第448話

 異世界7ヵ月と23日目。


 昨夜は遅くまでチェックしたりしてたが、いつも通りの時間に目覚めてしまい、再度エストニアの各領主館の様子と王宮の様子をチェック。


 更に進軍中の軍の様子をチェックすると、

「あれ? 昨日の夕方よりも先に進んでるだと!?」

と驚きの声を漏らしてしまった。


 昨日の夕方チェックした際には、止まって夕食の準備に入っていたので、油断してしまったのだが、それから、更に進軍したらしい。

 現在国境まで9kmの地点となっている。


 うーーん、これは・・・予想外に頑張っちゃった感じ?

 これだと午前中には国境越えちゃって、早ければ午後一にでも砦で開戦の可能性大だな。


 さて、エストニアのこの軍隊だが、先日極秘裏に開発が完了したと言う、魔動砲の影響で、毎回負け続けていて士気が低下していた軍隊だが、今回に限り鼻息が荒く、士気も上々である。


 どうやら途中で合流した魔動砲の開発部隊が、夕食の度に、どれだけ新兵器が優秀で、どれだけの威力があるかを吹聴して廻ったらしく、その鼻息の荒さが、影響したらしい。


 その結果、兵達の夕食時の会話では、

「もしかして、今回はイケるんじゃね?」

「蹂躙し放題のボーナスステージだべ!」

「俺、可愛いの見つけて、奴隷にして持って帰るんだww」

等と、ワイワイと取らぬ狸の皮算用で妄想街道を爆走していた。


 まあ、この先のオチを知っている海渡にしてみれば、罪悪感が消え失せる内容で、安心するばかりであったのだが。




 と言う事で、早めではあるが、準備時間は多いに越した事が無いと、警報を出す事にした。


 エリーゼンの王宮と軍施設、各砦の端末に『国境から9km地点にてビバーク中』のメッセージを添えて配信した。




 早朝からの警報で、エリーゼンの王宮と軍部、そして当事者となる砦は慌ただしく動き出す。

 ただ既に準備済みで、後は砦に人員を輸送するだけとなっているので、警報の30分後には、輸送用の飛行4機に騎士や兵士が乗り込み、飛び立ったのであった。



 朝練の時間、海渡は弟子ズを前に、敵軍が国境9km地点まで来た事を伝え、早ければ本日の午後一に開戦するだろう事を伝えた。


「ダーリン、私も何か出来る事ないかな?」

とソワソワするジャクリーンさん。


 海渡は、

「まあ、落ち着けよ。万全の備えをしてあるし、即死でない限りは完全回復出来るんだから。

 この作戦で一番大変なのは、国境での戦いよりも、全都市の制圧後の運営体制を軌道に乗せる方だからね。

 状況を見つつ、アーサーさんの方と打ち合わせしながら、必要な時は即座に動けば良いし、まずは前戦の兵士を信じて待とうね。」

と宥めるのであった。



 朝食後に敵軍の様子を伺うと、意気揚々と行軍を再開し、8km地点を通過していた。


 海渡ら4名は1期生と共に、アーサーさんの待つ王宮へと移動し、早速会議を始めたのだった。


「カイト君、昨夜はご苦労様でした。あと、早めの警報ありがとうね。早速緊急招集掛けて、2つの砦に増員を送ったよ。」

とアーサーさん。


「いえいえ、こちらこそ、予定が少し前倒しになっちゃって、すみません。」


 海渡は、今回の遠征軍が魔動砲の件で、予想以上に士気が高い事、更にそれでヤル気を出した様で、1日早まった事で予定通りに今夜倉庫を空にするのでは間に合わない事を告げた。


「こうなれば、昨夜の内にやっておけば良かったんですが、今更ですね。」

と海渡。


「まあ、こればっかりはしょうが無いですよね。」

とアーサーさん。


 そこで、海渡は2つのプランを提示してみた。


 プラン1は、国境の軍は本日制圧し、生き残りを全員幽閉し、明日まで待たせて、明日王都を制圧する。


 プラン2は、多少バレる可能性はあるが、今から王宮の倉庫を空にして、当初の計画通りに制圧する。


「ふむ・・・もしプラン2を選択した場合なんだけど、カイト君達に危険は無い?」

と申し訳なさそうなアーサーさん。


「まあ、光学迷彩を掛けて、気配遮断して行くので、ほぼ見つかる事は無いと思いますが、見つかった場合は、仕留めるか、逃げるかする程度で、危険と言う危険は無いかと。」

と海渡が事も無げに答えると、


「じゃあ、申し訳無いんだけど、プラン2でお願いしたい。」

と頭を下げてお願いされたのだった。



「よし、今から準備して、エリーゼンの王宮で、宝探し行くぞ!!」

と海渡がニヤリと笑って宣言すると、


「「「「「「「「「「「おぅ!!」」」」」」」」」」」

と1期生を含めた10名が威勢良く拳を突き上げた。


「あ、ジャクリーンはお留守番な!」


「なんで? ダーリン、連れてってよーー!!」

と絶叫するジャクリーンさん。


「だって、ジャクリーンって、気配ダダ漏れじゃん。

 ダメだよもっと隠密上げないと。

 幾ら魔道具で光学迷彩掛けても、気配が漏れたら、作戦失敗だよ?」

と海渡が言うと、素直に項垂れていたのだった。



 5分掛からずに、光学迷彩のローブを纏い、気配を殺し、それぞれの持ち場の倉庫や金庫室等へ分散してゲートを潜った。


 海渡の持ち場は兵器庫である。

 ここの兵器庫には、例の魔動砲が5台程格納してあり、一応警備兵が倉庫の中に在中している。

 他の倉庫等に比べると、かなり厳重な警備体制なのである。


 そこで海渡は、まず小さいゲートを天井付近に開き、そこから昏睡を倉庫内に掛けた。

 ドローンの映像で、床に崩れ落ちた衛兵の姿を確認し、本格的にゲートで兵器庫へ移動した。


「ふふふ、他に警報がある様だな。」

と海渡は魔動砲が設置されている場所の魔力の流れを確認し、小声で呟く。


 ラルク少年達には他の武器の収納を命じ、海渡は警報用の魔道具の魔方陣を慎重にキャンセルし、完全に解除したのだった。

 海渡は10秒掛からずに、サラッと警報の魔方陣をキャンセルしたのだが、実際にはこれは普通の最上級魔道具技師でさえ不可能な技なのである。

 元々は、下手に弄れば、警報が鳴る様に組まれた物であるのだから、起動したまま魔方陣を暴走させずにキャンセルするには、一気に魔方陣を消す必要があるからである。


「ふぅ~、良い仕事したぜww」

と掻いてもいない汗を拭う仕草をして、ニカッと笑う海渡。


「兄貴! そんな所で遊んでないで、早く次の部屋に行きますよ!!」

とラルク少年に叱られて、頭をポリポリと掻きながら、魔動砲を収納したのだった。


 海渡達兵器庫&武器庫班は、合計4つの倉庫をサクッと片付けて、最後に仕込みを置いてから、アーサーさんの待つ会議室へと戻ったのだった。


 今回の勝負は、金庫室、宝物庫担当のステファニーさんチームが1番乗り、2番手が海渡達、3番目が食料庫担当のフェリンシアチームとなった。

 最後に戻って来たフェリンシア班だが、何故か全員が『やり切ったぜ!』と言う満面の笑みで戻って来ていた。


「ふふふ、みんなご苦労さん。トラブルは無さそうだねw」

と海渡が言うと、全員が親指を立てて、ニカッと笑っていた。


「相変わらず、本当に凄いよね。」

と30分掛からずに一仕事を終えた海渡達を前に、只管感心するアーサーさんだった。

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