第11話 銀行強盗
私は、真っ昼間からノイータの格好で、空を飛んでいた。
「こちらピート。西区の外れ15番ストリートの銀行で、強盗事件発生。犯人は3名、銃器所持。」
スマートウォッチ型のブレスレットから通信が聞こえる。
「何で私が……」
ちょっと不満だ。
私のヒーロー活動は、完全に趣味で、誰かに依頼されてやるのは不本意だからだ。
だって、それすると、自分の時間が食い潰されるから。
報酬も貰っていないのに、他人の仕事を肩代わりするなんてまっぴらなのだ。だってこれ、警察の仕事だよね?
私は別に、街の治安を守ろうとか、世界平和の為に戦っている訳じゃなくて、空いた時間に自分の出来る範囲で、ヒーロー活動をしているだけなんだ。ボランティアと一緒だよ。
やりたくない時はやらないし、他人に強制されて、ましてや命令されてまでやろうとは思っていない。
よく、『力を持った者にはそれ相応の義務が発生する』とか、真顔で言っちゃう人が居るけれど、そんな物は無いんだぞ。
グローバルな視点で見た場合、私の力は完全にイレギュラーな物で、元々無い物なんだ。
だから、無い物として扱って貰わなければならない。
毎月50ドルのお小遣いで遣り繰りしている所に、お母さんが気まぐれで1ドルくれたみたいな物だよ。
その1ドルを毎月当てにして生活してもらっては困る、という事さ。
これは、ボランティアの精神と同じもので、『私の空いた時間に私の出来る範囲でのお手伝いをしますよ』と同じものなんだ。
皆が自分の出来る範囲で困っている人のお手伝いをしてあげるという、優しい気持ちを全員が持てば、世の中は少しずつ良くなっていくはずだという理論。
これを、偶に勘違いして、ボランティアに対して怒鳴りつけたりする人が居るんだよね。
来るのが遅い! 仕事が遅い! 丁寧に出来ていない! 仕事が途中なのに、もう帰るのか!
そういう人には、申し訳有りませんが、『次からはあなたのお手伝いをする事は出来ません、ご自身の問題はご自身でご解決下さい。』って言う事にしている。
人に手伝って貰って、感謝の気持ちを持てない、してもらう事が当たり前だと思っている人には、気の毒だとは思うけど、そう言うしか無いよね。
じゃあ、今回の銀行強盗の事件は、何で引き受けちゃったのかと言うと、偶々今日は休日だったせいで、遊びでピートとちょっとした賭けをして負けちゃったからなんだ。
今回はどんな賭けをしたのかって? 前回のラーメンのリベンジマッチで、美味しいおでんを用意するというもの。負けた方は、一日相手の言う事を聞くという条件だった。
私は、アキバで食べたおでん缶を得意満面に出してみせたのだけど、ピートは日本食を徹底的に研究して来たみたいで、結果は火を見るより明らかだった。
……あのおでん缶、美味しかったのになー。
まあ、そんな訳で、銀行強盗の捕獲にやって来た訳だ。
銀行の建物までやって来ると、既に出入り口は警官に包囲されていた。
あ! さてはピート、謀ったな!?
私は、警察の包囲網の内側、銀行の入り口近くまで降りて滞空すると、交渉役の警官が拡声器で私に向かって、危ないとか離れろとか言っている。
見回すと、野次馬がスマホを向けて動画を撮っている。
私は、変装しているとは言え、面が割れるのは極力避けたいので、そちらへはなるべく顔を向けない様にした。
銀行はと言うと、正面のシャッターは降ろされていて、何処から入れば良いのかな? と、見回すと、横に通用口が在ったのでそこのノブに手を掛けてみると、普通に開いた。鍵は掛かっていなかった。
のこのこ中へ入って行くと、一斉に銃を向けられてしまった。
「な、何だお前は!」
何で必ずどもるの? 別に良いけど。
まあ、頭のおかしい女の子が入って来ちゃったと思われただろうな。
銃器って言われたから、ハンドガン程度を想像していたのだけど、自動小銃じゃん。私の
人質は、と、奥の壁際に纏めて座らされて、一人が銃を向けている。
一人が出入り口を見張り、もう一人がカウンターに登って行員に金を鞄に詰めさせている。
「カウンターの上の男に電撃。死なない程度にね。」
【Roger(了解) 電撃 死なない程度】
ヴヴゥ……シュパァン!
独特の放電音を響かせて、私の左手から男の持っている小銃へ向けて閃光が走り、男は背後へすっ飛んで行って壁にぶつかり、気絶してしまった。
男達は一瞬何が起こったのか分からなかった様だが、直ぐに私が何かをしただろうと悟り、私へ銃口を向け発砲して来た。
ダダダ、ダダダッ!
カンコンキン、カンッ!
弾丸は、私の
だけど、跳弾がヤバイ。大体は上の方へ飛んで行ったみたいだけど、一発は人質の女性の足元の辺りへ飛んだ。当たらなくて良かった。危ない危ない。
「あー、無闇矢鱈に撃たないで下さい。跳弾が危ないので。」
「嘘だろ……」
男は、銃が効かないのを知り、愕然とした様だ。
しかし、少し離れた場所に居る、人質に銃を突き付けていた男は、直ぐに正気に戻り、大きな声を出した。
「お前! 妙な事をするな、人質が居るんだぞ!」
うーん、人質は厄介だね。
即死させられなければ、傷は治せると思うけど。
「男達の持っている銃を蛇に作り変えられる?」
【塑性加工術で無機物を生物へ作り変える事は不可能。
「じゃあそれで。あそこの入り口にある鉢植えと銃を交換。」
【Roger(了解) 空間扉を起動 銃と鉢植えを交換 Completed(完了しました)】
男達は、持っていた銃が急に重そうな鉢植えへと変わり、足元へ落とした。
人質の近くに居た男は、モロに鉢植えを足の上へ落としたらしく、情けない悲鳴を上げて、足を抱えて床を転げ回っている。
行員の男数名が直ぐに立ち上がり、犯人を取り押さえた。
私の近くに居た男は、足には落とさなかった様だけど、もう勝ち目は無いと思ったのか、一旦ナイフを抜いたのだけどそれを床に投げ、手を挙げて降参の意思を示した。
「電撃落としとく?」
「やめてくれ、降参する。」
最後の男も、行員に取り押さえられた。
さて、じゃあ私は仕事が終わったので帰りましょうかね。
入って来たドアのノブに手を掛けて開けようとしたら、銀行の偉い人らしい年配の人に声を掛けられた。
「あのう、あなたは一体?」
「私の名前は、ノイータ、魔女よ。」
そして、私は小声で玉へ命じた。
「アポーツ。自宅のドアへ。」
【Roger(了解) 空間扉起動】
銀行の通用口のドアを出ると、そこはペントハウスの玄関。
何この魔法、便利過ぎる。テレポーテーション出来ちゃうのか。
【Completed(完了しました)】
ルーフバルコニーのテーブルにラップトップパソコンの様な器械を置いて、急に私の反応の消えたモニター画面を不思議そうに見ながら、あちこちを弄くり回しているピートの背後へそっと近寄り、ポンと肩を叩いたら、ピャアみたいな変な悲鳴を挙げた。
「ド、ドリー! 何時の間に帰って来たの?」
「ふうん、私は許可していないのに、勝手にドリー呼ばわりしているんだ? まあ、いいわ。」
ピートは、しまったという様な顔をしたけど、私が怒っていないのを見て、ホッとした様だった。
飛んでこのバルコニーから帰ってくると思っていたみたいで、どうやって帰ってきたのかしつこく聞かれたのだけど、この魔法は内緒にしておこう。
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