第461話

 市場の会場に辿り着くと、一気に周りに見物人が集まって来た。


 海渡が運営の事務所に赴き、昨日のおねーさんを見つけ、

「これを持ち込んで良い?」

と聞いて見た。


 それを見た、係のおねーさんは、驚いて暫く固まっていたが、直ぐに運営のトップを引っ張って来た。


 うん、昨日床に崩れ落ちていた、おじさんだ。

「どうも、おはようございます。昨日熱烈に連日の参加を打診されたので、うちのスタッフと話し合って、出来るだけ協力しようかと言う話になったんですが、如何せん西門の先にある拠点からだと、流石に屋台を引っ張って来るには、距離がありすぎましてね。

 で、これなら自走出来ますので、これを許可頂ければ、ほぼ毎日出店出来るんですがね・・・。如何でしょうか?」

と海渡が言うと、おじさん大喜び。


「いやぁ・・・昨日はあんな感じで言われたので、殆ど諦めていたんですが、これは嬉しい。しかも、これは凄いですね!?

 絶対に目玉になりますよね。」

と大絶賛。


「ただ、これを昨日の場所まで持って行くとなると、通路が大きくないと無理なんですよね。」

と海渡が言うと、


「なるほど。確かにそうですな。」

とおじさんも理解する。


 この市場だが、入り口に運営の事務所があり、塀で囲まれた市場のエリアがあって、基本3本の約2mの通路の脇に各店舗がシートを広げたり、台を置いたりして露店をやる感じである。

 つまり、昨日海渡達が屋台を展開した場所は袋小路の一番奥で、隣は塀となっていた。


 そこで、海渡はおじさんに提案してみる事にした。

「客の動員や動線を考えると、集客力が見込めるこの移動販売車両は、昨日と同じ位置に置いた方が、他の店にも良いと思うんですよ。

 もし、ここの入り口付近に置くと、ここで混雑しちゃって、中まで人が入って来なくなる可能性もありますよね?

 だから、昨日と同じ場所に置けば、そこまで通路を通って、他の店でも買い物をする確率が高くなります。

 だけど、今のままでは、おそらく身動きが取れず、車両を奥までは持って行けない・・・。

 で、提案なんですが、あの塀の一部・・・具体的に昨日の場所の横に1つ通用門作りませんか? ご了承頂ければ、こちらで作りますよ。

 調べると、あの塀の向こう側って、幅5mぐらいの路地ですよね?

 だから、上手く門を付ければ、そこから出し入れ出来ると思うんですが、如何でしょうか?」

と聞くと、即決でOKが出たw

 しかも、あの場所は海渡達専用の場所として固定してくれる事になった。


 いやぁ~、話が早くて助かるぜw

 と言う事で、早速海渡は、昨日の場所の横の塀を切り取り、ガッチリとした門を作った。

 セキュリティキーか、認証コードを入れれば開くタイプにし、おっちゃんに車を作ったばかりの裏門へと誘導し、所定の位置に駐車した。


「ふぅ~、何とか無事に辿り着いた~・・・ 燃え尽きたぜーw」

と冷や汗を手の甲で拭うおっちゃん。


「いや、今からが本番なんだから、そんな『遣りきったぜ!』的な雰囲気出されてもねww」

と笑う海渡。


「ははは・・・」

とおっちゃんも渇いた笑いを漏らす。


 そんなおっちゃんを、容赦無く引き連れて、事務所での手続きを行い、店の開店準備を教える。


「基本は、昨日教えた通りで、レジだけちょっと便利に作っちゃいました。」

とレジの使い方を教えると、計算が出来ない少年少女達が、ホッとした顔をしていた。


 そうか、まだ計算教えてないもんね。

「君らって、文字の読み書きはどう?」

と聞くと、数字だけは判るらしい。


「じゃあ、夜は文字の読み書きと計算の勉強だなw 取りあえず、数字が大丈夫なら、このレジは使えるから安心して。」

と海渡が言いながら、試しにレジを全員に打たせて訓練を10分程やった。


 タコマークと鯛マークのキー、後は数字と精算キーしか使わないので、全員がサクサク理解して使いこなしていた。


 市場全体で見ると、かなりの場所が埋まり、お客さんもボチボチ入り始めている。

「さあ、そろそろ本番開始だ。みんな気合い入れて、気楽に楽しんでねw」

と海渡が言うと、


「「「「「「「「「うぉーーーーーーー!!!!」」」」」」」」

と全員が拳を突き上げていた。


 全員が1回ずつ焼くウォーミングアップを行い、全てが問題無い事を伝え、ガンガンと焼き始めた。

 焼き上げたら、それをストッカー(時空間共有倉庫)に入れ、混雑時に備える様にしている。

 適度にローテーションしながら、焼きを交代する様に指示していたが、オープンして、2分後には、客が並び始める。


 昨日は海渡の屋台のお陰で、本来なら、場所が悪い筈のこの奥の辺りの店が、軒並み通常よりも売り上げが良かったらしい。

 周りを見ると、周囲の店のメンツが昨日と同じで、みんなニヤニヤと笑いながら、海渡に会釈をしていた。

 所謂、コバンザメ商法であるw


 海渡はほぼ口出しもせず、見守っていたが、当初2名張り付いていたケモ耳ズも、開店から2時間もすると、1名交代で見守る感じになっていた。


「お客さんの入りは、昨日以上ですが、大丈夫そうですね?」

とミケが海渡に同意を求めて来た。


「うん、良い感じに馴れた動きになってきてるね。問題は昼飯時のローテーションと午後の体力かな。」


「そうですね。立ち仕事って馴れないと、かなりキツいんですよね。子供らが大丈夫かちょっと心配です。」

とミケが不安そうに言っていた。


「まあ、最悪の場合、早仕舞いって手もあるからなw 別に午後4時まで売る必要はないし。

 徐々に馴れて行けば良いだけの話だ。」

と海渡が言うと、それもそうですねw と笑っていた。




 ごめんなさい・・・口コミの威力を舐めてました。


 昼頃から、客足は増える一方で、運営のおねーさんが、驚きながら報告に来る程の客数らしい。

 しかもほぼ目当てが、海渡達の出した移動販売車両らしく、ギッシリと並んでいるらしい。


 青い顔をしたおねーさんが、

「カイトさん、これ材料が足り無くなったりしませんか?

 と言うか、ここで材料切れとか言って閉店になると、かなり暴動が起きそうなぐらいの勢いなんですが・・・」

とビビっていた。


「うん、材料は大丈夫だけど、店員が保つかちょっと心配。」

と海渡も弱気な発言を返す。


 実際に作りながら売っては居るが、混雑の原因は作る時間が掛かりすぎる事のようだ。

 そこで、海渡は急遽拠点へと戻り、訓練していたラルク少年達やフェリンシア、ステファニーさん、ジャクリーンらにヘルプを要請し、拠点の厨房で、ガンガン作って共有倉庫経由で補充する事にした。

 7人体勢でガンガンとたこ焼きや鯛焼きを焼き、倉庫へ入れ続ける。

 供給量が2倍になった事で、長蛇の列は急激に捌けて、常時20名ぐらいの列へと戻ったと報告を受け、ホッと安堵する海渡達。

 しかし、油断するとヤバいので、午後4時まで焼き続けたのだった。



 午後4時半におっちゃん達が戻って来たが、燃え尽きた様にグッタリしていたw

「お疲れ様!いやぁ、初日から飛ばしてたねぇw 売り上げどうだった?」


「ボス、昨日も凄かったですが、ザックリ昨日の2.5倍です。凄い売れ行きでした。

 あの時、ボスが機転を利かせて増産してくれてなかったら、軽く死傷者出てたかも知れません。」

と真顔で言っていた。


「マジか・・・」


 そこで、海渡は、再度子供らに応援要請を夕食時に行った。

 すると、更に14名が手を挙げて、それに釣られ、5名増えたw

 夕食後に、新しく手を挙げた19名に特訓を行い、全員が満足いくレベルのたこ焼きと鯛焼きを焼ける様になった。


 販売車両では、常に6名が焼き係となるので、総勢25名が焼き続ける事になる。

 販売車両を若干レイアウトを変えて、レジを2つに増やしたので、更に接客効率が上がるだろうから、これで多分大丈夫な筈。


 念の為、再度1日滞在を延長し、様子を見る事にしたのだった。

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