第5話 旅日記の一ページ 4
ハルトは村が見える丘まで辿り着く。
が……そこからの光景を見てハルトの表情はより一層、絶望の色に染まっていく。
陽が落ちた暗い闇の中で大都市のように散々と空気を照らしているのは…………
燃え上がる真っ赤な業火だった。
「……!!! 」
信じられなかった。
生まれた故郷が燃えている。
全ての思い出が灰に消えていく。
《「また遊ぼうぞ。」》
少女が笑顔で振り向きそう言う姿が思い浮かび、より一層あの時の言葉が頭の中で響く。
ハルトはほとんど何も考えられずリュヘンに向かっておろおろと丘を下りていく。
(せめて誰か一人だけでも……。)
ハルトの心には淡くもその言葉だけが辛うじて紡ぎ出された。
しかし、目の前に広がるリュヘンの様子は想像以上に酷かった。
建物は燃え上がり、土は灰と血で汚れ、草木は黒く散っている。
懐かしの景色が崩れている。
昔、あの少女と約束したリュヘンが燃え上がっている。
ハルトは目の前に広がる絶望的な情景に耐えきれず、瞬きさえせずに馬から下りるとそのまま数歩歩き、そして膝から地面に崩れ落た。
涙さえでてこない。
家の稼業を継がずに旅に出て、助け人なんてやってる償いがこれだ。
ハルトには後悔の悔しさしか残らなかった。
「ごめん……皆。」
ハルトは目を強く瞑り、唇を噛み締め、ひざまずいた姿勢で燃え上がる自分の故郷に向かって謝る。
………《また遊ぼうぞ。》………
その時、あの日のあの時の少女の声が、また頭の中で蘇る。
それは消えることのない悪夢の様に、時間を追うごとにそのイメージは強烈なものとなり、脳を縛り付ける。
獣の耳と尻尾を持ち、純白にたなびく髪は月夜にも太陽にも照らされれば美しく煌めく。
彼女との記憶。
いや、もしかしたら彼女なら、彼女だからこそまだ助かるかもしれない。
ずっと約束を守れなかった……あの約束を交わした少女と……また会えるかもしれない。
なんたって彼女の名前は……………
この村で祀られていた神、『犬神 ウル』なのだから。
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