第9話 おまけ 伯爵家への報告書
留学して三ヶ月が経った。公用語は同じなので言葉の壁はなかったが、文化の壁はあった。
年配者や王家などの立場には敬意を払うが、基本は男女平等、身分差なし。王族の血を引いているのに庶民の血も引く貧乏な侯爵嫡男、という微妙な立場としては自分の身分を聞かれることもないので居心地が良い。
ただ、こちらでは健康的な体型であることが人として大切な条件にされていて、俺もエイリークもガリガリ過ぎて皆に心配をされている。
母国では男はお腹が出ていなければ充分だったし、女は折れそうなくらい薄い腰がいいとされていた。実際は色々な好みの人間がいたが、一般的にはそうだった。
こちらではまともにご飯を食べられない程貧乏なのかと心配されている。俺には多少当てはまるが、エイリークは違う。
エイリークは元々の体質と、夢中になると寝食を忘れる癖のせい。
「親切なのはわかるけど、こんなに食べられないわ」
「だよね」
親切な人たちがお裾分けをしてくれるせいで、毎日山盛りになる食事に辟易している。
男は背が高く分厚い胸板と筋肉質で色気があるのが美男の条件らしく、背が高いのにこちらではヒョロヒョロに分類される俺に、皆が筋トレをさせようとしてくるのが辛い。
筋肉がつくからと、不味い謎の飲み物を押し付けてくるのも止めて欲しい。貧乏性だから飲むけど、本当に不味い。
三食ちゃんと食べれるようになったのがここ最近なので、先ずは筋肉以前の肉が欲しい。女はボン、キュ、ボンが美人の条件で、露出も多い。皆むちむちで健康的だ。
そんな感じではあるが人間関係は良好で、授業内容も非常に興味深い。毎日充実した日々を送っているが、俺には伯爵家に週に一度エイリークの近況を報告する義務が課されている。
最初は箇条書きで出したのだが、伯爵とお兄様に激怒されたので、ストーカーかと思う程詳細な内容を書いている。下僕は頑張ります。
伯爵夫人には、それとは別にエイリークに変化があったら報告するように言われていた。
**伯爵夫人との手紙のやり取り 抜粋**
452年2月4日
急にエイリークに避けられるようになりました。以前おっしゃっていた自覚なのか、嫌われたのか判断ができません。
452年2月10日
間違いなく自覚したのだと思うわ。扱いづらいと思うけれど、そっとしておいてあげて。
452年2月20日
そっとしておくにも限度があると思うわ。ちゃんとエイリークに話しかけて。泣かせたら許さないわよ。
絶対に逃げられない感じと、捕まった感が凄すぎる…。可愛いと実際に思っているし、気も合うと思うからまぁ、いいんだけど…。なんだろう。たまには男としてちゃんとしたい気がする。
エイリークのペースに合わせたのでかなり時間はかかったが、ちゃんとグレゴオールも穏便に退けつつ、エイリークに求婚した。エイリークが顔を真っ赤にしながらも潤んだ瞳で喜んでくれたので良かった。
**伯爵家への報告書 抜粋**
453年1月9日
グレゴオールからの嫌がらせが本気でうざいです。流石のエイリークも二人でいる時間を邪魔されるので嫌がっています。
453年1月12日
任せなさい。
453年1月15日
すみませんでした。つい感情的になってしまったのです。国際問題とかにならないように、穏便にお願い致します。
453年1月20日
任せなさい。
信用できないにも程がある。恐ろしいことになりそうなので、エイリークに泣きついた。格好がつかないのはいつものことだ。
エイリークが至急夫人に連絡を取って、すんでのところで暗殺計画を阻止することに成功した。やっぱり伯爵家は怖すぎる。
殿下からも、過去の件で伯爵家は異常なほど過保護だから、発言には気を付けようねと手紙が届いた。
愚痴なら私に言いなさいとも。元お金に苦労した者同士、気が合って仲良くさせて頂いている。
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