イザナイガタリ

亜峰ヒロ

みづほドリーム

みづほは今日も、夢を視る

 ドリームキャッチャーを吊るす。

 父が買ってきた悪夢を払うためのお守りを取り出したのは、これが初めてだった。

 みづほは妄信的な性格をしていない。目に見えるものだけがこの世に存在するのであり、見えないものは存在しないと吐き捨てる。それを悪いと思ったことはなく、大人から「冷めた子供」だと見做されたとしても、そういうものに囚われている子はかわいそうだと思っていた。

 思っていたなどと過去形にするのはよくない。今もそうだ。みづほは変わっていない。

 それなのに五分前の自分はドリームキャッチャーを吊るした。今も外そうとすることはせず、蜘蛛の巣に似た様相へと、じっと眼差しを注いでいる。無感情の瞳を揺らす。

(……ほんと、らしくない)

 これに期待をかけているという現状が、その感覚を増長する。

 みづほは悪夢に苛まされている。実のところ、あれが悪夢なのかは分からない。ただ、毎日、毎晩、同じ夢を視る。代わり映えのしない光景が、つまらない現実が広がっている。数年に一度くらいはこんなこともあるのかもしれない。

 あれ、今日の夢、前にも視たことがあったような――。

 みづほの場合はもっと具体的で確信めいている。今日も視た。起きるなり、そう思う。

 この現象を何と呼べばいいのかは分からないけれど、普通じゃないことは確かだ。しかるべき機関を訪れれば、難しい病名を与えてもらえるかもしれない。

 そんなのは嫌だ。みづほは断固として拒絶する。何しろ、彼女はすでに現実で問題を抱えている。虚構にまでそれが及ぶなんてことは避けたい。

 それに、どうせ、醜悪なまでの現実が虚構を歪めているだけなのだ。それなら積極的な解決策を探るなんて労力の無駄づかい。信じてもいないオカルトに縋るくらいでちょうどいい。

 枕元の電灯を消して、みづほは横になった。瞼を閉じる。夢が始まる。

 みづほは今日も、夢を視る。

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