不眠症の僕が、いつの間にかに寝ていた?

夜空のかけら

不眠症だったはずなのに

僕は、精神科の主治医からの太鼓判を押された不眠症だ。

夜、眠りにつかないという入眠障害に加えて、夜中に何度も起きてしまう中途覚醒。まだ、起きるべき時間ではない早朝に、起きてしまう早朝覚醒というのもある。


眠っていないというのは、ずっと目が覚めたままということ。

この証拠に、時計をずっと見ている。

1秒、1分、1時間。

ずっと、増えていくのを見ていて、それをずっと覚えているから、眠っていない証拠のようなものだ。

だから、様々な病名の総称である不眠症ということが分かる。


ところがだ。

母親が変なことを言った。


「不眠症?深夜…2時くらいに、あなたの部屋からいびきが聞こえたわよ。あまり考え過ぎるのも毒だから、その話を先生に言ってみたら?」


その日も確かに寝ていないはず。

いびきは、寝ていないと出ないはずで、母親の言うことが間違っているに違いないと、納得していたのに…。


「お兄ちゃん、いびき、私の部屋まで聞こえるの。うるさいから、なんとかして」


妹の部屋は、隣だ。

そんなに大きな声を上げたことはないし、隣接しているからと言っても、物音も聞こえないはず。

聞いてみれば、その日も寝ていないことから、妹の言うことは、夢の中の出来事だろうということで、納得したが…。


「おまえのいびきは、結構大きいぞ。しかも、いびきが止まる時がある。睡眠時無呼吸症候群という病気もあるから、一度精密検査を考えてみよう」


寝ていないはずなのに、いびきは聞こえるし、いびきが止まる時もある。

別の病気の可能性も指摘されたけれど、僕の病気は不眠症で、他の病気やいびきなんかあるはずもない。


病院に行き、診察を受け、先生に…


「僕の病気は、不眠症ですよね?母も父も妹も、いびきの音が大きいとか、いびきが止まるなんて話をしているんですよ。おかしいですよね」

「なるほど。いびきか。お父さんの懸念も分かるから、一度精密検査を受けてみませんか。不眠症の原因なども調べられますし、薬も、もっと適切なものが選択できますから」

「はぁ…」


付き添いで来ていた母親にこの提案をして、精密検査を受けることになった。


精密検査と言っても、病院内の特別な部屋で寝るだけ。

脳波などを図るための電極その他が取り付けられ、いざ寝ることに。


いつもと同じ通りに布団の中に入って少しずつの時間経過を感じて朝まで…。


先生がデータ取りしたペーパーを持ってきた。

結果は、ぐっすり眠っている。

いびきもある。

いびきが途中で止まり、睡眠時無呼吸症候群の可能性が高いということだった。


「でも、ずっと時間が経っていくのを自覚しているんですよ。これで、よく眠れているなんて、おかしいじゃないですか」

「おそらく、時間が経っていることを自覚しているように思えるが、それ自体が夢で、寝ていないつもりの夢をずっと見ているんじゃないかな?」

「そ、そんなバカな」


僕は、不眠症だと思っていた。

しかし、実際は、不眠症の夢を見ていた健康な人だったらしい。

ショックだ。


睡眠時無呼吸症候群の可能性も、そののちに否定された僕は、寝付きをよくする薬をもらっている。


しばらくして、その薬がプラセボ…偽薬だったことを言われてしまい、健康体だということを先生から太鼓判を押されてしまった。


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