第179話


「君が、陛下から全権委任の書類を頂いたと言う少年かな?

私はジャック・フォン・テリラス子爵だ。よろしく。」

と35歳ぐらいのナイスミドルと言うには、細身で若い風貌のオジサンが来た。


「初めまして、カイトと申します。冒険者であり、『さえじま商会』のオーナーをやっております。こちらは冒険者のパートナーでフェリンシア、こちらは商会のNo.2のヨーコと申します。

わざわざ、領主様自らこちらにお出で頂けるとは、思ってもみませんでした。」

と頭を下げる3人。


「で、どういった要件でこちらに?」

とジャックさん。


「ご存知の通り、アレスター商会が違法行為により閉鎖され、今まで独占して値を釣り上げていた塩や砂糖の供給が止まって、大変な状況かと思います。

その件と更にもう一つの件で、こちらの書類の様に、陛下より全権委任を受けておりまして、アレスター商会の敷地、店舗を全て譲り受けております。

そちらで、取り急ぎ、塩と砂糖の販売を再開したいと、本日は事前調査にやって来た次第でして。

一応こちらの窮状は、予想しておりましたので、今回かなりの量の塩と砂糖は持参しております。

あと、北門の向うに駐機している、飛行機と言う空飛ぶ乗り物なんですが、あれの港、空港と言いますが、それをこちらの城壁の外に作らせて貰う事も目的の1つです。」

と答える。


すると、ジャックさんは、

「そうか! それは本当にありがたい。

今すぐにでもある塩と砂糖を売って頂く事は可能だろうか?」

と頭を下げてきた。


「そんな、頭をお上げ下さい。

我々はその為にやって来たのですから。

どれ位あれば、急場をしのげそうですか?

ご要望の量をお聞かせお願い致します。」

と答えた。

うん、領民の為に頭を下げられる領主様・・・非常に好感が持てる。


「まずは、3トン、出来れば5トンあると助かるのだが。」

とジャックさん。


「ああ、それならこの場でご用意出来ます。足りなければ追加する事も可能です。」

と答えると、


「そうか!!! 本当に助かる・・・ありがとう!」

と目に薄っすら涙が・・・。


「どこに出せば宜しいでしょうか? 5トンここに出すと、邪魔ですよね?」

と言うと、


「ん? マジックバッグか何かか?」

と不思議そうにするので、


「ああ、一応これでもアイテムボックスを持っておりまして、なのですぐにお渡し出来ます。

価格等に関しては、こちらのヨーコとお話し頂ければと思います。

あと、差し出がましいのですが、もしかしてそこまでの状態だとすると、住民の中には、かなり体調を壊している方が居るのではないでしょうか?

こう見えて、私とフェリンシアは回復魔法も使えます。

もし何か所かに体調の悪い住民の方を集めて頂ければ、そこを廻って治療したいと思っておりますが、如何でしょうか?」

と打診する。


すると、

「おお!あの御伽噺に出て来るアイテムボックスを持っておられるとは。

流石陛下が全権委任をだされる方だけある。

病人の件だが、ありがたい。早急に地区ごとに集めさせる。

ただ、動かせない患者も多くてな・・・。」


「なるほど。じゃあ、出来るだけ、重篤な患者から廻らせて頂きますので、何方かに、ご案内をお願いできますか?

あ、塩は外に積み上げちゃって良いでしょうかね?」

と聞くと、


「ああ、是非とも頼む。」

とジャックさん。


建物の外(城内)に出て、詰め所の横に5トン分の塩を積み上げる。

「では、重篤な方から廻ります。軽微な方は、事前に何か所かに集めて置いて下さい。」

とお願いし、フェリンシアにもハチミツ水(岩塩入り)をマジックバックパックに大量に持たせ、2人で手分けして、重篤患者から廻る。


『もし、そっちで回復しきれない人が居たら、俺が診るから、教えてね!悪いけど宜しく!』

とフェリンシアに伝心で伝える。


『了解しました。出来るだけ多くを助けましょう!』

とフェリンシア。


『智恵子さん、体調を崩している人をマークしてくれる?』


『了解しました。でも先ほどのジャックさんも含め、今同行している衛兵も、かなり良くない状態です。』

との事だった。


なので、先行する衛兵を呼び止め、まずは岩塩入りのハチミツ水をコップに入れて飲ませ、ヒールを掛けた。

疲労の色が濃かった表情が一変し、調子が回復していく。


「さあ、これで少しは良くなったでしょう。先は長いので、キツイでしょうけど、先導お願いします。」

と移動を促す。


衛兵は

「おお、ありがとうございます。体が重く、力が入らなかったのですが、それが嘘のようです。頑張りますので、宜しくお願い致します。」

と小走りに移動を再開する。


海渡は動きながら、マップを確認し、異常が軽微な者も含め、付近に居る調子を崩した人を、一気にマークし、複数人にヒールを掛けながら移動している。


≪ピロリン♪ 魔法:聖Lv3を取得しました。≫


海渡が通り過ぎる半径10mの人が次々と体がフワッと光り、その直後に

「あ、体の調子が良くなった・・・」

とか驚いたり、喜んだりしている。


重篤患者が集められた建物に辿り着き、まずは全員にヒールを掛ける。

更に、手分けして、岩塩入りのハチミツ水を飲ませて行く。


マップ上の異常を示す光がドンドン消えていくが、1人まだ調子が悪い女性が居た。

その横に立ち、

『智恵子さん、この人は塩分が足りないだけじゃないのかな?』

と聞くと、


『この人は、海渡さんの元の世界で言う乳ガンに掛かっているようです。

塩分不足で体調が悪化し、免疫力が更に低下していて、肺炎も起こしかけてます。』

なるほど・・・ガンか。

ガン細胞をやっつけて、正常な細胞をドンドン再生させれば、良いんだな。肺炎は細菌だっけ?ウィルスだっけ?まとめて一気に回復させよう。


ガン細胞を殺し、正常な細胞の活性化と再生、不要な炎症を鎮め、体に不要な細菌もウィルスも腫瘍も取り除くイメージで魔力を集め、一気に『ヒール』!


すると、女性の体が激しく3秒程光り、徐々に落ち着いて行く。


『どう?イケたかな?』


『はい、完全に健康体に戻りましたね。凄い威力ですよ! 流石、聖Lv3ですねw』

と智恵子さんのお墨付きを頂いた。

マップの▲マーカーも消えた。


再度、女性に岩塩入りのハチミツ水を飲ませ、ここには他に患者が居ない事を確認しつつ、次の所へ移動を再開する。

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