第19話 引き上げられた宝箱

 あまりにも宝箱が見つからなかったので、ログアウト後に掲示板で情報を調べる。

 宝箱とガラクタで海底探査装置の反応が違う、との情報があった。掲示板には画像を貼り付けたものがあったが、よく違いがわからなかった。


(海底探査装置の画面の見方がわからないと、効率よく宝箱にありつけないな)

 その後も、寝るまで宝箱とガラクタの見分け方の違い調べる。


 何となくだが、違いがわかった気がした。

 翌日、今日も宝箱探しをやろうと、準備を調ととのえる。


 港に行くと、茨姫はきちんと来ていた。

「よし、今日もよろしく頼むよ」


「任せてください。今日こそ、宝箱を引き上げましょう」

 漁船に乗って港を出る。


 海底探査装置に反応があった。見分け方を練習したので、反応からガラクタに思えた。


 だが、反応の違いは微妙であり、もしかしたらの思いが頭を過ぎる。淡い期待を持って、海中に入る。


 結果、引き上げると見事にガラクタだった。

 三度も続けてガラクタだったが、次に宝箱と思える反応をキャッチした。


「よし、ついに宝箱が来たかもしれない」

 茨姫の反応は渋い。


「そうですか? なら、いいんですけど」

「大丈夫だ。昨日、ちゃんと宝箱の反応を予習してきた。今度こそ当りだ」


「なら、お願いしますよ。船長」

 遊太は準備を調えて、海中に飛び込んだ。


 水深十mの砂地から箱のようなものが半分、飛び出していた。

「あった。宝箱だ」


 遊太は小躍りしそうになる気持ちを抑えて、砂を掻き分ける。

 衣装ケースより一回り小さい大きさの宝箱が姿を現した。浮力玉を装着させる。


 浮力玉が発光して、宝箱が浮いていく。

 宝箱を追って遊太も海面に出た。


「宝箱を見つけたぞ」

 茨姫が目をきらきらと輝かせる。


「おおっ! ついに、来ましたね。さっそく引き上げましょう」

ロープを掛けて宝箱を漁船に引き上げる。宝箱から海水が漏れ出る。


 宝箱には鍵が掛っていた。

「鍵つきですか。期待させますね。専用の鍵が要るんですかね」


「いや、特別な宝箱以外に専門の鍵は要らない。どれ、見せてくれ。俺は、開錠スキルは持っているんだ」


 操舵室から開錠用の道具を持ってきて、宝場の鍵を開けた。

 宝箱の中から掌サイズの金貨が一枚に、壊れた食器が出てきた。


 開けて、がっかりした。

「何だ? これ、宝箱にも外れがあるのか」


 茨姫は苦笑いして、ゴミにしかならない食器を見る。

「そうのようですね。今回は完全にゴミですね。まだ、ガラクタのほうが屑屋に引き取ってもらえる分、ましですね」


 遊太は掌サイズの金貨を手にして、魔法の辞書を開く。

『時の金貨。失われた文明の金貨。街の古物商で換金できる』

「換金用アイテムか。いくらくらいなんだ、これ?」


 茨姫が考え込む。

「同じクランの人が、前に手に入れて調べました。古物商に売ると、一万リーネ。オークションに出して、三万リーネだった気がします」


「オークションに出すと、古物商に持ち込むより高く売れるのか?」

 茨姫は知的な顔で教えてくれた。


「今のところ、換金するしか使い道がないアイテムなんですよ。でも、誰かが集めているみたいで、オークションに三万リーネ付近で出品すると、売れるんですよ」


「使い道がないアイテムと、使い道がわからないアイテム、じゃあ価値が違うからな」


「そう。それに、時の金貨なんて名前が、いかにも思わせぶりでしょう」

「そうか。なら、これから宝箱を引き上げる時に手に入ったら、集めておいたほうがいいのかな?」


「そこは任せまずよ。引き上げ事業の主体は、遊太さんのわけですし」

「よし、どんどん引き上げよう」


 遊太と茨姫は、その後も海底から宝箱の引き上げを行なった。

 結果、ガラクタを三回ひいたが、宝箱も三つ見つけた。

 さっそく、宝箱を開ける。


一個目・海水で駄目になった絹の衣類。

二個目・時の金貨と錆びた短剣

三個目・壊れた木の玩具


 宝箱を開けて、気分が滅入った。

 暗い顔で茨姫が語る。


「二人で約、八時間がんばって、目ぼしい物は時の金貨が二枚ですか。時の金貨をオークションに出品して、六万リーネですね」


「浮力玉が九個で四万五千リーネ。転移門でヴィーノの島と往復すると一人で二万リーネだから、実質五千リーネの赤字だな」


 茨姫は、がっくりと肩を落とす。

「あとは、短剣とガラクタですけど、三千リーネも行けばいいでしょうね」


「短剣は錆を落とせば名品だった、とわかるかもしれない。ただ、ここまで酷く錆びていると、直しにいくら掛かるか、わからない。修理してもらうか?」


 茨姫が気負って発言する。

「こうなったら、短剣を修理してもらいましょう。宝箱を四つも開けて全て外れなんて、悲しすぎます」


「わかった。なら、負債が膨らむかもしれないが、ヴィーノの街の鍛冶屋で直してもらうよ」


港に帰る。ゴミはゴミ箱に捨てて、ガラクタと時の金貨を倉庫屋に預ける。

転移門でヴィーノの街に移動した。倉庫屋からガラクタと短剣を取り出す。


 屑屋にガラクタを引き取ってもらって、千リーネを得た。

 プレイヤーがやっている鍛冶屋に行って短剣を見せた。


 鍛冶屋の主人は短剣を手に取って、じろじろと見る。鍛冶屋は厳しい顔で告げる。

「随分と錆びちまっているね。装飾も著しく剥げている。完全に修理するなら二百万リーネは貰わないと、合わないよ」


「二百万リーネ! 修理するだけで、そんなに掛かるのか? いくら何でも、高過ぎだろう」


 鍛冶屋は心外だとばかりに説明する。

「妥当な値段だよ。こいつは、修理に手間も技術も材料も掛るからな」


(何だ、とんでもないお宝を引き上げたのか)

 気分が明るくなった。


「ひょっとして、誰もが欲しがる、切れ味抜群の業物わざものなのか?」


 鍛冶屋は残念そうな顔で否定する。

「いいや、高価な儀礼用の短剣、ってことさ。威力だけ見れば、二百万リーネの価値はない」


「直したら、いくらで売れるんだ?」

 鍛冶屋は難しい顔で説明を続ける。


「いいとこ、百万リーネかな。ただ、オークションにだせば三百万リーネ以上を出しても欲しい奴はいるかもしれん」


(どういう意味だ? ただの換金用の儀礼用アイテムとは、違うのか?)

「何か秘密があるのか?」


 鍛冶屋は自信たっぷりに答える。

「あるね。俺の鑑定スキルだとわかったが。こいつはクエスト・アイテムだ。この短剣を持って特殊な場所に行く。さすれば、隠された冒険が発生する」


 話が見えてきた。クエスト・アイテムに付加価値を認める人間も多い。

「なるほど。クエストをやりたさに買う金持ちがいても、不思議ではない。それに、クエストの報酬によっては、三百万リーネを超える可能性も否定できない、か」


 鍛冶屋は視線も厳しく、釘を刺す。

「ただ、オークションに出すには、修理が必須だぞ」


「オークションの結果によっては、大損も大儲けもあるな」

 鍛冶屋は真面目な顔で確認してくる。


「そうだ。それで修理をするか?」

「待ってくれ。二百万リーネは大金だ。それに仲間もいる。とりあえず保留で持って帰るよ」


 浮力玉を買って、マンサーナ島に帰る。

 茨姫に短剣をどうするか聞こうとした。だが、茨姫は既にログアウトしていた。

 その日は、遊太もログアウトした。

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