創作は、綺麗なことばかりじゃない。~いかにして私は小説を書き始めたか~
まぐろ定食
1話 或る凡人の自惚れ
毎日死のうと思っていました。
この文章から始めるのには訳があります。それはこのエッセイを読んでほしいからです。読んでもらうためには、インパクトがなければいけません。
私は才能がありません。20代も半ばを過ぎるまで、まったくと言っていいほど芽が出なく、就職もできず、ただ怠惰な日常を繰り返していました。
人間、平坦な毎日を過ごしていると思考も鈍ってくるものです。当時の私は、変わらない日常と同じゲームを繰り返している、死んだ存在でした。
そんなクズみたいな人間でも、夢はありました。自分に何がしかの才能が眠っていて、それが花を咲かせる日々が来ると。
そしてその時は、意外にも早くやってきたのです。
ツクールフェスというゲーム制作ソフトが2017年に発売されました。
私は何かに憑りつかれるように、10日かけてRPGを作り上げました。そしてそのRPGが、あるゲーム雑誌に掲載されたのです。
私は喜び、界隈の皆さんも祝福してくださいました。私には、ゲーム作りの才能があったんだ。そう思っていました。
しかし、私はそのあと大きな過ちを犯してしまいました。
作品を、削除してしまったのです。
私の人生での大きな後悔の一つでした。
それには理由があります。まず一つは、自分の作品が信じられなくなったこと。
「私の作品には、評価される価値はないのではないだろうか」
長年の堕落で自信はとっくに腐りきっていました。
二つ目は、その作品をハードルと感じていたこと。
私は処女作が評価を受けたことにより、それを超える作品を出さなければいけないという変な意識が頭について回りました。それが、重みになっていたのです。
だから、私は精神が不安定になっていたこともあり、やけになって作品を消してしまったのです。
それからは地獄の日々でした。
私は、私が唯一才能を見出すことができた、自分を見つけることができた作品たちを消去してしまったので、自分というものがさらに分からなくなりました。
しかし、いったん受けた評価は、私をその作品を生み出した存在として、期待と嫉妬が私を取り巻きます。きっと、周りは私が再びゲームを作ることを期待していたでしょう。
私はその期待に答えようと、何度もRPGを作りかけては、完璧主義のもとに失敗していました。私自身、その時は自分に才能があると信じていたのです。
ですが、奇跡的な出来だったあのRPGを超える作品は、生み出すことはできなかったのです。それが、私にとってはつらいことでした。
いくら作っても、前よりは面白くないんじゃないか。もしかすると、そんな私に皆呆れ始めているのではないか。
「そもそも、最初の作品はほんとに面白かったのか?」
だんだん、SNSに顔を出すのが怖くなりました、私は拭えない過ちを犯した存在として、ずっと死んでしまおうと考えていました。奇跡でできたあの作品を捨ててしまった以上、私に出せる手札は残っていないと思っていたのです。
自分が許せない。
自分は最低だ。
自分には何もない。
一年近く、何かにつけてついて回る言葉は、そのようなものでした。
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