第7話 ユリナ

 カナエと別れ、一人になると一気に孤独感に襲われる時がある。

 実際一人になったんだから当たり前かもしれないが……

 気分が少しずつ沈んでいく感覚。

 今日は嬉しい言葉を聞けたこともあってか、いつもより寂しさがちょっと強い。

 この孤独感さえなければもっと幸せなんだろうななんてぼんやり考える。

 こういう孤独感があるから、みんなと繋がれるSNSが重宝されているんだろうな、なんてスマホを手に取り一瞬体が寒くなる。

 やばい…… バイトから鬼電きてる……

 休む連絡するの忘れてた!!

 どうしようこれ……

 早く連絡するべきなんだろうけど、連絡したらなんて言われるかな。

 絶対怒られるし、なんていえばいいかわかんないし。


 どうしよう。


 サボったことなんてなかったからなんて言っていいか、全然わかんない。

 ぐるぐる頭が空回りしている。

 歩きながら悩んでいるといつの間にやら家に着いている。

 めんどくさいな、もうなんか……

 だいたい私、バイトだし。

 バイトが飛ぶことなんてよくあることだし。

 社員ですら飛ぶ人いるし……

 もうなんかどうでもいい気がしてきた……

 何かがプツンと切れたような気がした。

 自分の部屋に着く。

 もういいや。

 その日私は何も連絡せずに1日を終えた。


 カナエとのカフェから二日、今日は学校に行くのが乗り気ではなかった。

 なぜかってこの曜日は移動教室の途中でマサキのいるメンツと私らのグループが絶対に会って話すからだ。

 まあ会って話すと言ってもすれ違うに近いし、5分も喋らないんだけど。

 嫌だというと大げさだが、あの日以来会っていないからまあどんな顔をすればいいのかわかんないって感じだ。


 気が楽なのは、私らが別れたってことをなぜか全員知ってるから。

 そこらへんは知られていないよりはありがたいかなと思う。

 なんでみんなが知ってたのかは謎だけど。

 まあ隠すつもりはなかったから全然いいんだけどね。


 それにしても情報って回るの早いよね。

 最初に情報を見つけてくる人はどうやってそんなの見つけてくるんだろうって思うね。

 私のは良かったけど、知られたくない情報が回ってると思うと怖いし、知りたくもない。

 情報が勝手に転がり込んでくることもあるのは困ったところだよね。

 なんて考えながら登校した。

 登校してしまえば、時間が勝手に流れてくれる。

 いや、登校しなくても流れてくんだけどさ。


 この授業が終わればマサキらのグループと会うけど流れに身を任せればなんとかなる。

 自分に言い聞かせてこの憂鬱な気分を少しでも緩めようとしている。

 授業は頭に入ってこないが思っていたより早くチャイムがなる。

 死刑執行、そんな大層なことではないがそんな文字が頭によぎった。

 いつものメンバーで教室を出て廊下を歩く。

 いつものように、マサキらのグループが向こうから来て、いつもの場所で立ち止まる。


「久しぶり」


「久しぶりって、4日前あったでしょ」


 にこやかにちょっとした意地悪がこもった挨拶を返す。

 今まで憂鬱だったが会ってみれば意外と平気でなんともない。

 部活とかバイトとか行く前はなんか面倒で嫌だなって思っても、行ってしまえばたいしたことないみたいな、あんな感じ?

 私は部活も引退したし、バイトも二日前に飛んで以来、行ってないけどね。

 でもそういう時の気持ちに似ていると思った。


「俺の中では3日目から久しぶりなんだよ」


「絶対今決めたでしょ」


「ばれた?」


 二人で笑い合う。

 周りへの喧嘩別れでは、ありませんよっていうアピールみたいに。

 実際、喧嘩別れでもないし、実際あって感じたのはただの知り合いに戻ったって感覚だ。

 他の男子たちやグループでの話を1、2分きいて、マサキらと別れる。


 基本、私は特に話したいこともないので、聞き役に回っている。

 聞き役って言えば聞こえはいいかもしれないが、別にいなくてもいいポジションにいると私は思っている。

 トイレ行ってくると言ってグループから離れる。


「待ってー私も行く」


 とか言いながらユリナが長いすらっとした脚を大股に二歩、動かし私に追いつく。

 トイレから出て教室に戻る時、ユリナの整っている顔が一瞬迷うそぶりを見せ口を開く


「そう言えばさ、マサキもう他の女見つけてるらしいよ」


 どこで知るのか、ユリナの情報は正確で早い。

 そういう情報を本人に教えるのはどうなんだって議論を聞いたことあるけど、これに関してユリナの場合は割と言っちゃうタイプだ。

 さっきの迷いは私がどう思うか真剣に考えてくれてたんだと思う。

 おそらく友達として言ってあげようってしっかり自分で判断して言ってくれている。

 口が軽いわけではなく、ちゃんと見極めて話す人だ。

 そういう子だからこそ早く正確な情報を知れるのかなとも思う。

 それに今回は


「一個下のバカっぽい子でしょ?」


「あっセナ知ってたんだ」


「うん。」


 昨日、学校で歩いてる時に聞こえてきた噂、やっぱりあれほんとだったんだ。

 マサキの部活の後輩とか言ってたっけな。

 マサキやその子に関してあんまり、なんとも思っていない。

 あーゆうキャピキャピしたいかにも女子ですみたいな子が好きだったんだ、へー。

 とは少し思ったけど。


「乗り換え早くない?」


「ま、そんなもんじゃない?」


「あっさりしてるねセナ」


「そう?」


「マサキにお咎めはなし?」


「別にどーでもいいかな」


「全然興味ないじゃん、ホントに好きだったの?」


 笑いながら聞かれた問いに苦笑いで返す


「えー、わかんない」


「出たセナのわかんない!私それ好きなんだよね」


「なにそれ、変なの」


 笑いながら答えた私に笑いかえすユリナ。

 すぐユリナが真面目な顔になる。


「もしセナが怒ってたら私がやってやろうと思ってた」


「やるって?」


 続く言葉の察しはついたが聞いてしまう。


「殺す、社会的に」


 ニコッと笑いながらいうユリナの決め台詞。


 今回は目がマジなところが余計怖い。


 暴力的であんまりいい言葉ではないんだろうけど、それ好きなんだよね。

 かっこよくて


「今回は別にいいかな、でもありがと」


 私は一人の男を救ったな。


「そう、どういたしまして」


 少し照れた顔をするユリナに聞く


「ねえ、なんで私と友達でいるの?」


 照れた顔がキョトンとする


「どうしたの?病み期?」


「病んでないけど、なんで私といるのかなって」


 勢いで自分の心にしまっていたことを開けてみる。

 普通だったら聞けない、怖くて。

 言えたのは……やっぱり少し病んでたのかもしれない。


「私といても得ないでしょ?なんの情報も持ってないし」


 群れるのが嫌いとかそんなんじゃない。

 ただ、どこかに属していても結局いてもいなくても変わらないようなそんなポジションにいて、突然、自分の存在が消えても誰も困らない……

 別に誰かの穴は誰かが埋めれるし、特別な人なんてほんの一握りでその特別な人も別に、同じようなことをできる人がいれば、存在が消えても困らない。

 特別な力も何もないただの私が何言ってんだってかんじだな。


 聞いといてものすごく答えを聞くのが怖くなっている自分がいる。


「損得でいうなら、私は得だと思う。」


 考え考え、言葉を選んでいるユリナの話を黙って聞く。


「情報とかそんなの関係なくて、セナといると楽しいし。楽しいからいるっていうか、楽しくなかったら一緒にいないのかって言われたら、それもまたなんか違うけど。」


 ユリナとしっかり目があう。


「なんとなく居心地がいいから、そんなもんじゃない友達って。これじゃあダメ?」


 言い切ったあと少し不安そうな顔になるユリナ。


「うんうん十分、ありがと!」


 パッと明るくなった顔に私はいい友達に恵まれてるんだなって思って涙が出てきそうになる。

 友達の定義とかは、わかんないけど。

 わかんなくても友達であるのは変わらないし、わかんなくてもいいのかなって思った。


「あっやばい次の授業、抜き打ち小テストあるの忘れてた」


「え?まじもうチャイムなるよ?」


「悪あがきするよ!50点中40点取らないと放課後、補習あるから」


「え、鬼畜すぎ〜」


「ダッシュ」


 そう言いながら教室に走って行くユリナを追いかけた。

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