歩通 奈陽斗は格闘狂
ムッシュルムッシュル
第1話 継承
ある日普通に学校に行くと、なぜか金属で出来た部屋にいた。
部屋の中央には赤色の椅子がこちらに背を向けて置いてある。
なんだここ…
僕は取り敢えず勇気を振り絞って椅子に近づく。
そして椅子の反対側に回り込んだ。
するとそこには、胸に大穴を開けた死体が横たわっていた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
僕は腰を抜かし尻餅をついた。
赤い椅子だと思ってたのは……この人の血だったのかっ!!
よく見ると、死体はとても綺麗な顔をしていた。
透き通るような白い肌に薄い唇、そして先っぽだけ真っ赤になったシルバーブロンドの長髪。
僕は少し近づいて死体を観察する。
すると、死体の目がグルンと動き、僕を見た。
「ヤァ、私の名前は……」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
僕は再び腰を抜かした。
「おいおい、人の話はちゃんと聞かなきゃダメでしょ。」
男はピンッと立ち上がるとモデルのような歩き方で僕に近づいてくる。
「し、死んでないんですか?」
男は首を少しかしげると、自分の胸を指差した。
「あぁ、これ? 死んでるよ、ただ私ほどの強さになると死んでも一ヶ月くらい生きてられるんだ。脳みそが死なないからね。」
「…………」
「私はフロスベーン、フロスベーン=サファリウス。犯罪者さ。
君をここに呼んだのは私だよ、弟子。」
「で、弟子? なんの話ですか?」
「ははははははははは、君は僕の弟子になりました、という話だよ。」
何言ってんだこの変な人。
「嫌でーー」
「勿論拒否権はない。君が嫌って言った瞬間私は君と一緒に自害するからね。」
そういうとメンヘライケメンは懐からダイナマイトを取り出す。
それを見て僕は仕方なく従った。
「それで、何がして欲しいんですか? 葬式に出てくれる知り合いがいないから無理矢理弟子作っとこうとかじゃないですよね。」
男はチッチッチと指を振ると胸の穴から光輝く宝石を取り出し、それを僕に向かって投げつけた。
「ぐぇ、」
宝石はとてつもない勢いで胸に突き刺さり、そのまま体の中に入っていった。
「これで、8割終わり、あとの2割はリムガッペ王国の王都に行って僕の聖具ーーまぁ専用武器みたいなのを取ってくること。これで全部、その後は好きにしていいよー。」
「リムガッペ王国?」
「あーあー、ごめん、言い忘れてたよ、ここ異世界、多分君帰るの無理だから。まぁ後は異世界生活楽しんでよ。もっとも、勇者も魔王もいないんだけどw」
くくっくくくくくっくくくくっ
フロスベーンは腹を抱えて笑い出す。
イラッとするが相手は胸に大穴開けて生きているようなやつだ、逆らわない方がいいだろう。
「じゃあ、わかりました、早く解放されたいのでリムガッペ王国に連れて行ってくさい。」
するとフロスベーンは驚いた顔をしてこっちを見てくる。
「まさか力もらいたてで王国騎士の防御を破って最重要保管物に指定されてる僕の聖具を取りに行くつもりなの? 馬鹿なの? 死ぬの? 」
「なんであなたの武器が最重要保管物に指定されてけいびされてるんですかっ!」
てっきり王都の隠れ家に隠したのどかとでも思ったのに。
「いやー昔王国騎士団を壊滅させたことがあって……。
あっ! ちなみに私が死んだら君がサファリウス名乗るんだよ。」
嫌だよ、そんな悪名高い名前名乗りたくねぇよ。
「んはははははは、そうか、そんなに嬉しいかっ!」
フロスベーンは肩に手を回しポンポンッと叩いてくる。
「じゃあ結局どうすればいいんですか! 僕一般人ですよ。」
フロスベーンはすっと僕から離れると腕を組み椅子に座りなおす。
「だから僕が戦い方を教えてあげよう。ぶっちゃけ、渡たした力も今の君じゃ使えないと思うから、私が徹底的に鍛えてあげるよ。生体エネルギーの利用の仕方や、私の編み出した体術を。」
「わかった。じゃあさっさと始めよう。貴方も準備してくれ。」
取り敢えずこの男から早く解放されたい。
とっとと王都にその聖具? とやらを取りに行こう。
僕は固く心に誓う。
しかし、フロスベーンは全く椅子から立ち上がろうとしない。
「…………どうした?」
「ハァ……、君は僕に師事すると決めたんだよね?」
僕は頷いた。
「じゃあ、師匠には敬意を払うべきだろ……。」
嫌な予感がする……。
「さっきから君はメンヘライケメンとか変な男とか思ってただろ。まずそんな心意気では強くはなれないんだよ。だから最初の修行はフロスベーンお師匠様って1万回いうこと。はいスタート。」
クソ男は、
「はい今、クソ男って私のこと思ったでしょー1000回追加ねー。ほらほらー早くしないと私が成仏できないよ〜。」
ギリリ
僕は奥歯を噛みしめると口を開いた。
「フロスベーンお師匠様フロスベーンお師匠様フロスベーンお師匠様フロスベーンお師匠様……」
こうして一ヶ月がたった。
フロスベーンお師匠様は最早手足が腐り顔だけになっている。
そしてついにフロスベーンお師匠様の死ぬ、お亡くなりになられる日がやってきた。
僕はお師匠様の顔を最初に座っていた椅子の上に置く。
お師匠様は僕を見て言った。
「あぁ、強くなったね……ナヒト、もうこれなら、君も王国騎士団長程度なら互角にやりあえるんじゃないかな。まっ!私の境地には程遠いけどねっ!!」
どこまでもむかつ、遊び心のあるお師匠様だ。
お師匠様はどこか遠くを見るような目をする。
「もう少しで死だね……。」
そう呟くお師匠様の目から涙がポロリ。
演技だ!つい先日お師匠様がホラー映画でカップルが食われるシーンを見て大爆笑していたのを僕は知ってる。
「楽しい……人生だった……。」
そりゃそうだ、お師匠様はずっと自分勝手に周りに迷惑をかけまくって生きていたんだから当たり前だ。
「今思えば……少し後悔していることもあるな……。
私に迷惑をかけられた人々には済まないと思っている……。」
これも嘘だ。
お師匠様は復讐にきた人々が発する名前を1つも覚えてなかった。
「さっきから失礼なことばっか考えてるよね?ナヒト?」
「いえいえ、お師匠様。いつになったら死ぬのかなーと思っていただけですよ。」
「なんて失礼な弟子なんだ! 今から師匠がしぬんだよ!」
僕はにっこりと笑みを浮かべた。
「お師匠様はわがままで、だらしなくて、どうしようもないクズ人間です。」
お師匠様が泣きそうな顔になる。
「普通にひどくない?」
「けど、強くしてくれたことは感謝しています。」
お師匠様はそれを聞くとパッと顔を輝かせた。
そして目を閉じるとにっこりと笑う。
「そうか、それはよかっ……た……。」
お師匠様の顔は灰のように崩れ去った。
僕は窓から射す月の光を浴びて腕を伸ばした。
「さぁ、最後の宿題に取り掛かろうか。」
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