チャカポックリ

エリー.ファー

チャカポックリ

 妖精なんて生き物を余り信用しないでほしい。

 いない、ということを前提に話した方が正確であると思う。

 私が、妖精で。

 こんなことを言うのもあれだが。

 妖精という生き物なので。

 あれが、あぁで、こうなので、どうなってもそうなる。

 つまり。

 妖精なんていう生き物は想像の中で飼いならすのが良いのであって、実際にいるという事実に気が付く必要はない。

 いたところでなんなのだろう。

 あぁ、いた。

 それしかない。

 余り、期待しないで欲しいのだ。

 妖精は人間と同じで生きているし、人間にできないことができる。だが、人間にできることができないことも多々ある。

 そういう面で言えば、魚と人間の関係とも同じだ。

 つまり、人間は肺呼吸ができて魚は肺呼吸ができないが、魚は鰓呼吸ができて人間は鰓呼吸ができない。

 どの生物同士にもある、できることと、できないこと。

 それだけなのだ。

 なんだ、絵本の中の妖精はあんなにも万能なのかと思ってしまう。あんな妖精いてたまるか、あんなものは存在しない。絵本の中にいる妖精を現実の世界のイメージに重ね合わせようとしないで欲しい。

「あ、妖精さんだ。」

 うわ、バレた。

「妖精さんだよね、妖精さんだよね。」

「そうだね、妖精さんだよ。」

「わぁ、本物の妖精さんだぁ。」

「偽物の妖精さんに会ったことがあるのかなぁ。」

「あのね、妖精さん、妖精さん、お願いを一つ聞いて欲しいの。」

 始まったよ。

 なんだ、こいつ。

 妖精とかじゃなく、初対面の人間に対してもお願いなんてしたこともないくせに、なんで、妖精相手だとこんなに横柄な態度とってくるんだよ、こいつ。

「お母さんがね、実印を家の中でなくしちゃったの。どこにあるか分かるかなぁ。」

「へぇそうなんだ。」

 もっとファンシーなお願いしてこいよ。

 それにせめて実印じゃなくて、ピンクの枕とか、靴下の片っぽみたいな、そういうのにしろ。

 なんでだよ。

 そういう、なんか、その現実っぽいもの探すなよ。

 ていうか。

 その年で実印とか言うなよ。せめて、可愛くはんことか、スタンプみたいな言い方にしてみろよ。

 子供がかわいい時期がいつまでも続くと思ってやがる。生意気な野郎だ。痛い目見せてやりたいが、妖精だから正直、何にもできない。

「他に、何かあるのか、お願いとか。一個くらいなら叶えてもいいぜ。」

「あのね、あのね。うんと、あのね。」

「思い出させてやろうか。思い出させてやったっていうので、願い事一個使ったってことにするけどよ。」

「お酒欲しい。」

「飲むな飲むな。」

「飲まないよ。」

「飲む以外使い道ねぇだろ。」

「飲むよ。」

「飲むんじゃねぇか。」

「ううん、パパに飲ませるの。」

「パパ、お酒好きか。」

「うん。でも、お酒飲んでる時は優しいけど、お酒飲まなくなると直ぐに怒ったり、怒鳴ったり、壁蹴ったり、お母さん殴ったり。蹴ったりする。」

「お前はされないのか。」

「投げられそうになったけど、お母さんが何度も何度も何度も何度も謝ったら降ろしてもらえた。ちょっと怖かった。」

「実印見つかると良いな。」

「見つかったらパパ、優しくなるかなぁ。」

 向こうでパパらしき男が、何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 何度も。

 俺は駄目な奴だ。

 と、叫んでいた。

 私は自分の家に戻ろうと歩き始める。

「妖精さん、また会えるよね。」

「会いたいな。」

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