その先の出口

成瀬雅

プロローグ


制服についた染みがとれない。


雨上がり、湿気を多く含んだ重たい空気が、開け放した窓から入ってくる。夏の夜を連れてきた、風の匂いを懐かしく思う。

夏がはじまる。私が死んだ、夏がはじまる。


──片瀬くん。


あの日から、痛みは何も感じない。

出会えた喜びと苦しみ。


一緒に幸せになりたいと言われた日を、思い出す。幸せになろう、とか、幸せにしてあげる、とか、そういう明るいものではなく、幸せになりたい、という、儚く脆い願望。

私だけの、誰にも奪われない、静謐な思い出。


制服についた血は、あの日を忘れないために残っている。

私に触れた片瀬くんの体温を思い出して、救われなさに絶望した。

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