第307話


異世界3ヵ月と6日目。


海渡は目を覚ますと、地下工房の戦闘シミュレーターとカードのラインを確認し、出来上がった物をアイテムボックスに一部収納した。


今朝は特にやらねばならない事は無く、ノンビリ出来る。

なので、昨日の包丁で思いついた、カボチャ! これを使ったパンプキンパイ(この世界では、パイ包み等の料理は見た事が無い)と思ったのだが、海渡のアイテムボックスを確認しても、厨房の倉庫を確認してもカボチャが無い。


あれれ? と思って、智恵子さんに聞いてみると、カボチャはあるのだが、この世界では、カボチャを食べ物と認識してないそうな。


『え?この世界のカボチャって、食べられない? もしくは、不味いとか?』

と聞いてみると、


『いえ、とても美味しいですし、糖度も地球のカボチャより多く、ベータカロチンも豊富ですよ。ただ、こちらのカボチャは地球のカボチャより、凶悪的に皮が堅いんですよ。なので誰も食べようとした事が無いのです。

その堅さ故に、『ドッテン・カボチャ』と言う名前になってます。』

との事だった。


また、生息地は草原や森の浅い部分等、所構わず野生で生えているらしい。

なので、パンプキンパイは取りあえずお預けとし、アップルパイとピーチパイを作成し、そのレシピと作成動画を作った。


更に、肉のパイ包みのレシピと動画も作成した。


それぞれのレシピは、スイーツ部隊のチーフと、アニータさんへのメモと一緒に残しておいた。



部屋に戻ると、フェリンシアが起きていて、準備も終わっていた。



屋上でフェリンシアと全開の勝負・・・いや訓練を行って15分。

休憩にしていると、少年少女3名がやってきた。


「あ、兄貴、姐さんおはようございます。こちらでしたか。一度地下に降りたんすけど、無人でしたので。」

とラルク少年。


「ああ、ごめん、明日からは地下の訓練場で良いよ。ちょっと面白い物を作ったから、楽しみにしていてww」

と3人を連れて地下訓練場へと向かう。


入り口で、3人にカードを渡し、魔力で初期化させる。

(この魔力で本人を認識して、プレイ時の採点したりする。)


まずはそれぞれに1プレイ・・・いや1回づつ体験させる。

1プレイ・・・いや1トレーニングは15分に設定されている。


最初のラルク少年が終わり、感想を聞くと、

「兄貴!これ凄いっす!!! 時間ある時は、自由に使っても良いっすかね?」

と目を輝かせている。


「ああ、良いぞww ちゃんと適度に休憩するならなw」

と言うと喜んでいた。


次はアン、その次はサニー・・・2人の感想も、概ね好評。

これは、初回の15分でグレードの最適化をしながら、適切な負荷レベルでグレードを推定する様にしている。

その後も随時最適化は行われるので、なかなかハードなトレーニングになる様に作ってあるのだ。


ちなみに、設定でトレーニングエリアにシールドが貼られるので、3人で同時に個別でもトレーニングは可能である。


再度3人合同で仲間同士の連携プレーをテスト・・・いやトレーニングさせる。


その様子を微笑ましく見ていたのだが、横からツンツンされて、隣を見ると、フェリンシアが

「3人だけ楽しそうで、ズルイです。私もやりたいです!!!」

とご立腹。


「あーー、そうなるよねぇ。でもさ、これ最強モードのグレード30でも、フェリンシアの敵にはならないんだよね。

グレード30で、そうだな・・・オークキング率いる300匹ぐらいのオーク集落ぐらいの強さだから。」

と説明すると、むむむっと唸っていた。


そこで、海渡が閃く!

「あ! そうだ!! 射撃モード作ってみようか? あの銃をそのままぶっ放すとアッサリシールド壊れるから、ゲーム・・・いや訓練専用のハンドガンを作って、それで訓練するってのはどう?」

と提案すると、大喜び。


早速地下工房で、ハンドガンとマガジンのゲーム仕様を作成した。

光線ではなく、魔力弾を発射する様に変更した。

これなら、シールドも破れず、射撃訓練にもなる。

海渡用とフェリンシア用を作り、急いで訓練場へと戻る。

マガジンは12発撃った後、一回外して、再度付ければまた撃てる様にしている。


仕様を説明して、フェリンシアのカードを初期化して、フェリンシアのゲームスタート。


フェリンシアのハンドガンを見て、

「あのー!フェリンシアお姉様が持って居る武器は何ですか?」

と興味津々のサニーが尋ねる。


「ああ、あれはね、ハンドガンと言って、本当は金属で出来た弾を飛ばす武器なんだよ。ただ本物の弾だと強力過ぎて、シールドを貫通してしまうから、これはトレーニング専用のハンドガンに換えてあるんだよね。」

と説明すると、3人ともに、それはそれで面白そうと言っていた。


「ふむ・・・トレーニングだけではなく、ゲーム性もありそうだなw」

と別の意味でほくそ笑む海渡。


15分後、フェリンシアが楽しそうに笑いながら戻って来た。

「結構当てるのが難しいですねw グレード3にしかなりませんでしたww」


「だよな、小さいでヒョコヒョコ動くし、当てるのは大変だよねw」

と海渡も同意。


その後、3人に型の練習をさせて、本日の朝の訓練は終了した。



朝風呂でサッパリした後、大食堂で朝食を取り落ち着いた後、オスカーさん、ヨーコさんに相談を始める海渡とフェリンシア。

(ステファニーさんは横でダンボの耳にして聞いている。)


年末年始の休み期間中のサルド共和国行きの件、その際にケモ耳3人娘を連れて行こうかと思っている事に関してだが、特に問題は無いとの事。

「まあ、もし何かあっても、カイト様達なら、一瞬で戻ってこれますしww」

とお気楽なヨーコさん。


ケモ耳3人娘の方も、いつかカイト様達のお役に立ちたいと言っていたので、大丈夫だろうと。


コーデリア支店を来年早々にオープンさせる件も、カフェと温泉だけだし、連れてきたコーデリア組の研修もほぼ終わっているので、問題無いとの事。


あと、休み期間中の食事の件だが、ストックは今の所ギリギリ何とか間に合うのではないか? との事だった。


そして、オスカーさんに新しい物を見せるからと、合流したラルク少年少女隊の3名と地下訓練所へ赴いた。


「で、今回は何を見せて頂けるんでしょう?www」

とワクテカのオスカーさん。


「今回作ったのは、訓練用の設備というか、一応名前は『戦闘シミュレーター』と言う魔道具です。」

と言って、少年少女らに、ちょっと軽く1プレイして貰う。


海渡は使用方法や、カードの説明、そして見込まれる販売先等を説明した。


「カイト様!!! これ絶対に売れますよ! 冒険者ギルドへの販売も面白いですね! 国軍、領主軍等へは、確実に売れるんじゃないですかね?」

と大絶賛だった。


更に海渡はフェリンシアにお願いして、ハンドガンで1プレイして貰う。


海渡は自分用のハンドガンを見せながら、

「これはハンドガンと言って、本来は引き金を引くと、金属の弾が飛び出す武器です。 まあ、先日作ったんですけどね。

それで、本物の弾が飛び出すと、破壊力が凄すぎて、このシールドが破壊されちゃうので、この『戦闘シミュレーター』専用のハンドガンを使って訓練と言うか、遊びと言うかをやってます。」

と説明した。


「なるほど、実在の武器ではあるが、これ専用に作った物を使った娯楽を狙っている訳ですね?」

と理解の早いオスカーさんがニヤリと笑う。


海渡もニヤリと笑う。

つまり元の世界で言う所のサバゲーである。


説明が終わる頃には、1プレイが終わったフェリンシアが、楽しげに戻って来た。


「勿論、娯楽としてやるのであれば、定期的に舞台となる雰囲気を変える事も可能。市街地風であったり、森にしたり、廃墟にしたり、草原ステージにしたり、飽きの来ない様にする事も可能だと思う。」

と補足をした。


「いやぁ~、これは面白い商材ですよww カイト様は一体何処からこんなのを思いつくんでしょうかね?」

と興奮していたのだった。


おすかーさんへのプレゼンが無事終わり、海渡とフェリンシアと少年少女3名+レイアで街へと出た。

「もう、親分、本当に酷いっすよ。あっしがマッタリ食べてる間に居なくなるですからねぇ・・・。慌てて探したっす。」

とレイアがフェリンシアの頭の上から文句を言っていた。


「ちっ・・・気付かれたか・・・」

と海渡が呟くと、


「あーー!わざとっすか? 置いてきぼりはわざとっすか?」

とぼやいていたw


今日も屋台や露天を巡りながら、本日の目的地であるドミニクさん&ドリンガさんの店へとやって来た。


店に入り、

「こんちは!!お久しぶりです!」

と声を掛けると、ドミニクさんが店の奥からモソッと出て来た。


「おう!坊主!久々じゃな!」

と言うドミニクさんだが、何だか顔色が悪い。


「あれ?何か元気ないですね? 疲れですか?」

と聞くと、ちょっとここ2日程、熱が出ているらしい。


ちなみに、ドリンガさんは元気らしいのだが・・・。

なので、ドミニクさんに、ユグドラシルの実(スタンダード版)を1切れ食べて貰った。


口に入れた途端、見る見る顔が蕩け、顔色も良くなり、肌の張りも良くなった。

何だか若返ってないか?


「おい、坊主・・・いやカイト様!! コレは一体??」

と驚きながら聞いて来た。


「これは先日入手したユグドラシルの実です。状態異常を含め、色々回復する効果あるのでw」

と海渡が雑に説明すると、


「え? ユグドラシルの木って実在するの?」

と、そこから驚いていた。


ドリンガさんも呼んで、同じくユグドラシルの実を一切れ食べさせると、同じ様に驚いていた。

2人とも、「何だか若返ったようだわい」と喜んでいた。


もしかすると、常態異常には老化も含まれるのかも知れないな と考察する海渡。


「で、今日の用事は何だい?」

と言われ、


「そうそう、忘れてました。 この3人に動きを阻害しない、ソコソコの防具やブーツをお願いしたくて。」

と見繕って貰う様にお願いした。


「おう! 坊主の弟子なのか? 任せとけ!!」

と2人がホクホクしながら、テキパキと採寸したりして、色々な防具を出してきた。



そして1時間ぐらいで、3人の装備が揃った。

ブーツだが、これだけはサイズが合わなかったので、市販品のブーツに海渡がサイズ自動調節の付与を掛ける事にした。

武器は残念ながら、既にあると伝えると、ドリンガさんは悲しそうな顔をしていたのだった。


ドリンガさんに、

「ところで、ドリンガさん、包丁とかってお願いしたら作って貰う事は可能ですか?」

と聞いてみると、


目に見えて、嬉しそうな顔をして、

「おう!刃物全般やってるぞw まあ刀は無理なんだけどなw」

との事なので、


「では、剣とかでなくて申し訳ないんですが、包丁各種をそれぞれ400本づつ作って貰う事は可能ですか?」

と聞くと、


「400本・・・各種って・・・3種類だけで、幾つだ? 1000・・・1200本か?」

と驚いていた。


「大体料理人が使う包丁の種類って、何種類あるんですかね?」

と聞くと、普通の包丁、ちょっと小型の包丁、肉切り包丁、パン切り包丁が主な包丁との事。


パン切り包丁はそれ程要らないかな? あ、スイーツ部隊用のケーキのスポンジをカットする長めの包丁あった方が良いか。

と思い、結局4種類各400本お願いする事にした。


「なあ、坊主・・・それ時間掛かるが、良いか?」

と聞くので、合間合間で問題無いと伝えた。


材料費もあるだろうから手付けのお金を渡し、ドミニクさんにも防具一式のお金を払って、店を出たのだった。



店を出ると、ラルク少年ら3人が、モジモジとしている。


「ん?どうした?トイレか?」

と聞くと、


「「え?」」と少女2人は赤面。

「いえ、違うっす。」とラルク少年。


「いえ、この防具のお金なんですが、俺らこんな高価な物を今は支払えません。何年掛かってもお支払いするので・・・」

と口籠もる。


「ああ、代金の事か! それは師匠から可愛い弟子へのプレゼントだ。気にしなくて良い。でも防具があっても、無茶して良いと言う訳じゃない。

一番良いのは、防具が防具としての出番が無い事。例え戦闘になったとしても、防具頼みにならないようにする事だよ。

それに、その防具はそれなりの物ではあるが、それ程の物じゃない。前回も言ったが、呉々も自分らだけで魔物狩りに行かない様にしてくれよ?」

と念を押しておいた。


それを聞いた3人は明るい顔になり、

「「「はい!」」」

と元気よく返事をしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る