第476話

 さて、ここグエンザンだが、少年少女達に聞くと、冒険者の多い街だけに、孤児も多いらしい。

 つまりは、冒険者の両親が任務中に亡くなってしまい、孤児になるパターンね。

 更に、片親となるパターンも多いらしく、小さい子を抱え、困窮するケース(主に母子)が多いらしい。

 そして悲しい事だが、その結果捨て子・・・と言う・・・。

 ふむ、ここは宿舎の需要が多そうだな・・・。


 ここの敷地だが、敷地内にゴロゴロとしている岩を避けた状態でも、この宿舎が建っている。岩さえ除去してしまえば、更にもう1個建てる事も可能な程には広い。

 最初は、戦闘シミュレーターを使った訓練施設に良いかも?と残しておいた岩だが、状況を見て需要が高まれば、もう1つ建てる事になるかもしれないな・・・と海渡は頭の中で考えていた。


 時刻は午後6時前。

 辺りは徐々に夕闇に飲み込まれようとしている。


 少年少女達に聞くと、他の所で寝泊まりしている、孤児やストリートチルドレン状態の子が、知り合いにかなりの数居るとの事。


「その子達も、ここに今日集められるか?」

と聞くと、


「え?良いんですか? 良いなら、直ぐに集めますが!」

と5人が目を輝かせる。


「ああ、良いぞ!暗くなって来たから、急いでな!」

と言うと、


「「「「「ボス!了解しました(ちまちた)!!」」」」」

と子供らが大食堂から、飛び出して行ったのだった。




 辺りが暗くなり、6時半を過ぎた頃、少年少女が第一団を引き連れて戻って来た。

 新しい子供達は、総勢32名。更に30名程が第二団として来るらしい。


「あのぉ・・・こんなに多くなっちゃったんですが、大丈夫でしょうか?」

と恐る恐る聞いて来る最初の5人。


「ああ、問題ないぞ? 100人でも200人でも。場所が足り無ければ、増やせば良いだけだし。」

と言うと、ホッとした表情に変わった。



「「「「「宜しくお願い致します。」」」」」

と声を揃える子供達。


 海渡達は、全員にクリーンを掛け、必要な子には、ヒールを掛けて廻り、全員に新しい服やマジックポーチ等を渡した。

 そして、本店のダスティンさんから派遣された、新しい拠点の店長にバトンタッチして、ルールや雇用条件を説明して貰った。


 そして、その後の夕食で、子供達は大興奮。

 ガツガツと一心不乱に食べていたが、悲しいかな、小食に慣れてしまっている子供らの胃袋は、とても小さく、アッと言う間に満腹に。

 ガンガンお替わりしているフェリシア、ステファニーさん、ケモ耳ズの勇姿を、羨ましそうな、羨望の眼差しで見て居たのであった。


 うん、君達、そこは別に尊敬するポイント違うからね?ww と海渡は心の中で突っ込んだ。


 風呂場でも子供達は大興奮。

 全員が、生まれて初めての風呂体験らしく、ラルク少年と2人で洗い方やマナー等を教えこんだ。

 湯船に浸かると、


「あーー・・・天国ってこう言う所なのかな?」

とボソッと呟く少年も居た。


 風呂から上がった子供達は、

「俺、こんなベッドにねるの初めてだよ!」

と各自振り分けられた部屋のベッドに再度大興奮していた。



 海渡は風呂から上がると、ドレン王国の王都の店長に連絡し、辺境都市グエンザンの冒険者ギルドのギルドマスターの状況を説明し、王様と王都支部のギルドマスターであるドゲルさん経由で、冒険者ギルドの本部と、グエンザンの領主の両方へ、改善要求と圧力を掛ける様に伝言を頼んだ。



 さて、この時点の海渡は知らなかったが、この日の夜のギルドでは、職員が大量辞職する騒ぎがあり、男性職員数名を残して、10名もの職員が辞職したのだった。

 この世界の雇用契約は、日本の様に、辞める又は辞めさせる1ヵ月前に~ の様な縛りも法律も無く、ある日突然「お前クビ!明日から来なくて良いよ」や「俺仕事辞める!」が普通に通用する世の中であった。


 まあ、世間的に雇用主有利で、雇用される側の権利は重要視されていないのだが、もう一つの理由は、魔物という危険に満ちた世界なので、日本人には考えられない程、死が身近に落ちている世界だからである。

 商用で、又は私用で出掛けて、魔物や盗賊に襲われて、翌日から出勤しない・・・なんて事が、割と多く、一部の専門職や職人を除き、誰でも出来ると言う事が多いのも理由の1つである。


 つまり、何が言いたいかと言うと、10名のギルド職員がギルドマスターの放任振りに怒り、女性陣7名、男性陣3名が、一気に辞表を叩き付け、ギルド内がてんやわんやになった訳である。


 ここのギルドマスターのパワハラは酷く、何か反論したりすると、

「お前なんか、居なくなっても、全然俺は困らない。文句あるなら、クビにするぞ?」が口癖で、件の受付嬢は、これを上手く利用し、切っ掛けを作ったのだった。


「あ、じゃあ、辞めますわw」

と辞表を出して、スタスタとギルドマスター室を去り、それを見た(事前打ち合わせ済み)の職員が、

「あ、じゃあ、俺も!」「私も!」・・・と次々と辞表を提出し、ギルドの職員寮から出て、暗闇に染まった中、一路海渡の拠点へとやって来た。


「ピンポーン♪」

とインターフォンを鳴らし、


「はーい、あ? 受付のおねーさん? はい、今開けたから、宿舎まで来て。」

と海渡が応答し、ライトアップされた通路を巨大な宿舎へ向けて歩いて行く10名の男女。


「わぁ~♪ 話には聞いたけど、これは凄いわ!」

「まるで、ここだけお伽噺の世界だなw」

と同僚達がワクワクしていると、


「ふふふ、こんなの序の口よ! もうね、中に入ったらもっとビックリするからね? さあ、この話を持って来た私を褒めてよねw」

と鼻の穴を膨らます受付嬢のおねーさん・・・この美人と言うより可愛い系?愛嬌のある系?のおねーさんの名前はキリコと言う。

 黒髪に黒い目をしていて、贔屓目に見ればヨーコさん系の女性である。

 キリコは、受付嬢としては、かなり優秀で、細かい所に気が付き、冒険者からの信頼も厚かった。

 また、持ち前の性格が明るく、気さくな事から、ムードメーカーでもあった。

 御年21歳・・・本人曰く、「色々出遅れた・・・」と半ば結婚を諦めてはいた。

 まあ、そんな彼女からの話だったので、ギルマスのパワハラや運営方針に嫌気のさしていた他の同僚達は、即決で飛びついたのだった。


「いらっしゃい。えらく早かったですねw 明日とかって言ってた気がしたんですが?」

と海渡が言うと、


「ああ、もうパワハラ上司に嫌気さしてたから、我慢出来なくてね。サクッと辞めて来ちゃった。同僚も誘ったけど、大丈夫かな? と言うか断られると、私が困るんだけど・・・」

とグイグイ押して来る。


「ふふふ、そこら辺は安心して下さい。さあ、夕食まだでしょ? 出しますので。食堂へどうぞ。」

と10名全員に、セキュリティキーのブレスレットを登録させた後、大食堂へと案内する海渡。


 店長を呼んで、10名と引き合わせ、食事を取らせながら、色々と説明を聞いて貰った。


「ちょっと待って!何この食事!! 滅茶滅茶美味しいんですけどぉ~!!」

とキリコさんが、声を上げる。


「ああ、今日の夕食はミノタウロスのハンバーグですね。 うちの料理は美味しいでしょ?」

と海渡が言うと、ウンウンと全員が頷きながら、バクバクと食べている。


 店長は微笑みながら、

「ふふふ、この料理ですが、驚く事に、カイト様が考案された料理なんですよ?

 うちの店で販売する魔道具やその他の物、カフェのスイーツ、レストランの料理、大半がカイト様の作った又は考案された物ばかりです。」

 と自慢気に説明する店長。


「すっごーい。6歳でSSランクってのも驚きだけど、こんな料理まで・・・カイト君って何者?」

と驚きながら聞くキリコさん。


 そこで、海渡は、説明し始めた。

「まあ、あまり大っぴらに言う程でも無いのですが、俺は元々この大陸の人ではないのです。店長もですがw

 こことは別の大陸からやって来ました。あっちのディスプレイを見て下さい。これが、ここの大陸で、我々の住んでいる大陸は、ここになります。(と画面に世界地図を表示して説明する)

 この世界には、大陸が5つあって、うちの大陸は、この大陸・・・便宜上大陸Bと呼んでますが、この大陸Bより若干小さいぐらいの大陸なんですが、その大陸で1つの国を治めてます。

 向こうの大陸では、冒険者でもあり、商会の会長でもあります。ちなみに、冒険者のランクはSSSランクです。

 これが、我が国、神王国日本の領土と雰囲気ですね。(とここで、日本の映像を色々と見せる。)

 まあ、こちらへは、観光半分、気に入れば拠点を作るって感じです。この大陸では、ここが4つ目の支店となります。」

と説明すると、全員が食べるのを止め、アングリと口を開けていた。


「え?つまり王様って事?」

とキリコさん。


「ええ、一応。まだ建国して半年ぐらいですけどね。」

と海渡。


「「「「「「「「「「えぇーーーーー!!」」」」」」」」」」

と全員が絶叫したのだった。

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