プールの幽霊

 夏休みのことです。学校でプールを開放しているのでしょうた君は泳ぎにやってきました。更衣室で着替えて、たくさんの子供たちで賑わっているプールに入りました。

ひとしきり遊んで休憩していると、お友達に声をかけられました。

「お前知ってるか?このプールにね、おばけが出るんだってさ。」

お友達は、しょうた君に話してくれました。

白い人影が、プールに沈んでいるのだそうです。昔溺れた生徒の幽霊なのだそうです。

「3番レーンに出るんだよ。」

 夕方の誰もいないプールで日が落ちるまで待っていると出る、とのことでした。


そこで、しょうた君は幽霊が出るのを待ってみることにしました。一度プールを出るふりをして教室で待っていて、生徒も先生も誰もいなくなったあとこっそりとプールに戻ったのです。

ところが、プールの入り口は鍵がかかって入ることができません。仕方なくしょうた君は、窓からプールを覗き込みました。


夕方、7時を過ぎた頃です。ようやく、西の空へ太陽が沈み始めました。

またしばらく待っていると、だんだんと涼しい風が吹いてきました。日没の空は茜色から紫がかってきました。窓から覗いてみるプールにも影がかかって、見えづらくなってきました。

すると。


ばしゃっ。


大きな水音が聞こえました。あっ、と思ったしょうた君が目を凝らしてプールを見つめると、プールの真ん中、3番レーンのあたりにさざ波が立っています。『幽霊が出るんだよ。』と、昼間聞いたお友達の話が耳の中によみがえって、しょうた君の目が3番レーンに釘付けになりました。本当に幽霊なら、白い人影が見えるはずです。

そうして見つめていると、またも。

ばしゃっ、ごぽごぽ。ばしゃっ、ざぶ、ざぶ、ごぽごぽ。

まるで人が泳いでいるかのような、重い音を立てて水面が暴れています。白く泡立っている水しぶきの底に、何やらぼんやりと白い影が見えるようです。


しばらく、我を忘れてしょうた君はプールを眺めていましたが、見ているうちに水しぶきは大人しくなってきて、最後にぶくぶくと泡がはぜると消えてしまいました。

それきり、今まで水音が立っていたのが嘘のように、しーんと静まり返りました。しょうた君は、まだ少し呆然としながらとっぷりと暗くなった夜道を帰りました。


あくる朝、しょうた君はラジオ体操に出ました。一通りラジオ体操をして、スタンプをもらいに並んでいるとクラスメイトに話しかけられました。

「おい、しょうた、お前昨日プールに来ていたよな。」

休憩のとき、誰かと喋ってたけど、誰と話していたんだよ。


そう訊かれて、しょうた君はどうしても誰だったのか思い出すことができませんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る