界って、こんな感じなんねんやなぁ」
とステファニーさん。
「エルフの伝承とかで、古代文明についてとか、何も残ってないって事だったよね?」
と聞くと、
「そやね。前にも言うたと思うけど、なんも残ってへんね。」
「カイトさんの故郷ってこんなに沢山の高い建物があったんですねぇ。」
とジャクリーン。
「前にも少し説明したと思うけど、俺の居た世界には、魔法が無かった代わりに、人々が例えば火が燃える仕組みとか、色々な仕組みや理を研究したんだよ。
人間や動物や植物の構造やなんかもね。
そして、魔法や魔道具に代わりに、同じ様な事が出来る物を発明して、魔法無しで生活してたんだよね。
子供らは、義務教育があって、国民全員が、最低9年間、学校でそれらの知識を学ぶんだよ。
そして、ある者は、その先の研究を引き継いで行く感じ。
俺の魔法の効果が大きかったりする理由は、その理を理解して、具体的なプロセスまでをイメージしている事も大きいんだと思う。」
と海渡が説明すると、ジャクリーンが少し悲しそうな顔をして、
「もしかして、元の世界に帰りたいと思ってたりしますか?」
と聞いて来た。
「ははは、そんな悲しそうな顔をするなよ。
そりゃあ、両親に別れも言えず、申し訳ないなぁとは思っているけど、それ以外で別に未練は無いね。
出来れば直接謝りたいとは思うけど、戻りたいとは微塵も思ってないね。
ふふふ、こっちに来た時、真っ先に、向こうの世界の何を一番切望したと思おう?」
と海渡は笑いながら問いかけると、
「切望? うーん、何でしょうか・・・。家とかですか?」
とジャクリーン。
「いやぁ~、カイト君の事やし、意外に食べ物やないん?」
とステファニーさんが、ニヤニヤしながら言う。
「お!ステファニーさん、正解!!」
と海渡が言うと、全員が大爆笑。
「いや、みんな笑うけどさ、マジだって。
そりゃあ、パンも好きだけど、日本人は米と醤油と味噌が無いと、キツいんだって。
ステファニーさんだって、何年も米が無いとキツいでしょ? 一度試してごらんよ。
絶対に気持ちが判るから。
良い例が、ダスティンさんや、サンドラさんだよ。
米食った時、泣いてたからね?」
と海渡が力説すると、ステファニーさんも、「あぁ~」と納得していた。
「俺がこの世界が好きな理由は、魔法がある事もだけど、コーデリアで米や醤油や味噌も発見して、更に色んな食材が、元の世界より格段に美味い事なんだよね。」
「「「プププ・・・」」」
と女性陣3人が吹き出していた。
そんな話をしながら、建物の前に移動し、建物をチェックし始める海渡。
最初の建物はオフィスビルで、殆どのガラスが割れたりしている感じであった。
入り口から中に侵入すると、受付と思しきカウンターの残骸があり、その向こうには、エレベーターと階段があった。
文字とかが確認出来る物は無いかと、探したが、特には見つからなかった。
「風化が激しいから、文字とかは残ってないか・・・。」
と残念そうに呟く。
エレベーターシャフトを確認すると、下に残骸が落ちて居た。
階段は、スチール製だったようで、所々錆びで朽ちていて、とてもじゃないが、利用不可能に見える。
海渡は、エレベーターシャフトから飛んで2階へと向かうと、机や椅子の残骸が落ちていた。
そして、各階をチェックしたが、収穫は何もなかった。
まあ、人が居なくなると、100年ぐらいで、建造物が崩壊したり朽ち果てると言う話もあるし、このダンジョンが実発見のダンジョンと考えた場合、数百年レベルで放置されていた訳だから、普通に考えて何も残って無くて当然ではある。
逆にこのステージのコンセプトと言うか、設定でこの状態なら、まあこんな物かも知れないな・・・と1人で納得するのだった。
諦めつつも、手当たり次第に、次々と建物をチェックして行く海渡達。
そして、1つのビルに入ると、奥の部屋に見覚えのある、大きな扉を発見した。
「あ! 金庫だ!! もしかして、ここは銀行か!?」
と海渡が叫ぶ。
「銀行って何ですか?」
とフェリンシアが尋ねてきた。
「ああ、この世界だと冒険者ギルドや商業ギルドなんかがやっているけど、お金を預けたり、他の人に振り込んだり出来るよね?
そう言う事だけを商売にしている所だよ。」
と説明すると、
「なるほど! つまりそう言う所の金庫って事は、何か入って居るかも知れませんね。」
とワクワク顔に変わるフェリンシア。
「だな。 まあ扉が開けられれば良いんだけどね。」
と頷きつつ、金庫の前に移動し、扉のハンドルに手をかけて、引っ張ると、
「ガチッ、ギ、ギギギギーー」
と油ぎれの様な嫌な音を立てつつ、扉がユックリと開き始める。
「「「「おおお!」」」」
と4人のテンションが上がり出す。
扉が開くと、真っ暗な部屋からカビた匂いが流れ出て来た。
光魔法のライトを使って内部を照らすと、嘗ては札束だった様な塊が棚にあったり、粉が舞ったりしていたが、とある一角だけ、金色や銀色に輝いていた。
「あ! お宝、発見!!」
金と白金のインゴットだった。
一旦、それらを全て、金庫室の外に運び出して、床に並べる。
金庫内部の別の一角に貸金庫があり、そちらも開けようとしたが、鍵が無いので、当然普通には開かない。
と言う事で、彼方此方を探すと、金庫の扉の直ぐ側にあった、机の残骸の中から、マスターキーの束を発見。
幸いな事に表面がメッキされた真鍮製のキーとステンレスのリングは朽ち果てずに残って居た。
とは言え、真鍮製のキーはかなり傷んで居たので、リワインドを100年程掛けてみた。
が、全く効果無し。
「ふむ・・・。リワインド出来ないと言う事は、こう言うデザインとして設定されていると言う事か。」
と海渡が納得し、ハッと思い出した様に、智恵子さんにご相談。
『智恵子さん! このキーって実際、この貸金庫開けられると思う?』
と海渡が聞くと、
『今、ハッとしましたよね? 私の事、忘れてましたよね?
以前はあんなに頼って下さったのに・・・。』
と恨みがましく、ブツブツと始まった。
『ごめんって! 別に忘れてた訳じゃなくてさ、智恵子さんには日々感謝してるんだよ?
今俺がこうして無事に居るのだって、智恵子さんの助言のお陰じゃん!
で、さっきの質問の件だけど、どうなの?』
『ふふふ、しょうがないですね・・・。
キーですが、きっと、このままで使えますよ。
ぶっちゃけ、ダンジョンの設定なので、あまり気にしなくて良いと思います。
どうせ、初回限定のご褒美みたいですし。』
との事だった。
『そっか、ありがとう!』
とお礼を言って、キーの束で、貸金庫の扉に刺して開けて廻った。
智恵子さんの言う『初回限定』の件を証明するかの様に、一度使ったキーは差し込んだと同時に光り、消えていき、貸金庫の扉がカチャリと開く。
全てのインナーケースを引っ張り出して、中身をドンドンと一箇所に集めると、金庫室の棚にあったインゴットよりも、この世界では高価な物が、沢山出て来たのだった。
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皆様、令和元年もあと残すところ12時間。
いつもお読み頂き、誠にありがとうございます。
皆様からの叱咤激励やハートマーク等、色々と励みになっております。
まあ、時々心が折れ掛ける事もありますが・・・。
では、短いですが、年末のご挨拶とさせて頂きます。
皆様、良い年の瀬を!!
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