第217話

 異世界2ヵ月と10日目。


 朝の鍛錬の後、一度トリスターの地下工房へ行き、完成した店舗セットと収納し、新しい店舗セットを建設する。


 そしてラステンの宿舎へと戻り、朝食を準備する・・・と言っても、アイテムボックスにあった、マツタケご飯と海鮮味噌汁と焼き魚と出汁巻き卵焼き、あとはテリラス産の野菜で作ってみた煮物を出しただけだがw


 テリラス産の野菜で作った筑前煮だが、今まで海渡が日本で作った物を含め、最高の味と自画自賛する自信作である。


 最近、テリラス産の野菜を活かしたレシピを色々考案している海渡の次の目標は、ミノタウロスの赤身でローストビーフ(ミノタウロスをビーフと呼んで良いのかは疑問だが)を作って、ローストビーフマリネを作りたいと思っている。


 フェリンシアやみんなが食堂に集まり、海渡作の和食と、食事用の時空共有倉庫の作り置きと、選んで貰うと、既存組は迷わず海渡の和食。


 新規組も珍しいのか、全員が和食をチョイスした。(まさか・・・気を遣わせちゃった?)


 そして、海渡とフェリンシアも手を合わせて いただきます。


「「「「うっめーーー!!!!(美味しいーーー)」」」」

と新規組が叫ぶ。


「この野菜を煮たやつ、滅茶滅茶美味しいですね!」

と既存組にも好評。


 ヨーコさんは、

「カイト様、今度是非この野菜を煮た物のレシピを教えて下さい!!!」

と言っていた。


 えーー!? ヨーコさん・・・誰に作ってあげるの??



 ともあれ、自信作を褒められ、嬉しい海渡は、

「ドンドンお替りして良いよ♪」

と上機嫌。


 結果、みんな朝から、よくそこまで食べられるね? と感心する程食べていたのだった。



 朝食が終わり、一休みした後、フェリンシアと一緒にラステンの町を散策しながら教会へと向かう。

 塩の配給は、昨日から開始されたようだったが、昨日の今日なので、まだ町は閑散としている。


「何か、まだ寂しい感じですね。屋台も出てないし・・・」

とフェリンシア。


「そうだね。活気が戻るまでは、あと2日ぐらいかかるかもね。」

と海渡が答える。


 そして、教会へ辿り着き、礼拝堂で女神様へご挨拶。


『女神様』


 ボワンと視界が光に包まれ、女神様の元へ到着する。


「お疲れ様です海渡さん、フェリンシアさん。大分このパターン慣れて来たようで、今回は早かったですねw」

と女神様。


「ええ、お陰様でww ここの所、毎回このパターンだったので、大体悪徳領主の町の状態が判って来ました。正直、残りが11都市もあると思うと、若干うんざりです。」

と渋い顔をする海渡。


「まあ、ジェイラス領とドエイヤ領はここと同じ程度ですが、残りはそれほど大変じゃないと思いますよ。しかし、こればっかりは、海渡さんとフェリンシアさんにお願いするしかないので、宜しくお願いしますね?」

と女神様。


「はい、心得ております。こうなったら、一般市民の為にも、1日1都市のスピードで一気にやりたいと思ってますw」

と意気込みを語る。


「まあ、あまり無理が無いようにw 付いて行く人達は、みんな一般の人間ですからねww」

と女神様・・・。


「あと、先日はゲルハルト帝国の情報、ありがとうございました。結局考えたのですが、私が行くのが、一番兵士にしても一般市民にしても、犠牲が少ないと言う結論に達しました。

 まあ、あとはゲルハルト帝国の宮殿内に無実の罪などで幽閉されている人物等が居なければ良いんですがね。」


「ああ、確かに地下牢に100人近く捕まっては居ますね。しかし、海渡さんの元の世界でも、あったでしょ? 政治が悪いと革命をおこし、成功したら、革命を指揮した者が形を変えた独裁政治を行い、反対派や自分に不都合な主張をする者を根こそぎ捕まえ拷問したり、収容所と言う名の洗脳施設送りにしたり、見せしめに人体解剖標本にしたりする国とか。

 あれと変わらない事が起きる可能性のある人だらけですよ。だから気にしなくても良いのですよ?

 もし気になるなら、助けても良いですが、頭が挿げ代るだけで、結局同じ事の繰り返しにしかなりません。」


「うーん・・・なんとも・・・」

と唸る海渡。


「お国柄と言うか、何世代もそう言う教育が続いた事で、全員の頭を完全にリセットしない限り、あの宮殿の中に囚われている人も捕らえた側も同じ穴のムジナだと思います。元は支配側の人間ばかりですから。

 解放された場合、『今まで圧政が続いたから、次こそは良くしよう』とかって考えではなく、『次は俺の番だ!』って奴ですよ。」

と女神様。


「なるほど、つまり苦労して助けるには値しないのか・・・。残念な国ですね・・・。」

と吐き捨てるように呟く海渡。


「いっそ、海渡さんが支配しちゃった方が、絶対に良い国なるんですけどねぇ・・・」

とチラッチラッとこちらを見て来る女神様。


「いや、それは無いですってw 流石に荷が重すぎますってwww」

と笑う海渡。


「ふふふ。まあそこら辺は海渡さんの好きな様にやってみてくださいw」

と女神様が微笑む。


「それはそうと、この後、またこちらの孤児院の方へ訪問する予定でおりますので、ご安心下さい。」

と海渡。


「ここも卒業する方が15名程おります。あとここもかなり困窮している様なので、宜しくお願いしますね。」

と女神様。


「ええ、そこら辺は任せて下さい!!」

と海渡が胸を張る。


「じゃあ、そろそろ時間ですね。フェリンシアさんも宜しくお願いしますね・・・」

と言う声と共に、祭壇の前へと戻って来た。


「ふぅ~、なかなか来年は年始早々ヘビーになりそうだなぁ・・・。まあ気にしてもしょうがないから、今は出来る事からコツコツいくかw」

とフェリンシアに語り掛ける。


「そうですよ。気にしても仕方ないですからw その時々で臨機応変に行きましょう。私も頑張りますから。」

とフェリンシア。


 そして、2人は教会の裏の孤児院へと向かう。



 孤児院のドアをノックし、出て来たシスターに、

「すみません、カイトと申します。こちらはフェリンシアです。

 お困りと聞いて、支援したいとやってきました。園長さんにお会い出来ますでしょうか?」

と尋ねる。


「まあ、それはお若いのに・・・ありがとうございます。さあ、こちらへどうぞ。」

と園長室へと通された。


「初めまして、カイトと申します。こちらはフェリンシアです。こちらの孤児院がお困りと言う事で、支援させて頂きたく参りました。またこちらを卒業予定の方が15名程いらっしゃると聞いております。

 よければ、当方の『さえじま商会』で働く気は無いかと、スカウトも兼ねております。」

と用件を説明すると、


「ああ、本当ですか!!! ありがとうございます! ああ、なんて嬉しい日でしょうか! あなた方は昨日町のみんなを治療して回られた方ですよね?」

と園長さん。


「ああ、申し遅れました、私、こちらの教会のシニア・シスターをやっております、エンバラと申します。」

と続けた。


 エンバラさんも、最初に案内してくれた園長さんも、かなりやせ細っている。


「失礼ですが、食料等沢山持ってきておりますので、まずは、子供らとみんなで食事にしませんか?」

と海渡が提案すると、


「ありがとうございます。ありがとうございます!! 実は、一昨日最後の食料を食べつくしてしまい、昨日、今朝とまだ何も食べる物を用意出来ない状況でした。」

と涙を流していた。


 食堂へと案内して貰い、かなり食事状況が悪かったようで、子供らもかなり痩せていた。


「まずは、こちらの岩塩入りのハチミツ水を飲んで、少し体力やお腹を慣らして頂いて、それから軽めの物を食べて貰う方が良いみたいだな。」

とコップに入れて配って回る。


 そして、海渡はアイテムボックスを見ながら、

「軽めと言うと・・・雑炊が良いか。 じゃあ、次はこれをゆっくり噛んで食べて下さい。」

と全員に雑炊を器に入れ配る。


「熱いから気を付けて食べるんだよ? まだまだ沢山色んな種類の物があるからね。慌てなくて良いよ。 さあ、園長さんもシスターさん達もどうぞ。」

と促す。


「「「「ああ~ 美味しい」」」」

と溜息とも安堵ともとれる声を漏らす子供達。


「もう心配ないですから。ここにもうちの商会が支店ができますし、定期的に支援させますので、ご安心下さい。」

と園長さん達に伝える。


「次は・・・やっぱり、力が付くし、これだなw」

とマツタケご飯と出汁巻き卵、海鮮味噌汁、そして海渡一推しの筑前煮を出してみた。


「この茸のはいったこれは、マツタケご飯といって、とても力が湧いてくるんだよ。初めてだと思うけど、食べてみて!」

と言うと、既にみんな匂いにやられて、涎モード入ってました。フェリンシアも・・・。


「「「「「おいしいーーーー!!!!」

とマツタケご飯に絶叫する子供達。


「海渡さん、なんですか、これ、凄く美味しいですね! 初めて食べました。」

と園長さんも興奮状態。


 海鮮味噌汁を飲んで、唸り、出汁巻き卵にウットリし、筑前煮にメロメロしていた。


 もう大丈夫そうだな と肉類も出してみる。


「これはハンバーグって言う料理だよ。」


「こちらは、オークのステーキだね。」


「こちらは、ポテトサラダだよ。」


「これはミネストローネスープだよ。」

と色んな物をドンドンとテーブルに出していった。


 1時間半程かけて、色々食べて、

「すみません、もうこれ以上は苦しいですww」

と全員がギブアップし、食事は終了となった。


「じゃあ、こちらのマジックバッグを渡しておきますので、初期化してください。」


 そこに小麦、調味料、スパイス、肉、魚、野菜等、必要な物をドンドンと出して、詰めさせた。


「これで、当分の食料は取り合えず何とかなりそうですかね?」

と聞くと、


「ええ、お陰様で2ヵ月は優に持ちます。」

と嬉し気な園長さん。


 そして、

「あと、これは寄付金です。些少ですが、また足りなくなったら、いつでも当方のラステン支店に言って頂ければ、大丈夫ですから。」

と白金貨3枚を渡しておいた。


「ああ、本当に何から何まで・・・ありがとうございます。」

と全員が頭を下げる。


「いえいえ、私もフェリンシアも、山奥の少人数の集落で生まれ育ったのですが、魔物の襲撃に合い、両親を含む全員がやられてしまい、残ったのが我々2人でした。

 2人で山から出て来て、縁あって今はこうしておりますが、同じ孤児と言う境遇なのです。だから困った時はお互い様です。お気になさらないでください。」


 更に、

「あと、当方のさえじま商会ですが、労働条件は悪くは無いと思います。今日は丁度定休日ですが、従業員宿舎も用意しておりますので、今日か明日にでも来て頂ければ・・・、あ、場所は旧アレスター商会の店舗のあった場所です。

 来て頂ければすぐに判ります。従業員宿舎はその裏にありますから。」

と付け加えた。


 すると、15名の少年少女が進み出て来て、

「本当に俺ら15名を雇って頂けるんですか?」

と聞いてきたので、


「ええ、勿論。また他の子らが卒業する際には、是非うちの商会に来て欲しいと思ってますので、他の子達も先々宜しくお願いしますね?」

と言うと、


 15名を含め、全員が

「「「「わーーい!!!」」」」

と飛び上がって大喜び。


 ついでに、文字カードや計算の教本や魔法の手引きを人数分出して、

「あと、これは文字の勉強や計算に役立つ本や魔法の使い方が判る本です。みんなこれを使って、是非勉強しておいて下さいね!」

と文字カードの使い方等、色々説明した。


「更に、こちらは、リバーシと言うボードゲームです。これも空いた時間でみんなで楽しんで下さい。こちらはトランプと言う4,5人ぐらいでやるカードゲームです。

 やり方などはこちらの本に書いてありますので、みんなで遊んでください。」

 と20セット程取り出した。


 みんな、ワイワイと喜んでいる。フェリンシアも色々ルールなんかを教えてみんなと遊んでいた。


 結局15名の少年少女は、即答で『さえじま商会』の従業員となった。


 この後、宿舎へと移動するらしい。


 なので、1人1人の希望を聞いて、マジックバック等を配り、私物等を持って来る様に言って、孤児院を後にしたのだった。

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