第80話

 異世界22日目。


 今朝も日の出と共に起床し、朝の鍛錬を済ませ、朝食が終わると、早々に敷地へと向かう。


 途中の屋台では、いつもの以上に大量に買い出し、エンジ達の分と、明日からの遠征で消費する分を余分に購入して置く。

 まだ朝早いのだが、昨日よりも人が多い。


 元気の無い疲れ果てた感じの人が多く見受けられるから、恐らく避難民なんじゃないかと思う。

 うーん、なんとか出来ないかなぁ・・・ このままだと治安が悪化してしまいそうな予感がする。


 何か目標になる様な物や、先の希望があれば、多少の辛さはその夢に向かう事で克服できる物である。とは言え、最低限でも衣食住の『食』が無ければ

 夢に向かう気力も湧かなくなる。 と、元の世界での道場(と言うより実戦派の流派)のサバイバル訓練を思い出す海渡。


「ああ、あの時の空腹感と、絶望感は凄かったなぁ・・・。まああれで吹っ切れたんだけどなぁ。」

と独り言を呟く。


 しかも中学から毎年恒例の強制参加。

 良く生き残れたと、生還した時は自分を褒めた。

 猪や猿、時には熊も出た。

 刀や格闘で倒し、解体して食べた。


 自衛隊のレンジャーの訓練でも、時々精神的に参る人が出ると言う話も聞いた事があるが、あの訓練や、道場で培った武術の数々のお陰で、今の海渡が居る訳である。

 まったく・・・人生何が役にたつか判らないものである。


 まあ、話は逸れたが、避難民の衣食住の食と住ぐらいなら、少しお手伝い出来るんじゃないかと考えている。


 日本では、大規模な災害の際は、仮設住宅と言うプレハブとかが作られるが、この世界ではそういう物は無い。

 よって、仮設でテントが建てられたりするのだが、これが結構大変な代物で、冒険者用でも軍隊用でも基本同じ。しかも高価・・・。


 元の世界の様な簡素で軽量で、設営が簡単とか、自立出来る様なドーム型 とか何も無い。しかも骨組みが、やたら多く、建てるのも大変でコストも掛かる。

 そこで、商会のラインナップには、簡素で済むモノポールテントを作ろうと思っている。

 これが世に出れば、確実に今の野営事情が激変する。

 薄い布地で構わない。この世界には魔法があり、魔道具が存在するからである。

 防水は素材の性能に頼らずとも、魔道具でエアコンと一緒に防水も掛かる様にすれば良い。


 と言う事で、留守の間にオスカーさんとヨーコさんにテント作成の指示を出す予定でいる。


 本日は8時過ぎに到着したのだが、オスカーさんとヨーコさんはもう屋敷に居た。


「おはようございます。ちょっとお願いがありまして・・・」

とテントの件を説明する。


 オスカーさんが、

「おおお、テント革命じゃないですか!」

と叫ぶ。


「但し、避難民への救済で、無償で貸し出す予定です。作成自体は簡素な形をただ縫い合わせるだけなので、裁縫の出来る人を沢山雇う必要があります。

 なので、ヨーコさんは人員確保、オスカーさんには、布地や糸や何かの原材料の確保を至急動いて欲しいのです。色々思いつきで動かせて申し訳ないのですが・・・」


「いえいえ、全然大丈夫ですよ。その為の私達ですから」

とヨーコさん。


「で、裁縫の出来る人員確保の件ですが、出来るだけ避難民を優先してください。

 作業場は、当面はこの屋敷を使うしかないと思いますので、使って下さい。広ささえ許すなら、50名ぐらい雇いたいんですが、どんなもんですかね?

 朝9時~夕方5時まで昼飯は1時間休憩の8時間労働。途中適度に休みを取って貰って下さい。一般的な労働条件と賃金って大体幾らぐらいなんでしょうか?

 取り合えず、当面の運転資金と言う事で、もう少しお金を預けて置きます。会計はお手数ですが、当面ヨーコさんにお願いしますね。

 あと、必要と思われる人材は随時、信頼のおける方を雇って補充してください。特に調理の出来る人を早急に。」

と言って、白金貨20枚(日本円換算で20億円)を渡す。


「必要になればもっと出しますので」

と付け加えた。


「そうですね、職種や肩書にもよりますが、大体一般的な金額は早朝~夜まで働いて、銀貨1枚~銀貨1枚大銅貨50枚ぐらいまでですね。1日銀貨2枚となると、一般的には高給取りと言われます。」

とオスカーさん。


「じゃあ、裁縫する方へは1日当たり、銀貨1枚大銅貨50枚で昼食付 と言う感じでどうですかね? 安すぎるなら、そこら辺は調節して増額してください。」

とお願いする。


「十分だと思います。と言うか、かなり好待遇だと思います。」

とオスカーさん。


「ヨーコさん、料理人も出来れば、避難民からお願いしますね。

 その方は住み込みとなるので、この屋敷の部屋を使って貰う感じでお願いします。人数はお任せします。

 働く人の昼食ですが、人数によっては、今回雇う料理人だけだと難しいようであれば、外の店からの配達でも構いませんので。」


「あ、あと一番大事なオスカーさんと、ヨーコさんの報酬を決めてませんでしたね。取り合えず、最初は物入りでしょうから、契約金で金貨1枚で、毎月決まった日に金貨1枚 週休1日 で如何でしょうか?」

と打診してみた。


 2人ともビックリして、

「え?そんなに頂いて宜しいんでしょうか? 週休も頂けるんですか!」

と聞いてきた。


「ええ、その分ハードに働いてもらいますので・・・」

と少し悪い笑顔を零す海渡であった。


 海渡は早速メモで計算し、型紙用の薄い板を切り出す。板の方が、結果裁断しやすいのではないかと言う判断である。

 ノートの1枚破って、そこに展開図と詳細図と説明を描き込んで行く。作るべき支柱の太さ長さも同様に描き込む。

 あと必要なのは、ペグである。 ペグの形と役目も書いておく。

 ペグの作成は鍛冶師の出番になる。一瞬ドリンガさんの顔が浮かぶが、後で寄ってみるか・・・。

 型紙用の板と、指示書の紙を食堂のテーブルに置き、今度は庭に出る。

 丁度、エンジ君達も揃っていて、挨拶をする。今日も宜しくね!と。


 すると、エンジ君が

「ごめん、昨日言い忘れてたんだけど、一昨日貰った砂糖さ、園長もみんなも大喜びでさ、お礼言っておいてって言われてたのを忘れてたんだ。昨日帰って思い出して・・・。

 あと、昨日のお肉もありがとう。みんな喜んで食べてたよ。」

と、若干頬を赤くして頭を掻きながら言って来た。


「そっか、喜んでくれたなら、良かったよ。砂糖は今後あれをドンドン生産していくから、またおすそ分け出来るって言っておいてね。

 あ、そうそう、何か最近街中に避難民達が増えてるみたいだけど、孤児院の方はどう?」

と気になっている事を聞くと。


「そうなんだよね・・・最近孤児が流れて来てて、俺らもそろそろ、孤児院を出て新しい奴らに場所を譲らないといけなくなった。なあ、俺たちをこのまま雇ってくれないか?」

と、エンジ君。


 みんなを見回すと、それぞれが、うんうんと頷いている。


「そうか、こっちは良いけど、俺の所でシスターは許可くれるかな?」

と聞いてみた。


「そこは問題ないと思うぞ。園長もシスターも感謝してるっぽいから」

とエンジ君。


「じゃあ、草刈り作業前にちょっと詰めようか?」

と海渡の指示で急にバタバタしているオスカーさんとヨーコさんを呼ぶ。


「忙しい所を再度止めて申し訳ないのですが、エンジ君達も正式に雇いたいと思いまして。

 で、この草刈りが完了したら、そのまま正式にスタッフの一因として御二方で指示して貰いたいのですが、どうでしょうか?

 雇用条件は、当面は月銀貨25枚からのスタートで、 週休1日(シフト制) こちらの屋敷に住み込みと言う形になります。外に出てない限り、1日朝昼晩の3食付き。どうですかね?」

と2人に打診してみる。


「なんか、破格の条件のようですが・・・そんなに良い条件で大丈夫ですか?」と。


「まあ、出来る事を増やして行って貰う事を期待して・・・と言う事で。」

と補足する。


「あ、ベッド、ある分だけでも先に納品してもらうように、交渉して貰えますか?」

とヨーコさんにお願いする。


「エンジ君達は、その条件で良い? 但し、契約時には、機密保持契約を結んでもらう事になるけど。」

と聞くと、


 全員笑顔で

「「「「宜しくお願いします!!!」」」」

と言って来た。


「じゃあ、後で園長さんにも挨拶しておかないとね。 今日はバタバタしてるから、後日挨拶に伺うって伝えて置いてもらえる?

 あと、スキルとかあったら、ヨーコさんに言っておいてね。」

とエンジ君に伝言を頼んでおく。


「ヨーコさん、申し訳ないんだけど、雇用契約書を作って貰って良いかな? あ、お二人の分もね。あと機密保持契約の件も宜しくお願いします。

 エンジ君達も、ベッドの用意とかがまだだけど、もしこっちに移るんだったら、明日からでも良いからね。では、皆さん大変ですが、本日も宜しくお願いします。」



 昨日の事もあったので、ヨーコさんに同伴してもらい、左右の店舗へ工事等のお詫びと挨拶を済ませた。

 日本だと、手ぬぐいとか持って行くのだが、ヨーコさんに確認すると、特にそういう様な風習も習慣も無いそうなので、申し訳ないが、手ぶらで行った。


 行った先で驚かれたのは、オーナーが5歳の幼児であった事だった。

 まあ普通はそうだよねぇ~。

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