第8話 領地ごと、ヒモ?

 エイリークと一緒に殿下に城に呼ばれた。何で。通された客間で、美味しい料理を頂けるらしい。借金返済中なのに大丈夫なのか。


「公務として二人を呼んでいるから、今回の食事代は国家予算からだ。気にせず好きなだけ食べるといい」

 気にするわ!


「堂々と殿下とお食事をするのは何年ぶりかしらね?」

「三年と少し…くらいかな? ようやく事態を動かす事が出来てほっとしているよ」

 二人は普通に会話をしている。学院では不仲に見えたけれど、長年の友人みたいな気安さが垣間見える。本当に関係は良好だった。


「ところで、私にはどうしても訂正しておきたい事があったのだが」

「まぁ? 何かしら」

「エイリークは細かい事は気にしないから、絶対に訂正してくれないと思っている。私の趣味の話だ」

 えっ、殿下、まだこだわってるの!?


「気にしてらしたの?あれは、あの場で私に説得力が出る様についた嘘よ。別に害もないし、そのまま嘘を突き通そうかと思ってた」

「えー!」


「やはりな。覚えておいてくれ。私はダサい男ではない。確かに贈り物のほとんどがエイリーク希望の魔道具開発に必要な物だったり消え物だったりしたが、趣味は悪くない!」


 歓迎パーティーのあれこれも、婚約破棄の為の根回しで忙しく、殿下は食事にしか関わらなかったそう。後は自称な人たちが勝手にやったとか。

 それもどうかと思ったけれど、気が付いた時には勝手に自分たちの私財まで入れて発注していたから、諦めたそう。


 食事さえまともなら、全体の印象はそこまで悪くならないとは殿下の話。確かに種類も豊富で美味しかったし、他はちゃんと覚えていない。


 話しているうち、殿下とエイリークはいいコンビだと思った。二人は出会い方さえ違っていれば、違う道があったのではないかと思うくらいには仲が良く感じた。


「私はアウトドア派でエイリークは究極のインドア派だった。私は遠乗りが好きだし、各領地を回るのも仕事のうちだが、好きだった。エイリークは部屋を快適に整えたら一歩も出たくないとか言うし。それに、天才魔道具師は、公務や視察で動き回るより、部屋で魔道具を作った方がいいに決まっている」

 その考えは正しいけれど。


「そう言えば、元々ご実家の侯爵領の借金の返済が終わる様に働きかけたり、直接生活費の援助をして欲しいって言ってきたのは殿下よ」

「私が個人を支援するわけにはいかないからな」

 全然知らなかった事を知った。


「伯爵家の私が、ご実家の財政状況や、奨学金で入学しているなんて個人情報知る訳ないじゃない。本当のパトロンは殿下よ」

「いやいや、確かに私が話を持ちかけたが、パトロンは伯爵家とエイリークだよ」

 殿下に本気でお礼を言った。馬鹿だなんて思っててすみませんでした。


「特許登録もしたんだろう?少しでも生活が楽になるといいな」

「二人は節約がとか、お金がないとかよく同じ事を言っていたから、話が合うんじゃない?」

 話してみたら、本当に話が合いました。なんだかんだであっという間の楽しい食事会だった。

 

 学院卒業と同時に気が付いたら、伯爵家の支援でエイリークと一緒に隣国へ留学することになっていた。いつの間に?

 殿下との食事会が公務だったのは、隣国で勉強する私たちへの激励とか、国に有用な知識を蓄えて来てねとか、本来はそんな目的の為だったらしい。


 殿下もエイリークも一言も言わなかったけどね!


 今は夏の社交シーズン。一発目の大規模夜会で殿下がエイリークと楽しげにダンスを踊って不仲説を一蹴。

 伯爵家とも親しげに話をしていて、あの殿下の発表が紛れもない真実だと広く知られる事になった。

 その後殿下は、自称側近と婚約破棄した令嬢全員と踊り、彼女たちの価値を上げた。

 更に彼女たちにこちらの都合で放置し、改善までに時間がかかった事を謝ったとか。


 殿下、いい奴。


 留学の話で伯爵家に挨拶へ行くと、エイリークにグレゴオール王子がちょっかい出さないように見張れと言われた。

 伯爵とお兄様の黒オーラはマジで怖い。ニコニコしてくれている夫人が癒しです。


 いつの間にかエイリークのヒモから伯爵家の下僕になってしまった気がするのは、気のせいじゃないかもしれない。


 去り際に夫人に腕を取られた。なんだなんだどうした。

「あの、まだ自覚がないみたいだけど貴方のことが好きみたい。よろしくね?」

 え、えぇぇー。マジですか。そんな感じ全然しないんですけど!


「逃がさないわよ」

 夫人も充分怖かった。あんな貧乏侯爵領でいいのだろうか。領地ごとエイリークのヒモになると思うんだけど。


 数年後、急に可愛い反応をし出したエイリークに翻弄されるようになったのは、また別の話。

 一体俺のどこがいいのか、何で突然自覚したのか全くわからない。可愛いな、くそっ。更に急に化粧を始めたエイリークは、眠そうな雰囲気は微塵もないただの美人だった。


 それによって、更に激しく絡んでくるようになったグレゴオールが鬱陶しい。上手に切り抜けないと、伯爵家にグレゴオールが抹殺されてしまいそうだ。

 国際問題だ。戦争は回避したい。いや、証拠を残さずに暗殺するつもりかもしれない…あの伯爵家ならできる気がする…。こわっ。


 殿下から冗談交じりで私も協力しようか?などと手紙が来た。伯爵家の方々、誰に相談してるんですか!

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