第99話

 異世界1ヵ月と1日目。


 さあ、異世界日帰り弾丸ツアーの始まりだ!

 朝食は取らず、早朝の町を通り、南門が開いたらそのまま通過。


 南門の付近の陰に隠れ、ゲートをユグドラシルの麓、旧ベースキャンプに接続する。


 フェリンシアはゲートに驚きつつも、一緒に手を繋いで潜る。


 ユグドラシルの木の横に、大きなフェンリルが居た。


「おかあさん!!」

と叫ぶフェリンシア。


「お久しぶりです。」

と挨拶をする海渡。


「おお、久しぶりじゃな。 元気そうで何よりだ。」

とフェンリル母さん。


 久々の再会を楽しみつつ、朝食を取る。

 フェンリル母さんにもスイート・ボアの焼肉は大好評。

 デザートにマンゴーを出したり、ハチミツ入りの紅茶を出したりした。


 食事が終わり、これからコーデリア王国へ行く事を話し、また近々に遊びに来ますと、別れを惜しみつつ、ゲートで先日最後の木の陰へ移動。


 ここから遥か彼方の城壁までは相当な距離がある。


 そこで、城壁の近くまでフェリンシアと飛んで行く事とする。

「初めて空を飛びます!!」

と大興奮のフェリンシア。


「じゃあ、行くよ?」

と声をかけ、手を繋いで、2人で一緒にシールドに収まり、上昇開始。


 朝の為、霞が掛かってて、まだ城壁は見えない。

 そのまま北へ進路を取り、上空500mを飛んで行く。

 30分ぐらい進んだ所で、速度を落とし、街道傍の地上へと着地。

 城壁まで約1km地点である。 


 マップで確認したが、朝早いので、人の反応は無かった。

 1kmの道のりを軽く駆けて、城門へ到着。


 トリスターと同様に、門番の衛兵が立っている。

「おはようございます。」

と声をかけ、ギルドカードを見せ中に入ろうとすると・・・


 思いっきり止められた。

「お前ら・・・何でこんな子供がSSランクのギルドカード持ってるだ?」と。


「いえ、何でと言われても・・・ランク判定でそうなっちゃったので。 うーん、ではギルドに連絡して職員の方に偽造カードかどうか確認して貰えますか?」

と言うと、


「ふざけるな、なんで子供の悪戯に付き合わなきゃならん。」

と断固拒否された。


 段々と頭にきて、

「国家とギルドの取り決めで、正当な理由なく、不当に冒険者の入場を拒否してはならない となっているのに、拒否されるのですね?

 判りました、名前と所属と階級を教えて下さい。

 こちらも正当なルートから抗議させて頂きます。 わざわざ絶界の森を越えてやって来たというのに・・・。」

と言うと、


 一笑に付され、

「ガキが何を言ってやがる。 いい加減にしないと、叩き切るぞ!」

と脅された。



 そこへ、

「おい、お前ら、何を朝から揉めている?」

と、エルフのお兄さんが登場。


「あ、ドロス様、お早うございます。 いえ、このガキどもが偽造ギルドカードで入城しようとしたので、追い払っていたんですよ。」

と門番の兵士。


 なので、こちらの言い分を順を追って説明し、最後に叩き切るとまで脅された事を説明する。


「さて、こういう場合って、国家間の問題になるのか、ギルド対国家の問題になるのか、それとも、私対そちらの国家で戦争しますか?」

とニヤリと笑いながら、手に魔力をドンドン集めつつ聞いてみた。(←本人は気づいてないが、非常に黒い笑み)


 普段は温厚な海渡だが、一度スイッチが戦闘モードに切り替わると、道場の流派で磨かれた、戦闘意欲が遺憾なく発揮されように訓練されている。


 特に自分に対する悪意に対しては、容赦しない。

 決して、どこぞの戦闘民族ではないのだが。


 すると、ドロス様と言うエルフのお兄さんは、慌てて深々と頭を下げ・・・

「うちの衛兵が、とんだ醜態を晒し、ご迷惑をおかけした。申し訳ない。」

と頭を下げてきた。


 -----------------------

 この時、ドロスは少年の黒い笑みと、その一瞬で右手に集められた巨大な魔力・・・しかも人外な魔力が更に増加するのを見て、ヤバい!!!と内心冷や汗をかいていたのだった。

 -----------------------


 あらら・・・アッサリと・・・。

 あまりに、エルフお兄さんと衛兵の態度が違うので、一瞬ポカンとしてしまった。

 揚げた手の行き場・・・と言うより、集めた魔力の行き場がなくなり、散らした。


 衛兵がポカンとしてると、

「おい、お前、門番としての役目が出来ないようだから、追って処分が決まるまで謹慎だ。」

と衛兵に告げた。


 どうやら、ドロス様と言うエルフお兄さんは、権限をお持ちのようで・・・。


 エルフお兄さんが、他の衛兵を呼び、色々指示をしている。

 件の衛兵は武装解除で、両脇を拘束され、そのままドナドナされていった。


 ざまぁ!! と心の中で舌を出し、あっかんべー をした。


 ファーストコンタクトで、最悪の印象だったコーデリア王国だったが、戦闘モードからスイッチが通常モードに切り替わり、悪印象も急速に萎んだのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る