赤揃え

第1話 目指せ平安神宮

一週間後、私は再び京都に戻ってきた。そして、この日、京都市剣道競技会が開催されることになっていた。


京都駅を出た私は腕時計に目を落として唖然とした。


午前十時。


冷泉堂大学の第一試合は十時三十分に始まる。試合開始まで、あと三十分しかない。私は慌ててバスターミナルに向かった。京都市剣道競技会の会場は、平安神宮だ。


平安神宮へ向かう市バスは五系統、そして、観光客がよく利用する洛バスの百号と百十号だ。人気の路線だけあって、バス停の前には長蛇の列ができていた。私はバスを諦め、タクシー乗り場に向かった。ここも大勢の観光客が順番を待っていた。


私は焦った。そして、パニックに陥った私がたどり着いた結論は、

『走るしかない』

であった。後々気づいたことだが、この結論は誤っていた。京都駅からは地下鉄烏丸線で烏丸御池駅に行き、この駅で地下鉄東西線の六地蔵行きに乗り換え、東山駅で下車すれば三十分もかからずに平安神宮に行けたのであった。


私はスーツケースを引きずりながら、全力で走った。スーツケースは邪魔だった。そこで私は京都タワー近くのホテルに駆け込むと、スーツケースを放り込み、

「後でチェックインします!」

と怒鳴った。もちろん、私はこのホテルを予約していない。


私は烏丸通りを北へ全力で走った。烏丸通りは京都市を南北に縦断する大通りであり、多くのビルが立ち並ぶ。特に四条通りとの交差点は都市銀行が支店を構え、さながらウォールストリートのような雰囲気が漂うエリアだ。大手のデパートも存在感を放っている。しかし、その他の大都市との決定的な違いは、一つ通りを入ると都会的な雰囲気は消え、古き良き古都の雰囲気を味わえることだ。この雰囲気を私は愛していた。私は暇を見つけては、ルーカス、そして、剣道部改め剣道サークルの面々と京都のあちこちを歩きまわった。


二条城、下賀茂神社、上賀茂神社、平安神宮、八坂神社、清水寺、嵐山はもちろんのこと、鞍馬寺や宇治にも足をのばした。そして、訪れた全ての神社仏閣で、私は剣道サークルが剣道部に再昇格できることを願い、そして、そのためにベストを尽くすことを誓った。


四条通りとの交差点を抜け、さらに北上すると烏丸通りは六角通りという細い通りと交差する。私は最後の誓いをたてるため、六角通りにある頂法寺、通称、六角堂に立ち寄ることにした。


拝観を済ませた私は、ここに来ると必ず行う行動を取った。隣のビルの一階に入る、六角堂を屋内から見渡すことができるカフェに入り、カフェラテを注文した。


長旅の疲れからか、私はすっかり京都市剣道競技会のことを失念していた。


カフェの心地よいソファに座り、リラックスしながらラテをすすっていると、携帯電話がけたたましい音を立てた。


スクリーンには『鬼の松尾』の名が記されていた。

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