第37話 領主会議②

「まず『炎』が発生し始める初期段階、『降噴期こうふんき』。今がその時期ですが、最初の3~4ヵ月の間は『炎』の発生頻度は比較的少なく、一週間に1~2件といった程度です」



 このくらいの頻度であれば俺一人でもまだ何とかできるレベルだ。


 だが問題はその次の段階からだ。



「4~8ヵ月くらいの時期になると『炎』の発生頻度が急激に増え、1日おきからほぼ毎日といった回数となります。この時期を『氾曝期はんぼっき』といいます」



 そう、ほぼ毎日なんて頻度になると、さすがに俺一人じゃ厳しくなる。


 近場ばかりで起こるならまだ何とかなるかもしれないが、そんな都合のいい話があるわけがない。



「そして最終段階の『奮曝期ふるぼっき』。この時期になると『炎』の発生は毎日、それも1日に3~4件という事も珍しくなくなります」



 ここまで来るともうお手上げだ。


 俺一人じゃ確実に手に負えない。


 その時期が来るまでにヴィアンテ様が追加の勇者を連れてきてくれる事に期待するしかないよ。



「……して、ラマニア殿下でんか。問題は現状、『鎮火の勇者』がリン殿一人しかいないという事ですが」



 切り出したのはブルウッド領のガッツさんだ。



「先日、我が領内にて『炎』が発生した折、私はシェインヒールの女神ヴィアンテ様にお会いし、第二・第三の勇者をお探しくださるとお言葉を頂戴しましたが、その後の進捗は?」


「ヴィアンテ様は今、異世界『地球』に赴き直接『鎮火の勇者様』をお探しになられています」



 ラマニアが現在の状況を説明する。


 さすがに俺の世界の女神とか、その辺の事情までは言っても仕方がないし、不要な不安を煽るだけなので伏せていたが。



「……まぁ、今は女神様を信頼して待つしかありますまい。『降噴期こうふんき』の今ならばリン殿お一人で何とかなるでしょう。リン殿にはこの王都キーストにいて頂くのが最善でしょうな。この王都はサンブルク王国のほぼ中心ですし、王国各地へ遠征するための交通設備も充分に整っておりますから」



 この意見には参加している全ての領主達も異議なしといった様子で頷く。


 勇者が一人しかいない現状では、国の中心地であり国王のいる首都を最重要に守りを固めるのは当然かもしれない。



「問題は第二の勇者が見つかった時です。100年前の時は一度に8人の勇者が召喚されましたが、今回の状況を考えますと、そう都合よく一気に何人も勇者が増えるという楽観的な考え方はできません。そこで第二の勇者様にはどこの領地にご滞在して頂くか……」



 来た。


 これが今回の本題だろう。



「それはもちろん、王国第二の都市である我がビロープ領でしょうな」


「何を言うか!!第二の都市は我がラシールブ領だ!!」


「愚かな事を。領土の広さと言い、人口と言い、数百年前から他国との貿易が盛んな我がグラール領こそ王国第二の都市でしょう」


「領土の広さならドロシーノ領が国内最大だ!!」


「ふん、ドロシーノ領などただ広いだけの北のド田舎ではないか!!」


「いや、ドロシーノ領は我が国最北の地。そこに第二の勇者様を配備しておけば、キーストより北側の土地はカバーできますぞ」


「そうですなぁ。ビロープやラシールブなど西方面は確かに発展した都市ですが、それだけ交通網も整備されておられる。急な『炎』の発生にも迅速に駆けつける事が可能ですからな」



 各地の領主達が自分の領地を優先すべきだという意見を口々に言い出す。


 最初はキーストに匹敵する大都市を抱える領主達が。


 続いて都市規模はそれほどでもない領地の領主は自分の領地から近い大都市の領主を支援する形で。


 結局は自分の領地の安全を確保したいだけという本音が駄々漏れだったが、でもその本音は「自分の土地を守りたい」という純粋な郷土愛でもあると思えば、どうして非難ができようか。


 口を挟むタイミングも資格も無い俺は、ただこのやり取りを眺める事しかできなかった。

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