第497話

 異世界8ヵ月と5日目。


 昨夜の『魔物達の夕べ』と言うより、『虫達の集い』にガクブルしてしまった海渡だったが、朝は一転して爽やかである。


「女神様・・・どうせなら、せめてGの無い世界にしてくれれば・・・」

と海渡は昨夜の巨大Gを思い出して呟く。


 せっかく、気持ちの良い目覚めをしたのに、変な物を思い出してしまい、テンションが下がったので、気分転換に朝食を作る事にした。

 物作りは、集中力を動員するので、気分転換にはもってこいである。


 いつの間にか、鼻歌を歌いながら、フンフンと上機嫌で、煮物や、久々に酢の物なんかも作る海渡。

 出汁巻き卵、鯖の塩焼き、大根おろし、それにお味噌汁は好物のジャガイモと玉葱のお味噌汁にした。


 全員が揃い、軽く朝練をした後、ザッとシャワーを浴びて、サッパリしたところで、朝食を取る。

 久々の海渡の本気の和定食は大好評で、朝から、2升近くのご飯が無くなったw


「君ら、朝から食い過ぎw まあ、喜んで食べて貰えるのは作り手にとって嬉しい事だけどねw」

と海渡が笑う。



 朝食が終わった後、海渡は20分ぐらいで、この拠点のシールドを改造して、近接反応型のシールドに変更した。

 これで、防犯モードでは、常時シールドが貼られる訳ではなく、魔物等が侵入しようとした時だけシールドが展開される事になるので、魔石の燃費が向上する。

 魔石も10個連動型にしたので、頻度にもよるが、数十年~100年は保つ計算になる。



「ここは、弟子達の遠征とかに解放しても良いな。」

と海渡が提案すると、



「であれば、5期生以上であれば、確実に問題ないですね。6期生だと、若干不安が残りますが。」

と周囲の魔物の強さを考慮しながらミケが答える。


「そこら辺は1期生に任せるよ! せっかくだから、上手く運用してくれ。」


「イエス・マイ・ロード」


 ふむ。今回は単発パターンか。




 海渡達は、空へ飛び上がり、また中央を目指す。

 出発して1時間程経った頃、ギガント・ボアと言う、巨大なイノシシ系の魔物の群れを発見した。

 奴らは、何やら、木の根っこ部分を掘ったり、巨大な頭を地面の穴に突っ込んではムシャムシャとしている。

 で、こいつらの鑑定すると、


 *****************************

 ギガント・ボア

 説明:魔素の濃い森の奥に住む巨大イノシシ系の魔物。

    森の奥に住む為、滅多にお目に掛かる事は無いので超レア級。

    食べている時は大人しいが、暴れ出すと凶暴で、巨大な体と突進力で相手

    を弾き飛ばす。体毛が堅く、普通の剣戟は弾かれる。

    単体としては難易度Aランクだが、群れで行動する為、群れを相手にする

    場合、10頭でSランク、20頭でSSランクとされている。

    しかし、鞣した革は非常に柔らかく耐久性に富むので高級素材として

    扱われる。

    トリュフ等の茸や木の実、山芋等を好んで食べる為、肉が非常に美味しく

    濃厚。市場に出回る事が少ないので超レアなグルメ食材とされている。

 *****************************


 とこれまた逃せない逸材。


「と言う事で、下にいる美味しく育ったギガント・ボアの群れ、34頭を狩ります!」

と海渡が宣言すると、みんなが喜んだw


「今夜は焼き肉かなぁ?」

とかワクワクソワソワしている。


「いいか、肉を美味しく頂く為にも、火魔法は禁止な! 雷も。

 出来れば、刀か、水、氷系でスパッと頼むぞ!

 あ、あと、革も上物らしいんで!」

と指示を出し、刀や魔法を準備して全員が突撃。


 結果、最初の11匹が声無くドサリと崩れ墜ち、他のギガント・ボアが振り返る前に11匹が首と胴体が切り離され、振り返って「ピギャー」と鳴いている間に11匹も同様に。

 残る1匹は一番近かったミケが始末していた。


 34匹の血抜きをしている間に、他の者が手分けして、食べて居たマギ・ドリュフ(手付かずの分)や山芋を採取して廻る。


「いやぁ~、これは今日の夕食が楽しみだなw」

とまだ昼前なのに夕食の話をしてバカ笑いする海渡だった。





 その後も順調に進みつつ、休憩を兼ねた討伐を適度に熟し、美味しい食材をGetしつつ夕暮れ間近まで進み、全行程の3/4ぐらいまでには到達した。

 中心の山の2個手前の山の中腹に、『アル○スの少女』が住んでいそうな傾斜地の草原を発見し、今夜の宿泊地とする事にしたのだった。


 あと、本日の思わぬボーナスだったのは、ミスリルやオリハルコンの鉱脈を見つけた事。

 まあ、希望の岬ダンジョンの砂漠エリアと言う無限に近い供給元があるので、海渡には不要ではあるのだが、一応データとして残して置く事にした。


 昨日同様に塀で囲んだ中に、土台を作り、拠点を設営した。

 バルコニーから見晴らしが素晴らしく、夕日に照らされる山々の景色は最高であった。


 グランド・ワームも1匹だけ発見して、討伐したが、鑑定によると、サンド・ワーム程の美味しさではないらしい。

 新しい所では、フォレスト・スパイダーと言う蜘蛛の魔物を4匹Getした。

 これが、鑑定博士によると、カニの様な味で美味しいとあったのだが、カニの様な味で美味しいと言われても、蜘蛛だもんなぁ・・・と引き気味な海渡だった。

 あと、驚いたのは、ここまで奥地・・・つまり周囲の魔物が軒並み強い地域であるのに、小規模ながらもゴブリンの集落があった事。

 それに、オークの集落も発見した。オークは普通のオークではなく、厳密にはハイオークと言う、上位種だった。

 強さは通常のオーク種で比較すると、オーク・キングが通常のハイオークと同等ぐらいで、全体的に戦闘力が上がっている感じである。

 奴らは身体強化が上手く、ハイオーク・キングは二回り程大きく、約2倍の戦闘力を持っていた。

 是非とも美味しさも2倍くらいを期待したいw


 と言う訳で、お待ちかねの焼き肉タイム到来である。

 BBQセットをバルコニーに出して、炭に火をおこし、とあるプレートをセットした。


「兄貴!それ、岩塩っすか?」

とラルク少年が不思議そうに聞いて来た。


「ふふふ、よくぞ聞いてくれた! そう、これは岩塩プレート。 これで焼くと、遠赤外線の効果と程よい塩加減が自動的に付くと言う秘密兵器なのだよw」

と海渡が腰に手を当てて、胸を張って高笑いする。


 そんな海渡の解説を、弟子ズが・・・特にケモ耳ズが涎をキラキラさせながら、聞いている。


 しかし、その直後に、「パキン」と音がして、岩塩プレートが割れた。


「「「「「「「「「「「あ!・・・」」」」」」」」」」」

と声を揃える11名。


「ああ、そうか!欲張ってサイズを大きくし過ぎたか・・・。これ全体が均一に温まれば割れないんだけど、分厚かったり、大きくしたりすると、温まった所と温度の低いところで、差が激しくなるから、割れるんだよな。」

と「そんな事知ってましたよ?」と言う感じに説明する海渡。


 内心は、良かったぁ~ 網の上に岩塩プレート置いておいて・・・網無しで置いてたら、今頃赤っ恥だったなw と少し冷や汗を掻いていた。


 幸いにもそれ以上プレートが割れる事は無く、無事に温まった岩塩プレートの上にギガント・ボアの肉を並べて焼き、全員で「頂きます!」


「なるほど、超レアなグルメ食材と呼ばれるだけはあるな。」

と海渡がニンマリ。


 ギガント・ボアの肉はとてもジューシーで、特に噛み締めると茸の香りやフルーツの様な甘み等が合わさった、素晴らしい味がした。


「美味しいです!」

「これは、美味いで!」

と大好評。

 ただ、岩塩プレートの手柄というよりも、悔しいが素材本来の持ち味の手柄っぽい。


 そこでハッと思い出して、海渡が魔道具を取り出して、作業に入る。

 玉葱と、ギガント・ボアのバラのブロックを魔道具にセットし、イソイソと起動する。

 すると、毎秒5本ペースで、バラ肉と玉葱の肉串がドンドンとステンレス製のパレットに排出されてくる。


「兄貴、これは?」

とラルク少年が聞いてきた。


「ふふふ、これは、前に焼き鳥ブームの頃に作成した、自動串刺し器だよ。

 作っておいて、スッカリ存在を忘れていたんだけど、『バラ』も食いたいなぁってねw」

と説明しながら、出来上がったバラの串を横に置いた別の魔道具にセットして行く海渡。


「で、こっちは、自動焼き鳥焼き器だな。

 えっと・・・これは塩胡椒で・・・セット! よし!起動!!」



 暫くすると、遠赤外線を放射するプレートが赤くなり、ジュージューと肉と油の焼ける良い匂いが漂って来る。

 串は自動で回転するので、セットした串を自動で補給しながら、ドンドン焼いて行く。


「「「「おおーーー!」」」」」

とラルク、アン、サニー、ジャクリーンさんの4名が声を揃えて感嘆の声を上げる。


 BBQコンロの前で、一心不乱に焼いて食ってを繰り返していた、食いしん坊達がその声に反応し、ハッとした顔をしている。

 そして、イソイソと5名の食いしん坊チームが寄って来て、空のお皿を片手に、待ってらっしゃるww



 焼き上がった『バラ』の串を1本ずつ手に取り、全員でパクリと食べて見ると、これまた絶品。

「「「「「「「「「「「うぉーー!!」」」」」」」」」」」


 ただ、焼き上がるのにある程度時間が掛かるので、BBQコンロ側では、普通に焼いて、こっちが出来たら食べてを全員がウロウロしながら、繰り返したw



「いやぁ~、食ったなぁww」

と海渡が満足気に言うと、


「ちょっと食べ過ぎで気持ち悪いです・・・

 何か、ダーリンと一緒に居ると、太ってしまいそう・・・」

とジャクリーンさんが呟きながら、食いしん坊チームをチラッチラッと体型を確認する様に盗み見していた。


「うむ・・・確かに不思議だよな。特にステファニーさんは。

 あれだけ食ってても、全く太らないしw

 まさか、胃袋に時空間魔法掛けてないよな?」

と海渡も思わず呟くのであった。



 その夜、海渡がステファニーさんに聞いてみたところ、


「何言うてんねん。これエルフの体質言うか、特徴やで?」と。


「え?? だってダスティンさんもサチーさんも、それ程食べないよね?」

と疑いの目を向けると、視線を逸らされたのだったw

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