タイムキーパー

月冴(つきさゆ)

【Prologue】

———時空歴 《After Common Era》 563年———


(西暦  《Common Era》 3015年)



——*——*——*——*——*——



563年(3015年) 8月19日  14:51


本日は、3件の時空案件が入っている。


うち2件は対処済み。


これから最後の1件の現場へと向かう。



——*——*——*——*——*——


 我々はいつも通り、本部へと報告を済ませると、タイムゲートを使い現場へと急行する。


————1————


———時は、2442年———


 人類…いや、生物史上最悪の戦争が起きた。


 事の発端は、ひどく些細ささいなことからであった。


ある1つの生物を巡っていさかいが起きたのだと言う——今となっては真実は誰にも分からない。


 それから3年、膠着こうちゃく状態が続き、これまた些細なことから生物化学兵器が使用された。



———2445年———


 地球上に存在するありとあらゆる生物、その数99.9%もの動植物が一瞬にして消滅したと言われている。


 生き残った0.1%が考えたことは単純明快たんじゅんめいかいであった。


 人類が自分たちで考え、お互いに利害関係を築くから争いは絶えないのだと。


《つまり、利害の存在しないコンピューターに管理されればいいのだと》



 この年、人類史上初めて、人々は自らのコントロールを手放すことを決意した。


————2————


 コンピュータが管理する社会を作り始め、最初の5年は悪戦苦闘の日々であった。


 異議を唱える者も当然おり、コンピューター自体も暴走しないように、あらゆるルールが作られた。


 0.1%の人間でさえも、争いをそこかしこで起こし、ついには全人類がさじを投げ———【管理】されることに同意したのである。



 2年の試行錯誤しこうさくごを経て、ついに———


———2452年———


 生まれ落ちた瞬間から、人は管理されるようになった。



 まず初めにモラルを脳に直接インプットされ、極端な個性もこの時に消された。


 思考も嗜好しこうすらも管理され、人はみな、同じような考えをするようになった。


————3————


 同じような考え方をすると、不思議なことに、人は似たような顔になってくる。


クローンは存在しない(とされている)が、みな、見分けがほとんどつかないほど似ていた。


もちろん、男女の違いと、かつて人種と呼ばれた名残は多少はありはしたが…


それでも、わずかな違いにより、7種類に大別できるくらいなものである。



 区別するために、人には【世界認識番号 Global Identification Number】———略して【GIN ジン】がつけられた。


 これは生まれた時間・場所・人数によって決められるのだが


同一時間帯には  “1人”  しか生まれないことになっている。


なので、下一桁はみな  “1”  なのである。


………ただ1人を除いては………


 それが、わたし 【No.2 ナンバーツー】である。


————4————


 生物至上最悪と言われる戦争が起きてから、わずか10年…


———世界は一新された———


 技術の進歩は、コンピューターの管理だけではない。


同時に進行していたのが、時空管理システムである。


その中核を担うのが、時空監視官【Time Keeper タイムキーパー】


………そう、我々である………


 簡単に説明すると、タイムキーパーの役割は、タイムトラベルを用いて “犯罪を確認する” ことである。


 さらに、明確で絶対的なルールが7つ存在する。


————5————


(1)2442年ー2452年には、絶対に行ってはいけない。


(2)未来には行ってはいけない。


(3)時空監視官であることを明かしてはいけない。


(4)その時代にそぐう服装を着用すること。


(5)速やかに事件の証拠を集め、漏れなく報告すること。


(6)時代に干渉しないよう、最新の注意を払う。


(7)何が目の前で起ころうとも、手を出さないこと。


特に7番目の項目を “Seventh Law セブンスロー” といい


絶対に破ってはいけない、禁忌きんきとされている。


————6————


———2452年———


 コンピューター管理社会とともに、時空監視官が、ひそやかに誕生した。


 これが、真の【時空歴——ACE——】の誕生である。


 時空暦の誕生の意味や、名前の由来を知る人は、この世の中には存在しない…我々を除いては。



 我々の仕事は至極しごく簡単で、明確である。


過去の犯罪をさかのぼり確認、その時代に干渉しない程度に証拠集めをする。


その証拠を元に、過去に冤罪えんざいがなかったか、間違いは起きていなかったか…


それを、平和維持の材料として蓄積していくのである。


 今となっては、“犯罪”という言葉さえも人々の記憶から忘れ去られている。


 我々の存在は、世間一般にほとんど知られてはいない。


…後にも先にも、知られるはずはなかったのだ…あの時までは…


————7————

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