第42話


 異世界17日目。


 昨日は森を抜けた解放感から、そのままそこで一泊する事にした。

 夕食までの間に、町へ辿り着いた際の、設定を決めて置こうと、フェリンシア、知恵子さん、俺の3人で決めていった。


 色々考えたのだが、次の2つまで絞り込んでみた。

 ---パターン1----------------------------------------------------------

 ・良く判らないけど、気が付いたら、フェリンシアと俺の2人で山の中に居た。

 ・大人は誰も居なかった。

 ・山の中で、魔物や動物何かを2人で仕留め、何とか食べていた。

 ・そして山から降りてきたら、ここ(←辿り着くであろう町)に着いた。

 ・名前以外、何も覚えてない。

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 ---パターン2----------------------------------------------------------

 ・森奥の村で、何家族かで住んでいたが、ある日、魔物の群れが攻めてきて、

  大人達は、全員死んでしまった。

 ・魔物が居なくなってから、隠れていた地下室から出たが、食べ物が無くなった

  ので、生き残った2人で食べ物を探しながら南へと向かった。

     (←親から南に行けば、大きな町があると聞いていたから)

 ・小さい頃(一人はまだ小さいけど)から、親達に鍛えられていて、ある程度の

  魔物は倒せる。

 ・それ以外の事は、親から聞いてないので、判らない。

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 結局、今後の自由度や、アイテムボックスに死蔵している、魔物の死骸等の売却とかを考えたら、ある程度戦える事を暴露したパターン2が良いのではないか?と言う結論に達した。

 あと、オークの蔵から頂いた金貨とかって、この国で使える物かも判らないからね。アイテムボックの中にある何かを売って、生活の資金にする事も考えて・・・と言う事だ。


 朝食を済ませ、予定通りフェリンシアは人化したままであるが、服装に問題がある。Tシャツはサイズが合わず、ワンピースの様な状態で首元や肩の辺りがブカブカ。

 下着は無いので、短パンを無理矢理紐で縛ってる感じ。足元は素足・・・。

 取り合えず、町に入る際は、ローブを被って貰って誤魔化すにしても、女の子としてかなり申し訳無い恰好である。

 せめて靴ぐらい先に何とかしてあげたいなぁ・・・と、悩んでいる状態だ。

 当の本人であるフェリンシアは、元々裸族なフェンリルなので、そこら辺は無頓着なのだが、自分だけちゃんとした格好で、傍の美少女にキツイ恰好を強いてるようで、気持ちが落ち着かない。

 と言う事で、困った時の知恵子さんの相談コーナーである。


『ねぇ、知恵子さん、何か最低限でもフェリンシアに靴を履かせてあげたいのだけど、何か方法ない?』


『そうですね・・・方法としては、オークの皮とかで作る方法と、あとは海渡さんが元の世界から持ってきている靴を使う方法ぐらいですかね。』


『うん、それは考えたんだけど、元の俺の体とは、足のサイズが全然違うんだよね・・・』


『ああ、それでしたら、付与魔法を靴にかけて、ジャストフィットさせれば良いのではないでしょうか?』


『おお!その手があったか!!!ありがとう、やってみるよ!』


「ねぇ、フェリンシア、出発前に少しフェリンシアの靴とか準備したいから、時間ちょっと頂戴ね。」


「え? 私はこの恰好でも全然平気なんだけど・・・ でも海渡がそう言うなら、わかりました。」


 と言う事で、バックパックから、ジャングルブーツを取り出す。

 ジャングルブーツの側面に、付与魔法の魔法陣を魔力を込めて描いていく。


「えっと、サイズ自動調整 対象は装着者 時間は脱ぐまで っと。 取り合えず、片方出来た。フェリンシア、これに右足入れてみて。」


「よいしょっと。ブカブカで歩きにくいよ?」


「だよね、じゃあ少しその靴に魔力を流してみて。」


 ボワンと軽く魔力を流すと、魔法陣が光り、サイズが縮小して、足にフィットした。


「お、成功した。もう片方も付与しちゃうから、待っててね!」


 急いで左側にも付与して、履かせ、魔力を流して貰う。


「どう? ちょっと歩いたり、走ったりしてみて。」


 足元をジッと見ていたフェリンシアが、ピョンとジャンプしたら、そこら辺をグルグル走ったりしている。


 戻って来た時には、満面の笑みを浮かべ、

「海渡、ありがとう!! これ、凄く動きやすいです。 人間の姿だと素足よりも良いみたいです。」

とはしゃいでいた。


 よし、あとはローブとか装備品か。


「ところで、フェリンシアって、アイテムボックスのスキルとかって持ってる?」


「いえ、持ってないです。」


「そうか、じゃあ・・・」

とバックパックからウエストポーチを取り出し、中身の財布や免許書はバックパックに入れてっと・・・これに付与魔法でマジックポーチにしてしまおう。


 ウエストポーチの裏生地に魔法陣を描いていく。


「えっと、空間拡張無制限、内部重力0、内部時間停止、初期魔力供給者限定、期間リセット時まで っと。フェリンシア、これを腰に着けてみて」


「どうすれば良いの? このベルト??」


「じゃあ、こっちに来て」と腰にウエストポーチのベルトを回して、バックルをカチリとはめて、ベルトを調節。

 フェリンシア、細いからかなりベルトはあまったけど、取り合えずは形になったね。


「じゃあ、そのポーチにも魔力を通してみて!」


 ウエストポーチの内側からボワンと光が漏れる。

「これで、フェリンシア専用のマジックポーチになった筈なんだけど、試しに何か大きい物を入れてみようか。」

と、オークの武器庫から持って貰って来た、槍を取り出し、ポーチに入れてみてもらう。


 フェリンシアが槍をポーチへとスルスル入れて行く。

「良かった、成功したみたいだね。一応、これはポーチのベルトに挟んでおいて。」

と同じくショートソードを手渡す。


「こんな感じ?」


「うん、これで取り合えずは、恰好は大丈夫かな。あ、あと何かあるといけないから、水と食料を少し渡しておくから、ポーチに入れておいてね。」

と、干し肉や果物や水筒を渡しておく。


「じゃあ、出発しようか。知恵子さん、ここからどっちに行けば、一番近い町につく?」


『一番近い町は、ワンスロット王国の辺境都市トリスターとなります。方向は、草原の先に見える丘がありますよね。あの丘に登ると、城壁が見えます。』


「よし、あの丘へ向けて出~発っ!」


 2人は、元気に丘へ向かって行った。森に比べれば、草原は非常に歩きやすい。

 軽く走って丘の天辺まで登り、向こう側を見ると、10km程先に、長くて高い城壁と門が見えた。


「おお、あれか! 高い城壁だな。さあフェリンシア行ってみようか!」


「おー!」

とフェリンシアもノリノリ。


 2人ともテンションMaxで、門を目指して丘を駆け降りて行く。



 さて、一方辺境都市トリスターの「絶界の森」に面した城壁の上の監視所では、今日も兵が当番の監視を行っていた。


「絶界の森」に面した城壁の監視所の、主な目的は、「絶界の森」からの魔物の反乱、所謂スタンピードを察知し、防御態勢をいち早く整える事にある。

 なので、丘の上に動きがあれば、残りは10kmしかない。

 特に、10日前の「青い炎の柱」(海渡が7日目にオーク殲滅で用いた「火災旋風」魔法)が起きた事で、通常なら2人態勢の所だが、3人態勢に強化されていた。

 門も通常はメインではなく、横の通用門は開いているのだが、今は警戒態勢中と言う事で、閉まっている。


 通常であれば、「絶界の森」の境界線付近の依頼を受けた冒険者は少なからず居るのだが、その「青い炎の柱」の事件の余波で、2日に1回の偵察任務を請け負った冒険者が、使うぐらいになっており、通用門も閉じたままとなっている。


 事件から変化無く10日経過した事で、若干監視所の兵にも緩みが出ていたのだが、丘から人影?が2つ駆け下りて来るのを発見した監視任務中の兵が、


「おい、今日って偵察任務の冒険者出ていったっけ?」

と隣の兵に聞く。


「いや、それは昨日で、次は明日だな。今日は誰も門を出てないと思うぞ?」

と答える。


「じゃあ、あの丘を駆け下りる2つの小さな人影は???」

と言われ、残り2人の兵も丘の方へと望遠鏡(魔道具)を向ける。


「ん?子供???」 「子供っぽいな」 「子供か! とにかく警報鳴らせ!」


「プオー」と角笛が3回鳴り、「絶界の森」の門辺りが騒がしくなる。同時に領主の館へと早馬で伝令が飛ぶ。

 伝令から異変を聞き、慌てて兵と共に領主であるアルマー・フォン・トリスター辺境伯が城門へと集まる。

 アルマーは城壁の監視所へと登り、望遠鏡で問題の人影を探す。



 さて、テンションが上がりきっている2人は、まさか城壁から監視されているとも知らず、ペースは落としているものの、常人では考えられないスピードで

 移動していた。(鼻歌混じりに・・・)


 アルマーが城壁に登った際には、既に門まで3kmを切った辺りであった。


「おお、近づくと、城壁が高いな! 15mはゆうにありそうだな。」


 門まで1kmを切ったので、ペースを大幅に落とし、常人の小走り程度にした。


「フェリンシア、設定はパターン2で行くから、間違えないでね! ややこしい話になったら、俺がメインで話するから、適当に合わせてね。」


「了解しました。早く中で美味しい物食べたいですね❤」

とフェリンシアもご機嫌。


 門まで100m、もう目と鼻の先。

「ん?門閉まってるね。 城壁の上の人に言えば、開けてくれるのかな?」

と、警戒されてる事に気付いていない海渡。


 門まで10m、城壁の上から、声を掛けられる。


「そのこ子供よ、そこで止まりなさい。私は辺境都市トリスターの領主アルマー・フォン・トリスターと申す。お前たちは子供2人だけか?」


 突然の領主からの呼びかけに、(いきなりトップが出てきたよーー)と驚きつつ、


「はい、私はカイト、こちらはフェリンシアと言います。2人だけで旅をしてます。」


「そうか、そんなに幼いのに2人だけか・・・何処から来た?親や大人は居ないのか?」


(パターン2、パターン2っと)


「はい、後ろの森からやってきました。私達の親や他の大人達は魔物に殺されてしまい、生き残ったのはこの2人だけです。親にこちらに町があると聞いていたので、やってきました。」


「なんと!2人だけであの「絶界の森」からやって来たと申すか!!!!」


 あれ?なんか、予想以上に反応が過剰だな? と背中に少し冷たい汗が流れる海渡であった。

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