第43話
設定ミスったのか? と思いつつも、ここで誤魔化しは難しそうなので、このままこの設定を進める事にした。
「はい、森の名前は知りませんが、北にある森です。
森で生まれ、住んでいたのですが、集落の結界が壊れ、魔物がやってきて、私とフェリンシアは、地下に隠れて難を逃れましたが、他の大人達は、私達を守るために・・・」
とここで嘘泣き演技。(どうせ距離的に涙は見えないだろうし)
「そうか、それは辛かったな・・・(「青い炎の柱」事件が影響しているのかも知れないな・・・) 通用門を開けてやれ!」
と横の兵に声をかけ、その兵が、
「はっ! おい、通用門を開けよ!!」
と門の方へ声を上げる。
メインの門程広くはないが、通用門も馬車がすれ違う程度の広さがある。
門の金属の棒で出来た檻の様なシャッターと分厚い木の扉が開く。
中から、手に槍を持った兵が
「小僧ども、こっちに来なさい。」
と手招きしている。
少しビビりつつ、
「フェリンシア行こう。」
と手を取って歩いて行く。
門の中の詰め所へと通され、先ほど城壁から声を掛けて来た、領主アルマーが椅子に座っていた。
「こちらに来て、その椅子に座りなさい。少し話を聞かせて貰うけど、別に罰したり投獄したりするつもりはないから安心してくれ。」
「はい、お邪魔します。」
と軽くお辞儀をし、フェリンシアもそれを真似て、頭を下げた。
ソファーに座ると、兵の1人に
「おい、この子らに飲み物と、軽い食べ物を持ってきてくれ。」
とアルマーが声をかけた。
「さて、改めて・・・、ここはワンスロット王国の辺境都市トリスター、領主であるアルマー・フォン・トリスター。辺境伯を任命されておる。」
「ご丁寧に。初めまして。私は、カイトと申します。こちらはフェリンシアと申します。」
「ふむ。見た所、幼いのに、なかなかどうして、そこらの貴族の子よりもしっかりしておる。して、あの森に住んでおったというが、何人ぐらいで住んでおったのか?」
「はい、集落には10人ぐらいで住んでおりました。魔物に襲われ、生き残ったのは私とフェリンシアの2名のみになり、結界も無くなったので、以前親に聞いていたこちらの方へと出てきました。」
「ほう、それは大変だったろう・・・ちょうど、飲み物と食べ物が来た事だし、お腹も減った事だろう、食べなさい。」
「ありがとうございます。じゃあ、遠慮なく・・・。頂きます。」
と手を合わせ、カップを手にして、一口。
ホットミルクみたいな、白い飲み物。久々のホットミルクに、
「あぁ・・・美味しい。ホッとする味だ。」
と頬を緩める。
フェリンシアは、皿に盛られているサンドイッチにロックオンしており、1つを一口でパクリと食べる。
「!!! 美味しいーーー! 海渡、これ美味しいですよ!!」
と声を上げる。
アルマーも周りの兵もその2人の微笑ましくその姿を見ている。
海渡も、サンドイッチを1つ取り、食べてみると、柔らかいパンに、焼いた肉とレタスの様な葉物野菜、それにタレが掛けてあり、非常に美味しい。
久々の野菜らしい野菜に、続けて2つ目を手に取った。今度はチーズぽい物と他の肉が挟んである。これも美味しい。
どうやら、異世界の食べ物は、海渡の口に合っているらしい。
フェリンシアの皿は既に空っぽ。3個目を食べた海渡は残り2個をフェリンシアにあげる。
「少しは落ち着いたかな? じゃあもう少しだけ話を聞かせてくれるか?」
「はい、おご馳走様でした。とても美味しかったです。」
と答え横を見ると、フェリンシアも完食し、カップのホットミルクを冷ましながら飲んでいた。
「で、続きだが、集落が襲われた日は何日前か判るか?」
と質問(尋問?)を再開するアルマー。
「あまり数えてないので、正確ではないですが、大体、10日ぐらい前でしょうか。」
と海渡が適当?に答えると、
「そうか(ふむ・・・ほぼ「青い炎の柱」事件の頃だな)。で、幼い2人だけでよくあの森を突っ切る事が出来たな。」
とアルマーがボソボソと呟いた。
「はい、私もフェリンシアも幼い頃より、両親や大人達に、ある程度戦えるように訓練して貰っていたので、大丈夫でした。」
「そうか、それにしても凄い事だ。よく無事でここまで辿り着いた。 しかし見た所、2人とも怪我も無いようだし、何よりだ。 ところで、森から何日も歩いたにしては、荷物が無いに等しいようだが?」
「ああ、それでしたら、私がアイテムボックスのスキルを、フェリンシアはマジック・ポーチを持っておりますので、荷物には困らなかったのです。」
と言ったら、滅茶滅茶食いついてきた・・・。
あれ?アイテムボックスのスキルって、言っちゃあ拙かったの?
『確かにレアスキルですからね・・・。』
と智恵子さん情報・・・うーん、遅いよ!!
「なるほど、そんなレアなスキルを持っていたのか。
であれば、手ぶらも納得だな。しかし、レアスキルだから、今後はあまり人に教えない方が良いぞ。
良くない大人にそのスキルのせいで、攫われたりしないとも限らん。」
と心配そうに忠告するアルマー。
「そうでしたか、知りませんでした。
今後は気を付けます。あ、出来れば私のスキルやなんかは、ここだけの話と言う事で内緒にしてもらえますか?」
と海渡は素直に忠告に対してお礼を言う。
ヤバいな・・・今後はスキルとかの情報は小出しに制限しないとだな・・・と内心冷や汗を掻く。
「うむ。当然そうする。 (周りの兵数人を見渡し)お前たちも漏らすなよ!」
と言ってくれた。
この領主・・・アルマーさん、良い人っぽいな。 良かった。
「で、更に質問だが、戦えるという事だったが、見た所、変わった形の剣を持っておるが、それで戦うのか?」
うーん、どうしようか? この人なら、ある程度戦力を開示しておいた方が、今後のやり取りも生活(素材の売却)でも便利そうだな・・・。
「えっと、私は、この剣・・・刀と言いますが、これは小太刀で、もう1本長い、刀がありまして、それを使った、剣術、槍、後は体術とかを一通りと、魔法を使って戦います。
フェリンシアは、格闘と魔法ですかね。」
「ほーーー!その若さでそれだけ使えるのか! しかも魔法までとは・・・。
凄いな! ご両親は、きっと名のある方だったんじゃないのか?」
と海渡達に感心するアルマー。
「さあ、詳しい話は全く聞いておりません・・・。でも鍛えてくれた両親や周りの大人のお陰で、こうしてここまで来る事が出来ました・・・」
(とちょっと、悲しそうな顔をする)
「そうか・・・聞きづらい事や悲しい事を思い出させて、申し訳なかったな。で、お主らだが、この町に住むという事で良いのか?」
「はい、出来るなら、そうさせて頂きたいと思ってます。
森から出てきて、まだ何も良く知らないので、色々学びながら、冒険者でもして、行く行くは色んな所を旅して観て廻りたいと思っております。」
と今後の方向を打診してみた。
アルマーは思った。この受け答えのシッカリした大人びた幼い子と、その横でホットミルクを飲む少女、彼らは将来有望で、必ずこの国の力になるだろうと。
「よし、判った。ではこのトリスターに住む事を認めよう。
して、冒険者になると言うが、まあ一応年齢制限は無いが、受付で揉めないように、紹介状を書いてやろう。
で、問題は住む所だが・・・確かに孤児院もあるが・・・どうするかな・・・」
とアルマーが思案している。
「取り合えず住む場所ですが、これまでに倒してきた魔物や素材何かをアイテムボックスに入れているので、これらを売れば、当面のお金にならないかなぁと思っております。まあ、価値がどれくらいかは判らないのですが・・・。」
「そうか、ではその旨も紹介状に買いておこう。
冒険者ギルドに紹介状を出せば、ギルドマスターが上手くやってくれると思う。
何かあれば、領主の館に来てくれれば、門番にも伝えて置くから、遠慮なく来なさい。」
ああ・・・この人、メッチャ良い人やw 最初に辿り着いた所の領主が、この人でラッキーだったぜwww と海渡が内心安堵する。
「何から何まで、ご配慮頂き、ありがとうございます。そうだ、お礼に・・・」
と、ここで普段使い様に小さい壺(土魔法製)に取り分けておいたハチミツを出してみる。
せっかく親切にしてくれたし、希少って鑑定にあったみたいだから、喜んでくれるんじゃないかな? このドラム缶サイズの壺だと大過ぎて目立つから、こっちの小壺の分で良いかな? と言う軽い気持ちで・・・。
誠実には誠実を、誠意には誠意を、親切には感謝を、をモットーにしていた海渡は日本人の感覚で、場所的にも一番出しやすい物(魔物の死骸とかは嫌がらせっぽいしね)と言う、結構軽い気分で出していた。
テーブルの上に、ドンと出てきた壺に、一瞬周りの兵が構える。
「あ、いきなり出してすみません。お礼になるかは判らないのですが、森で採取したフォレスト・ビーのハチミツです。
少しで申し訳ありませんが、回復の効能もあるようなので、どうぞ。」
あれ?領主さん固まった・・・周りの兵士のおじさんも固まった・・・。
「あのぉ~? 大丈夫ですか? こんな物だと失礼だったでしょうか?」
再始動したアルマーは、少し顔を赤くして、
「いや、すまない。ちょっとビックリしたものでな・・・。えっと森で採取した何のハチミツと?」
「これは、フォレスト・ビーのハチミツとなります。」
「・・・・・・」
あ・・・再び領主さん固まった・・・。
沈黙が流れ、領主が再稼働する。
「なんと!これはフォレスト・ビーのハチミツか! 滅多に市場に出回らない、幻のハチミツとされておる・・・ これだけで金貨ではなく、白金貨でも買えるか判らない物だぞ!」
「ああ、失礼には当たらなかったようなので、安心しました。色々ご配慮頂いて、ほんの少しで申し訳ないのですが、良ければお納めください。」
と改めて言う。
「君たち、カイト君、フェリンシア君、2人とも疲れただろうから、今夜はこのまま我が家に泊まっていきなさい。そして、明日は、ギルドまで送っていくよ。」
ん?何か展開が変わってきたぞ・・・。
え?地雷踏んじゃったのかな? と、少し背中に汗がまた出てきた海渡だった。
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