第279話


南門から外に出て、8時45分。


「まだ15分ぐらい時間あるから、やりますかね。」

と格納庫の裏からゲートで広い草原へと出た。


そう、絶界の森に近いコーデリア王国の草原である。


自動車を取り出して、2人を乗せて、走り出す海渡。

だだっ広い草原なので、最高速まで引っ張ると、5秒を切る勢いで時速200kmに達した。

「はえぇーーー!」

と絶叫する3人。


路面の振動も良く吸収されていて、悪く無い。

フレームの剛性感もハンドリングのガタつきも無く、軽快な走破性能だ。

と、調子に乗っていると、軽い丘の上からジャンプ。

しかし、着地も問題無く、フラつく様な事はない。

シートベルト、付けておいて良かったw


「あー、ビックリしたぁ~。驚かさんといてーや!」

と上機嫌のまま、文句を言うステファニーさん。

フェリンシアに至っては、キャッキャとはしゃいでらっしゃる。


5分程走って、フェリンシアに交代し、運転を教える。


「ふむふむ。ああ、何となく大丈夫そうです。」

と言いながら、アクセルをソッと踏み車の運転に慣れていくフェリンシア。


「しかし、バックが難しいです。」

と言っていた。


「ふむ・・・バックモニター付けるかな。」

と改良点を考える海渡。




次に、ステファニーさんに交代し、運転を教える。

フェリンシアはパイロットスキルを持っているので、操縦の概念があるのか、覚えが早かったのだが・・・


ステファニーさんは、ヤバい!


「いやいや、もう少しユックリ、ジワリとアクセルを踏んで下さい。 ハンドルはジワリと切らないと! そんなにガクガク回してはダメです。ジワジワですよ。」

とアドバイスを飛ばすが、


「ゴチャゴチャうるさいねん! ちょっと黙っといてんか!!」

といつになく、過激なステファニーさん。


「あー・・・ハンドルを握ると性格が変わる人って居たなぁ・・・」

と地球での記憶を思い出し、乾いた笑いを浮かべる海渡。


すると、突然!

「あ♪ なんや、パイロットってスキル生えたでw」

と言うステファニーさん。


それからの運転は、実にスムーズで、まるで別人の様だった。


「なるほど、自動車の運転もパイロットスキルで纏めてくれたのかww」

と良い前例になり、喜ぶ海渡だった。


そこに連絡があり、

「カイト様、今何処ですか?」

と少々お怒りモードのヨーコさん。


「あ、すぐに行く!1分待って!!」

と慌てて通信を切って、


「まずい、時間オーバーした! すぐに格納庫へ戻るよ!」

と自動車を止めて、格納し、ゲートでトリスターの格納庫裏へ。


既に、パイロットが勢揃いで、事前の打ち合わせ通り、格納庫内への机と椅子の配置も終わっていた。


「ごめんなさい、ちょっと実験で遅くなりました。」

と素直に頭を下げる、さえじま商会のトップ。


パイロットの人数だが、61名が揃っていた。

オスカーさん、ヨーコさんを加えると、63名+輸送中のパイロット6名だから十分だな。


「今日は遠い所を集まって貰って申し訳ない。

聞いているとは思うけど、ゲルハルト帝国が来年の1月にワンスロット王国とコーデリア王国に仕掛けて来る事が判明した。

そこで、完膚無きまでに完全勝利する為、飛行機を各王国に51機づつ販売する事になった。

よって、今日はその51機の納品と、パイロットスキルの獲得を各国の兵士100名にしてもらう事となった。

午前中は、コーデリアと、トリスターのパイロット候補者の合計52名に教える事になる。

午後は、ワンスロットの兵士50名の予定となる。

最初の座学は軽く、俺が教えるので、実技の方は、各自いつものパターンで教えてやって下さい。」

と挨拶を終えた。


と言う事で、暫しの間、お茶やコーヒーと軽食を出して歓談タイム。


話の流れで、魔動自動車プロトタイプ1号をお披露目する事となった。


「「「「おーーー!!」」」」

と響めく一同。


ドアを開けて、中を見学させて、軽く試乗会を行う。

オスカーさんは、予想以上の大興奮で、

「カイト様、これ売り出しましょうよ! あ、もっと荷物が載るタイプが良いですね。国に売る飛行機が黒金貨1枚でしたよね。まあ、一般売りは黒金貨2枚と考えて・・・

自動車だと、白金貨60枚ぐらいですかね?」

と矢継ぎ早に捲し立てていた。


「白金貨60枚かぁ・・・高くない?」

とカイトが言うと、


「いやだって、馬要らずですよ? しかも安全で早くて、快適で。 暑い寒いが無いだけでも凄い事ですよ?」

と力説。


「ふむ。まあ当分は、耐久性とかも見ないとダメだから、売るにしても来年だな。ちょっと色々考えておくよ。」

とお茶を濁したのだった。

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