第325話
海渡ら3名と1匹は、教会の裏の孤児院へとやって来て、園長へ面会をお願いした。
通された園長室で、羊族の優しそうな園長と話し、経営状態を聞くと、ワンスロット王国の酷かった孤児院程は困窮してないものの、余裕がある状態では無かった。
いつもの様に、寄付と食料の支援を行い、子供らに文字カードや計算の教科書、リバーシ等の遊具を差し入れした。
そして、本題の孤児院の卒業生の就職先の事を聞くと、ご多分に漏れず、やはり選択肢が少ないらしく、無職or冒険者ぐらいしか無いのが現状との事だった。
内心ホクホクしながら、さえじま商会で働かないかと聞いた所、大半の卒業生が、喜んで入る事となった。
ちなみに、この孤児院では55名の孤児を預かっており、卒業生は11名。うち9名がさえじま商会に入る事となっている。
驚いたのは、ここの孤児院の卒業年齢が、10歳であった事だ。
まあ、10歳だと人族で言う15歳ぐらいには見える体つきになるので、冒険者と言え、やり方次第では可能性がある事はある。
しかし、禄に戦闘訓練もせず、冒険者となって無茶な依頼で、怪我をする子が多いらしい。
そこで、冒険者志望の卒業生2名に「孤児支援プログラムに入らないか?」提案してみた。
冒険者登録して依頼を受けるのは良いが、12歳になるまで戦闘訓練と住む場所を確保し、切羽詰まって無茶な依頼で怪我や命を落とさない様にしてはどうだ?と言う訳だ。
すると、その2名も大喜びで、「「お願いします!」」と頭を下げていた。
やはり住む所の確保や食事や装備の確保等で、結構焦っていたらしい。
他の孤児達にも、もし卒業時に就職先が決まらないのであれば、さえじま商会に迷わず来る様に伝えておいた。
11名の卒業の日程は1月末らしい。
研修で2週間程ブランクが出来るのでこちらとしても丁度良い。
と言う事で、卒業後、必ずさえじま商会の宿舎へ来る様に約束し、孤児院を後にしたのだった。
「あとは、自動車と飛行機の納品&教習が終われば、取りあえずの目的は果たしたかな?」
と海渡が言うと、
「あ、あの狸オヤジの店は行かなくて良いんですか?」
とフェリンシアがすれ違った狸族の通行人を見て思い出した様に聞く。
「あ~、そう言えばそうだったね。どうしようか? まあ確かに定期的にコーヒーとスパイスは必要だけど、あそこから買わないとダメって事はないしねぇ。」
と海渡が微妙な返事をする。
「まあ、あっちに感謝の気持ちがあるんやったら、先方から出向いて来るやろw あれだけ派手に店作ったんやしw」
とステファニーさん。
「だよなぁ。それより、スパイスも揃った事だし、カレーライスでも作るかw」
と海渡が提案すると、
2人は
「「それだ!」」
と海渡の手を引っ張って宿舎へと戻るのだった。
宿舎に戻り、大食堂の厨房で、スパイスをすり潰し、智恵子さん情報と味覚を頼りに調合を進める。
配合比率は、ちゃんとメモしてある。
少量ずつ小麦粉を混ぜて、ルーの原型の様なペーストが完成。
隠し味に少しリンゴと蜂蜜を混ぜてみたバージョンも作ってみた。
目指す辛さは某金色のカレーの中辛である。
タンカー・ホエールの肉ブロックをから一口サイズの肉を切り出し、フライパンにバターを投入して軽く焼き色を付け寸胴に投入する。
玉葱は食感の残るサイズを飴色になるまでフライパンで炒め寸胴に投入する。
寸胴に他の大きめのジャガイモやニンジンを入れ、刻んだニンニク、摺り下ろしたペースト状のジャガイモと玉葱も投入して水を入れて時短調理器で煮込む。
何度か丁寧に灰汁取りをし、更に煮込む。
寸胴に作ったルーを入れ、程よいとろみが出るまで煮込む・・・~~(ry
時短調理器で、10時間程煮込んだ状態になった。
少し、小皿に取って味見・・・
「「どうですか(どうなんや)?」」
と2人が海渡を覗き込む。
「やったーー!夢にまで見たカレーだーーー!!!!!」
と海渡が大はしゃぎ。
「やりました! 海渡はついにやりました!! 苦節3ヶ月・・・やっと念願のカレーライスが出来ました!!!」
とテンション上がりすぎて、変な踊りを披露しつつ、海渡が口走るw
「隊長! 炊きたてのご飯の準備は完了であります!」
とフェリンシアとステファニーさんが敬礼する。
「よし、フェリンシア軍曹、各皿にご飯を盛り付け、所定の位置に展開せよ!」
「了解であります!」
2種類のルーを小鍋に取って、テーブルにイソイソ持って行く海渡。
「こっちが、少し甘い隠し味が入ってる方で、こっちがスタンダードな方。両方試して好きな方で食べてね。」
と言って、海渡はスタンダードから試す事にした。
まずは、少しだけ掛けて、頂きます!
スプーンで記念すべき異世界初のカレーライスをパクり。
「おーーー!!!これだよ!これ!!!」
と大騒ぎする海渡。
2にも海渡に続き、一口食べる。
「「美味しい!!!!」」
と叫ぶ2人。
「何ですか、この美味さ! これがカレーライスですか!!」
「これ、絶対コーデリアでも流行るで!!」
「まあ、みんな落ち着け!! 今度は隠し味バージョン行ってみようよ。」
と海渡が提案し、また少しだけ掛けてみる。
パクリと一口食べると、
「これもうめぇ~!!!」
と海渡が再度絶叫する。
そして2人も後に続き、やはり絶叫。
「うーん、困ったな。どっち食べようかな?」
と海渡が真剣に悩んでいると、
「え?両方1杯ずつ食べれば?」
とフェリンシアが画期的な提案。
「それだ!」
と迷う事なく、スタンダードを食べ、次は隠し味バージョンを堪能する。
「タンカー・ホエールの肉が万能すぎる。 これマジで何の料理にも使える肉だなww」
10時間煮込んだ肉は柔らかく、口の中でバラバラに解れる。
しかも肉の旨味が凄い。
「マジで過去に食ったどのカレーよりも美味い! ジャガイモも玉葱もニンジンも素材が最高だし。この1杯は値千金だな。」
等と喜んで食って居る最中にブー、ブー、ブー警報音が鳴り響く。
「ブー♪ ブー♪ ブー♪ 警告!警告! 内部に侵入者在り。 許可期限を過ぎた訪問者の不法滞在。警備班は至急5階大浴場女湯まで急行の事。繰り返す。
ブー♪ ブー♪ ブー♪ 警告!警告! 内部に侵入者在り。 許可期限を過ぎた訪問者の不法滞在。警備班は至急5階大浴場女湯まで~~(ry」
「おいおい、テスト以外で初めて鳴ったよ!」
と海渡は警報音のスイッチを警備室でOFFにして5階の大浴場へと向かう。
5階大浴場の女湯では、その看板部分が赤く光っていて、不法侵入者の存在を示している・・・。
「どうやらここで間違いないらしいな。 ん?待てよ?許可期限を過ぎた訪問者とか言ってなかったか? もしかしてプリシラじゃないのか?」
と海渡がハッとする。
そこへ、他の人達も駆けつけてきた。
「カイト様、これは? 敵の侵入ですか!!」
と何処で拾って来たのか、角材やら、フライパンやらを手にした39名が揃っていた。
「ふっふっふ、バカな奴だぜww このカイト様の城に忍び込むとはw 叩き殺してやるぜ!!」
といきり立っている。
「まあまあw 落ち着けw どうせ其処らのどの王宮よりも厳重で万全の警備網だからw それより誰か、昨夜プリシラが完全に外に出たか、見届けた者は居るか?」
と聞く海渡。
その海渡の問いに、
「「「「「あっ!」」」」」と声を揃える39名。
お互いの顔を見合わせ、全員が首を横に振る。
「よし、犯人はあいつだw」
と海渡が、悪い笑みを浮かべ、それを見てピーンと来たフェリンシアがクックックと笑う。
海渡は通信機を取り出して、昨日通信機を1台あげた人物へ連絡する。
「あ、獣王様、おはようございます。と言ってもソロソロ昼ですが、今、当方の施設に不法侵入者が入った警報が鳴りましてね。
大浴場の女湯でして。で衛兵を呼んで引き摺り出そうとしているんですが、至急衛兵の手配お願い出来ませんかね?
まあ、こちらで死体の処理も遠隔操作で出来るのですが・・・」
と話すと、
「あ、待て!!! 俺が行くから待て!! 5分で行く!!!!!」
と通信が切れた。
5分後、門の所で、獣王を拾って連れてきて貰い、女湯の前にやって来た。
「さて、どうしましょうか? 自動で毒ガスを出したり、電撃で抹殺したりも出来ますが、犯罪奴隷にした方が、お金になるかと思いましてね。」
と悪い笑みの海渡が獣王に対処法を相談(と言う名の脅し)を掛ける。
「まあ待てカイ坊! こ、これには深い訳が!!!」
と冷や汗を掻く獣王。
「え?? どう言う事ですか? もしかして獣王様の手下の者ですか?」
とすっとぼける海渡。
巨体の獣王が膝をついての、自白が始まった・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます