八月 夏祭り。
浴衣から僅かに肌蹴る素肌には、そこはかとないエロスがある。そう私は確信した。
「・・・ご、ご主人さまっ、」
ゴクリ、生唾を飲み込む音が、静かな部屋にやけに大きく響いた。それを聞いていたのか、目の前にいたご主人さまは、少し驚いたような顔をして私を覗き込んだ。
「どうしたの?」
「それは、こっちの台詞です!どうしたんですか?その素敵な浴衣は!!」
「おい、ペットちゃん。一応、俺もいるからな。」
ひゃっほう、と叫びながらご主人さまの周りをぐるぐると回って観察していると少し遠くの方から知らない人の声が聞こえた。
「何、あの人、誰あの人。」
「おい、心の声漏れてるぞ。閉まりのない口から、漏れてるぞ。」
「おっと、そいつは失敬。」
慌てて謝るけど、残念なイケメンはちっとも謝罪を受け入れる姿勢を見せずに私のおでこをぺチンとでこピンした。地味に痛い。
「ったく。せっかくペットちゃんの浴衣も準備してやったのに。着せてやんねーぞ。」
「いいよ、私は着付けが出来ないので遠慮します。」
至極当然のようにそう言うと、目の前にいたご主人さまがびっくりした顔をしてこっちを見た。思わず、私もなぜかびっくりしてご主人さまと見詰め合ってしまった。大きな切れ長の瞳が、私の中の感情を読み解こうとしているようにじっと見つめる。
「着ないの?」
「え、着るんですか?だって、誰が着付けを?」
「俺がするよ、ほら、おいで。」
にこり、いつものように微笑む姿(浴衣という特別オプション付き)をぽかんと見つめているとご主人さまは何でもないことのように私の手を持って
「え、これついていって大丈夫な感じ?え、これ、本当、え?」
「本当、葉は何でもできんだなあ。ペットちゃん、綺麗に着付けてもらえよ。」
パタパタと手を振る残念なイケメンに見送られながら、私はずるずるとご主人さまに連れて行かれた。
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