愛とは

ひやとい

愛とは

 

 俺は友人の吉野に確かめたかったことがある。

 同じクラスの女子の、山岡が好きなのかどうかだ。

 俺は、彼女は吉野のことが好きだったのを知っていた。

 なぜかといえば、山岡から吉野へラブレターを渡すように頼まれていたからだった。

 ケータイじゃ心が伝わらないし、でも私から渡したりできないから、と彼女が言っていたのを思い出す。

 だが俺は、実を言うと山岡が少し好きだった。

 だから少しだけくやしくて、山岡から受け取ったラブレターを渡さずに、家の机の引き出しにしまったままにしてあったのだ。

 その後山岡から返事を聞かれたが、そのつどごまかしていた。

 だが、もうごまかせないところまできてしまっていた。

 彼女はほどなく入院し、俺のよく知らない不治の病というやつで、余命幾ばくもない状態になったのだ。

 俺は自分の行いを悔いた。

 吉野に本当のことを言おう。そして一緒に、山岡を見舞おう。そう思ったのだ。

 俺は決心し、ある日の放課後、吉野を誘い家に帰った。

「なあ、話ってなんだよ? 宗教の勧誘か?」

 俺の部屋に入った後軽口をたたく吉野に、俺は机の引き出しを開けて、山岡から頼まれていたラブレターを吉野に渡した。

 吉野が一通り読み終わるのを待って、俺は口を開いた。

「俺、少しだけ山岡が好きだったから、渡すのがやだったんだ……」

「……うん」

「だけど、山岡もいつまで生きられるかどうかわからないし、もしお前にこれを渡さないまま山岡が死んでしまったら、俺、一生悔いが残ると思って、だから……」

「……うん」

「なあ、聞きたいんだ」

 俺は、重い表情になっている吉野に切り出した。

「あいつのこと、どう思う」

「……別に」

「べ、別にって……」

 俺は驚き、まくしたてた。

「お前、あいつのことなんとも思ってないのか」

「別に」

「山岡はもうすぐこの世からいなくなるんだぞ?」

「あ、そう」

「かわいそうとかそういうこと、思わないのか」

「別に」

「お前の返事を待っているはずなんだ」

「あ、そう」

「山岡がかわいそうだとか思わないのか?」

「別に」

「お前、あいつのことなんとも思ってないのか」

「別に」

「山岡はもうすぐこの世からいなくなるんだぞ?」

「あ、そう」

「かわいそうとかそういうこと、思わないのか」

「別に」

「お前の返事を待っているはずなんだ」

「あ、そう」

「山岡がかわいそうだとか思わないのか?」

「別に」

「お前、あいつのことなんとも思ってないのか」

「別に」

「山岡はもうすぐこの世からいなくなるんだぞ?」

「あ、そう」

「かわいそうとかそういうこと、思わないのか」

「別に」

「お前の返事を待っているはずなんだ」

「あ、そう」

「山岡がかわいそうだとか思わないのか?」

「別に」

「お前、あいつのことなんとも思ってないのか」

「別に」

「山岡はもうすぐこの世からいなくなるんだぞ?」

「あ、そう」

「かわいそうとかそういうこと、思わないのか」

「別に」

「お前の返事を待っているはずなんだ」

「あ、そう」

「山岡がかわいそうだとか思わないのか?」

「別に」



 ────────────────────────



(以下続く)





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愛とは ひやとい @hiyatoi

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