第447話


 海渡らが、王城を出た後、王都に王の引退と第一王子ジャールさんの王就任が知らされていた。


 王都の商人も民もお祭り騒ぎで大喜びである。



 王城からの帰り道の車内で・・・


「あの王、どれだけ国民から嫌われているんだよw」

と苦笑する海渡。


「いやぁ~肝が冷えましたよ・・・カイト様もお人が悪い。」

と恐縮しながらも、助手席に乗っているレイファルさん。


「しかし、凄いですな。あの一瞬で滅ぼす兵器?思い出しても身震いが。

 そんなカイト様に運転させて横に乗せて頂いているのが不思議です。」

とレイファルさんも苦笑する。


「ああ、うちの国って、あまりそう言うのは気にしないんですよ。

 実際、このメンバーで旅してる時とかって、調理する時は、ほぼ俺ですし。」

と海渡が言うと、


「えーーー!?」

と驚かれた。


「そやな、うちらは食べる専門やな? カイト君の料理滅茶美味いし。」

とステファニーさんが言うと、


「そうですね。海渡の料理は格別ですからね。私は出会った頃から胃袋掴まれてます。うふふ」

とフェリンシアも同意する。


「しかもダーリンは最高に強いし。もうメロメロです!」

とジャクリーンさんも付け加える。



 結局、あの海渡に喧嘩を売った場合のサンプル動画を見せつつ行った恫喝・・・いやプレゼンの後、速攻で王の引退が決まり、後日、改めて城壁の拡張の話をさせて下さいとジャールさんに頭を下げられ、1週間後ぐらいにと言う事になった。


 海渡曰く、

「だって、あのプレゼンやっておかないと、レイファルさんの所に迷惑掛かりそうだったし、俺もちょっとカチンと来たしw

 まあ、結果オーライって事で。」

と。


 レイファルさんからは、今夜是非泊まって行ってくれとお誘いを受けたのだが、明日明後日は忙しいので、また後日お邪魔しますと言う事で納得して貰ったのだった。


 少し遅めの昼食を適当な店で取って、2時間程散策した後、海渡達はエリーゼンの拠点へとゲートで戻って来たのだった。

 味? うん、味はソコソコ美味しかったよ。フェリンシアもステファニーさんもお替わりしなかったけどね。



 エリーゼンの宿舎に戻った第一声で、


「なあ、カイト君、うち夕飯はお好み焼きが食べたいねん。」

といきなり言い出すステファニーさん。


「え?いきなりだねw」

と海渡が言うと、どうやら昼食が不発と言うか期待値に達してなかったらしく、ご不満らしい。

 その意見に、フェリンシアも同調していた。


「まあ、そうそう美味しい店には有り付けないですよ? あ、でもダーリンのお好み焼きは食べたいです!」

とジャクリーンさんもワクワクしている。


「ふむ・・・お好み焼きかぁ。言われてしまうと、確かに食べたいな。

 今午後4時半か。じゃあ、お好み焼き用の鉄板就きテーブル作ろうかな。」

と海渡が言うと、3人は大喜びであった。


 早速、海渡は王宮の地下工房で、鉄板就きのテーブルを20セット作成し、エリーゼンの宿舎へと戻って来て、下ごしらえの準備に入る。

 鉄板は一応、作りたてと言う事で、シーズニングを行って置く事にした。


 4人で手分けして、大量のキャベツと小ネギを切り、小麦粉を篩に掛けて、山芋おろしを魔道具のおろし器で擦って貰う。

 オークのバラブロックから、大量にミートスライサーでバラ肉のスライスを切り出し、お好み焼きソースを調合し、青のりと、魚粉を用意した。


 再度、鉄板に油を馴染ませ、屑野菜を軽く焼き、鉄臭さを取ると、準備完了である。


 時刻は午後5時40分、既に腹ぺこシスターズの涎が凄い状態なので、海渡が焼き始める事にした。


 小麦粉と山芋を水で溶いた生地にキャベツと小ネギを混ぜ、10個の鉄板で関西風のお好み焼きを焼いて行く。

 上にはオークのバラスライスを載せ、ドンドンと裏返して行く。

 シーズニングが良かった様で、鉄板に焦げ付く事無く、表面も綺麗に焼き色が入る。


 更に裏返し、ソースを塗って、青のりと魚粉を掛けていく。

 ああ、懐かしい我が家のお好み焼きの匂いがする!! もうこの時点で海渡の期待値もMaxである。


 焼き上がったお好み焼きを1人1枚ずつ渡して、他のテーブルの焼けた物をアイテムボックスに収納して行く。

 海渡は食べながら、次の一群を焼いて行く。

 3巡程焼いた所で、弟子ズがゾロゾロとやって来た。


「わぁ!すっごい良い匂いが!! 何ですかこれ?」

 とお好み焼きを知らない2期生以下が食い付いて来て居る。


 海渡は焼き方を教えながら、ドンドンと焼いて行く。

 弟子ズは全員調理スキルを持っているので、自分で焼きながら食べ始め、


「うっめーー!」

「これ美味しいです!!」

とはしゃいでいた。


「ふっふっふ・・・我が家直伝のお好み焼き、気に入って貰えた様だなw」

とみんなが喜んで食べてる様子を見て、ほくそ笑む海渡。


 昔、元の世界で、両親と一緒にホットプレートで焼いていたお好み焼き。

 もうこっちでは、食べられないかと一時期落ち込んでいたのだが、コーデリアで必要な材料も発見し、実物も食べ、そして今日ここで再現出来た訳である。

 胸が熱くなる味だな。



 海渡は、その後もあるだけの材料でお好み焼きを焼き続け、全員が満足した時には、あれだけ用意した材料の90%以上を消費した後だった。

 流石は育ち盛りの弟子達だ。食欲も半端無いな・・・と内心苦笑した。

 そして、大好評の内にお好み焼きパーティーが終わった。


 弟子ズも含め、早めに仮眠を取って、今夜の仕事に備える事にしたのだった。




 そして、夜中の午前0時、海渡は弟子ズと共に、アーサーさん達の待つ、王宮の大広間へとやって来た。


「では、これより、事前に決めた作戦通り、1期生~3期生の混成7チームによる救出作戦を開始する。

 もし、制裁対象が居た場合は、前回同様に、あの希望の岬ダンジョンのオアシスにポイして来る事。

 何度も言うが、最悪の状況で優先すべきは、自分と仲間の命。これを胸に刻んで置いてくれ。

 良いか? 絶対に死ぬ事は許さん。最悪は各自に配ってあるエクサーを使用するなり、何でも構わない。

 ちゃんと生きて帰って来る事。」

と海渡が言うと、


「「「「「「「「「イエス・サー」」」」」」」」」

と全員が声を揃え、敬礼した。


「では、作戦開始!」


 各チームが即座にゲートで移動していった。


「いやぁ、カイト君ところの弟子達は凄いね!! 何処の特殊部隊よりも凄いよね?」

と絶賛するアーサーさん。


「ふふふ。お褒め頂きありがとうございます。

 まあ、本来こう言う事の為に鍛えている訳じゃあなかったんですがね。

 何だかんだで、頼りにしちゃってます。

 でも、ダンジョン制覇よりは、安全な任務ですからね。」


 そして、10分が経過した頃に、第一陣が要救助者をゲートで送って来始めた。

 殆どの要救助者が、海渡が事前に渡しておいた毛布を纏っている。


 4期生がハチミツ水の入ったコップを配りながら、軽食を配ったり、衣服を配ったりしている。

 中には、絶望しきった状態で、何も考えられない無気力状態の人も居たりしたのだが、徐々に救助された事を理解して行き、大号泣し始める人や、一心不乱に配られた軽食を食べる人、安心して眠りにつく人等、救助者が増える度にカオスの度合いを増していく。


 作戦開始から約1時間で、要救助者273名の救出が終わり、18名がオアシス送りとなっていたのだった。


 海渡、フェリンシア、ステファニーの3名は、最終確認で全員の健康状態をチェックして廻り、回復漏れが無い事を確認した。


「お疲れ様。これにて救出作戦は終了です。各自部屋に戻ってユックリ休んで下さい。

 では、後の事はアーサーさん、宜しくお願い致しますね。」

とアーサーさんにバトンタッチし、海渡達は宿舎へと戻ったのだった。



 海渡は宿舎に戻って、ハチミツを混ぜたホットミルクを作って飲ませてから解散した。



 解散後、海渡はモニターで各領主館の様子を確認してみると、軽く騒ぎになっている所が3箇所あった。

 まあ、騒ぎが起きた所で、どうと言う事は無いのだが、『何か』をワクワクしながら観察していた。

 小一時間程、観察していたのだが、特に何も仕掛けて来なかったらしく、海渡の期待は空振りに終わり、


「なーーんだ・・・何も仕掛けなかったんかい! 弟子達よ、まだまだ甘いな・・・」

と呟きながらベッドに入るのだった。

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