第13話 奇跡
松尾女史が腕時計に目を落とす。午後六時になろうとしていた。メンバーたちを見渡すと、一様に疲れの色が表情に現れていた。
松尾女史は溜息を一つつくと、
「みんな、お疲れ様。今日はこのへんで引き上げましょう」
と言った。トモッチこと葛城智彦が何か言おうとしたが、松尾女史の瞳がうるんでいることに気づくと、言いかけた言葉を呑み込み、頷いた。
メンバーたちが帰路に着こうとすると、竹林に面した天龍寺の北の出入り口から、職員と思しき中年の女性が箒を持って現れた。浦賀氏が、最後の悪あがきとばかりに、携帯電話で撮影したルーカスの写真を女性に見せてみた。
「このヒグマみたいに大きな人、見ませんでしたか?」
すると女性は満面の笑みで、
「あんたら、ルーカス君の知り合いかい?」
といった。前を歩いていた松尾女史とメンバーたちが驚いて振り向いた。
「そうです。この人を知っているんですか?」
興奮した浦賀氏が鼻の孔を大きく開けて女性に尋ねる。
「ええ。五日ぐらい前だったかしら、ここで竹刀を持って、じっと竹林を眺めていてね。不思議に思った住職が声をかけたのよ。そうしたら、竹林の中で竹刀を振りたいって言いだしたのよ。メチャクチャでしょ?でも、その住職は剣道が好きな人でね、ルーカス君の話を聞いてるうちに、それなら一緒にやろうって言って、それから早朝に二人で竹林の中で稽古してるみたいよ」
メンバーたちは顔を見合わせた。そして、抱き合って喜んだ。
『ルーカスは生きている』
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