第498話

 異世界8ヵ月と6日目。


 さあ、1日が始まった。

 今日はおそらく、目指すドラゴンにご対面となるだろう。

 東洋的な龍なのか、西洋的な竜なのか、ワクワクである。


 朝練、朝風呂を終えて、朝食を取りながら、本日の予定を話し合う。


「と言う訳で、まあ今日は最終目的地に到達する事を優先しようかと思うんだ。

 周囲の山も残すところ、1個だし、そのまま飛んで、中心の斜面に沿って上がる感じかなと。

 どう思う?」

と海渡が提案すると、全員がワクワク顔で頷いていた。



 15分で朝食を終え、防犯モードに設定した拠点を飛び立つ11名。



 そして、最後の山へと差し掛かった頃、地上と上空から攻撃を受け始める。

「わぁ・・・ワイバーンがいっぱいだーw」

と歓喜の声を上げる11名。


「あまり全部やってしまうと、生態系が壊れそうだし、ドラゴンから敵認定されるかもだから、ほどほどにしておこうな!」

と海渡が声を掛け、中央の山への最短ルートを飛びつつ、各自群がって来るワイバーンの殲滅開始だ。


 海渡は高速で飛び回りつつ、ブレス攻撃を避け、海渡へ攻撃して来るワイバーンの首を刎ねて、落下する前に収納して行く。

 見ると、弟子ズも同様に刀や槍で突き、落下させる事無く、収納していた。

 5分間ぐらいの戦闘で、55匹のワイバーンを殲滅し、最後の亜種3匹を討伐した辺りで、攻撃が止み、ギャーギャーと叫び声を上げながら逃げて行った。


「ふう、やっと諦めてくれたようだな。

 亜種も結構混じってて、なかなかに美味しかったな。」

とアイテムボックスの中の収穫物(ブラック・ワイバーン、ホワイト・ワイバーン、シルバー・ワイバーン)を確認し、ほくそ笑む海渡。


 ちなみに、ニマニマしている弟子ズは、この戦闘で、更にレベルが2つアップしたとの事だった。



 そして、とうとう中央の山の中腹に到着した。

 中央の山の山頂は、雲のせいでここから見る事は出来ない。



「さあ、一休みしたら、一気に上昇してご対面かな。

 そう言えば、山頂にはエンシェント・ドラゴンだけでなく、色々な種類が居るみたいだが、共存しているのだろか?」

と海渡が思い出した様に頭を捻る。


「うーん、竜種と言う事で群れと言うか集落みたいになってるんですかね?」

とミケも呟く。


「まあ、それもあと数時間後には答えが分かりますね。ああ~ワクワクするわぁ~♪」

とジャクリーンさん。


 そして、海渡らは、再び上空へと飛び上がり、山の斜面に沿ってドンドンと上昇し始めたのだった。




 1時間程で雲の中に突入し、雲を抜けると、雲海の中に聳え立つ山頂が見えた。

 外気温は低く、吐く息は白くなる。

 更に空気も薄くなった気がする。


「あ!高山病!!」

と海渡がその存在思い出して、一旦休憩を挟む事にした。



「みんな、空気薄くなってるけど、体調の変化は無い? 頭痛とか、吐き気とか、頭がボーッとするとか?」

と海渡が聞くが、全員はキョトンとしている。体調は全く問題ないらしい。


『智恵子さん、この世界の人って、もしかして高山病とかないの?』

と海渡が聞くと、


『ええ、そもそもですが、この世界の人の体は丈夫に作られていて、ある程度の劣悪環境下でも活動出来るキャパがあります。

 高山病や、酸素濃度による意識混濁は勿論ありますが、レベルの補正も効くので、一般人で高度3000mぐらいまで、ラルクさん達の場合は高度5000mぐらいまでは、それらの心配は無いと思います。

 もっとも酸素摂取量は高度によって減る方向にはなりますから、運動量の限界は下がりますので、ご注意下さいね。』

との事。


『なるほど、なかなか便利な設定になっているんだねw ありがと!』

とホッとする海渡。


 海渡は、念の為全員に、高高度での酸素不足による戦闘力低下について注意を促しておいた。


「まあしかし、光シールドを張って、内部の気圧を風邪魔法で陸上を同じにしてやれば、酸素摂取効率の低下は防げるなぁ。」

と海渡が呟き、試しに自分でやってみる。


「おお、確かに違いがあるな。」


 シールド内で気圧を調節して、シャドーボクシングをシュッシュッと繰り出す海渡。

 全員に気圧調整のやり方を説明して試させると、「ああ、確かに違いますね。」と納得していた。


 ちなみにだが、現在高度3000mぐらいの場所で、雲の上。

 周りは、ゴツゴツした岩肌で、既にこの高度には木が生えていない。

 場所によって、薄ら草が生えている程度である。

 何か、殺風景と言うか、生命感の無い、荒涼とした風景である。

 唯一、太陽に照らされてキラキラと反射する雲海が、その生命感の無い風景を和らげている感じ。



 暖かい飲み物を飲んでの休憩後、光シールド内の気圧調節を併用して空へと飛び立った。

 10分程飛ぶと、遠く先の方に、山頂とその山頂に居る存在が見えて来た。

 マップには緑色の点が表示されている・・・即ち敵意が無い相手。


 その赤黒い巨体・・・レッド・ドラゴンである!

 正しく、西洋風の竜の様な感じ。


「わぁーー!!! やっぱり西洋風なんだ!」(海渡)

「ああ、憧れのドラゴン! 厳ついです!!!」(ジャクリーン)

「おぉー、レッド・ドラゴンっすかね。」(ラルク)

「ふゃーー、あれがドラゴン!」(プリシラ)

「(生唾ゴクリ)・・・」(フェリンシア)

「ほんまに居ったんや・・・」(ステファニー)

「お伽噺かと思ってました。」(アン)

「(コクリ)」(サニー)

「思ったよりも羽が小さいですね。」(ミケ)

「こ、これがドラゴン・・・可愛い・・・」(パトリシア)

「お話出来ますかね?」(キャス)


 と海渡を含め、それぞれな反応を示す11名。


 すると、上空に現れた新たな反応を察知して、見上げると、目の覚める様なスカイブルーの綺麗なドラゴンが飛んでいた。


「お!あれがスカイ・ドラゴンかな?」

と海渡が呟く。


 まあ、マップの表示で、そう出ている訳だがw


「あ♪ ロック・ドラゴンですかね?」

とミケが小さく叫ぶ。


 海渡達も前方へ視線を戻して、レッド・ドラゴンの横を確認すると、焦げ茶色のゴツい感じのドラゴンが増えていた。


「スゲーな。3種類も勢揃いしてお出迎えしてくれるとはww」

と無邪気に喜ぶ海渡。


「ボス・・・これお出迎えなんでしょうか? もしかして、威嚇とか?」

とミケがやや堅い表情で聞いて来た。


「うーん、威嚇と言うより、様子見を兼ねた歓迎かなぁ?」

と海渡が小さく答えると、若干苦い顔をしていた。


「こんにちはー! 観光にやって来ましたーー!!」

と海渡が手を振りながら、風魔法の拡声で声を掛けると、



『小さき者達よ・・・ここは我々ドラゴンの地。

 今すぐ引き返すが良い。』

と全員の頭に直接伝心が伝わって来た。


「「「「えーーー!? そりゃあないよ(わ)ーー!」」」」

と海渡、フェリンシア、ステファニー、ジャクリーンが声を揃えて絶叫するのだった。


「悪いけど、せっかくここまで逢いに来たのに・・・。ここでUターンなんてあんまりじゃないかな? 『話の分かる子』って聞いてきたんだけどなぁ?」

と海渡が続けて言うと、


『何処で聞いて来たか知らんが、どうしてもと言うなら、五大竜戦士を退けてみよ!』

と頭に鳴り響く。


 ん? 五大竜戦士?? 1,2,3・・・ あれ?



「あれれ?五大竜戦士ってwww 3名しか居ないけど??」

と海渡が爆笑すると、



『あ・・・ブルーとブラックはどうしたのじゃ? お・・・おのれ・・・またあいつらサボりよって・・・』

とレッドがぼやくw


 どうやら、ブルー・ドラゴンとブラック・ドラゴンが、目下バックレ中らしい。


「ははは。命までは取らないと言う縛りでヤルなら、それはそれで願ったり叶ったりなんだけど、どう?」

と海渡が言うと、


『うむ。では、我ら3名対11名で良いか?武器は何を使っても良いぞw 魔法もなw』

とレッド・ドラゴンが楽し気に大盤振る舞いの条件を出して来た。


『クックック・・・久々じゃのうぉ~。せいぜい愉しませてくれよ♪』

とロック・ドラゴンが悪い顔・・・ゴツゴツしてるから判り辛いが、あれは確実に悪い顔をしているよなw


『ふふふ、安心しなさい! 命までは取らない様にするから♪』

とスカイ・ドラゴンも上空から上から目線で宣ってらっしゃいました。


「ふふふ、『何でもあり』と言った事を後で後悔しても知らないよぉ~w」

と海渡も悪い笑みを浮かべ、全員にGo!を出したのだった。

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