第16話 北村雄平の怒り
北村の整った顔立ちが怒りに満ちていた。
「貴様だけは許さん」
正直、私はなぜ北村がいまだに私に怒りを覚えているのか分からなかった。北村は恋人の目の前で恋敵の私を完膚なきまでに叩き潰したのだ。
しかし、今回は私も北村に憤りを感じていた。強い嫉妬からくる怒りだ。北村が攻めるたびに、観衆から黄色い声援が降り注ぐのだ。
「私もお前だけは許さん」
私も阿修羅のごとく顔を赤らめ、竹刀に込める力を強めた。すると、北村は眉をひそめた。
「なぜ、貴様が私に怒る?お前は欲しかったもの手に入れただろうが」
私は答えに困った。モテるお前に嫉妬しているなんて、恥ずかしくて言えるはずがない。
私が無視していると北村は、
「俺はな、前からお前のことが気に入らなかった。お前が冷泉堂に入って以来、由紀の話はいつもお前のことばかり。しかも、お前のせいで、俺が辞めろと言った剣道をまた始めたいと言い出した。俺はな、女剣士なんて嫌なんだよ。だから、由紀の前でお前を成敗してやったんだよ。これで、ようやく由紀は百パーセント俺の女になると思った。だが、あいつは言ったんだ。『私は強い人が好きなんじゃない。私が好きなのは純粋な心を持った人よ。武田君みたいにね』ってな。そして、あの日以来、俺の前から姿を消したんだ。さっきの試合を見る限り、どうやら一人で稽古を積んでいたようだな。ふざけやがって」
私は飛び上がりたいぐらい嬉しかった。
「そんなこと勝負に関係ない」
と、私は表面上は必死にしかめっ面を作って言っておいたが、喜びを抑えることができずに、口許が綻んでしまった。
私の少し嬉しそうな顔を見た北村の怒りは頂点に達し、鍔迫り合いの手に力が入った。私は徐々に後退を余儀なくされた。再び会場から黄色い声援が上がる。これで気を良くしたのか、北村は距離を取ると、再び怒涛の攻めを浴びせてきた。
油断した私は一気に押され、後方に倒れ、尻餅をついてしまった。会場から失笑が漏れる。
冷泉堂大学陣営では、ルーカスが眉間にしわを寄せながら試合を見ていた。
「あの野郎、何をやっているんだ?勝負の最中になんで笑っているんだ」
「あれで負けたらお仕置きしなくちゃ」
同じように不快感を全面に押し出した顔で松尾女史が言った。
「二条城から大阪城まで走らせましょう」
二人とは異なり、ダンディー霧島はやけに嬉しそうに口を挟んだ。
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