第18話 ブルウッド領の領主

 飛行機がブルウッド空港に到着したのは夜の20時頃、辺りはすっかり暗かった。


 俺達が外に出ると、それを出迎える一団の姿があった。



「我がブルウッド領へようこそおでくださいました、ラマニア殿下でんか。領主のガッツ・ファン・ブルウッドでございます」



 領主と名乗った男は、見た目の感じで三十代~四十代といったところか。


 一見すると若そうな顔つきに見えるが、だがの部分がやや広くなりつつあるといった様子でもあり、どこか年齢不詳な印象を受ける。



「ガッツ殿、ご丁寧な挨拶、痛み入ります。ですが今は鎮火活動ちんかつが一刻を争いますので……」



 そう言いながらラマニアは俺の目を見てアイコンタクトを送ってくる。


 すぐに意図を察した俺は、スペルマップを出した。


 そしてラマニアは『炎』の反応のあるポイントを指差しながら、領主さんにたずねた。



「ガッツ殿、ここが『炎』の現場なのですが、案内して頂けますか?」


「ふむ、エイノット霊園れいえんですな。わかりました、車でお送りしましょう。お乗りください」


「感謝致します」



 深々と頭を下げるラマニアに領主さんは恐縮し、部下らしき人に車を用意させた。


 割りとすぐに空港前にやって来た車に俺達は急いで乗り込んだ。


 後部座席にラマニア、俺、ガッツさんの順で座り、意図せずガッツさんの隣になってしまった俺は少し気まずい気分を味わう事となった。


 そんな俺の様子を察してくれたのか、ガッツさんは俺に優しく話しかけてくれるのだった。



貴殿きでんが鎮火の勇者様ですな?よろしければお名前をおうかがいしても?」


「あ、はい、隼瀬はやせ……リン・ハヤセです」


「リン殿か。では私もあらためて、ブルウッド領の領主、ガッツ・ファン・ブルウッドです」


「よ、よろしくお願いします」



 ぎこちなげな挨拶を交わしながらガッツさんと握手をする。


 ガッツさんは俺の緊張を感じたのか、握手をしながらニコッと快活な笑みを浮かべた。


 初対面の時はデコの広さに目がいったが、笑うと厚めの上唇うわくちびるが上に上がり、歯茎はぐきき出しとなった。


 この笑顔を見て、この人の一番の特徴はデコの広さよりも、その大きな口と歯茎だなと思った。



「ああ、それと今運転してくれているのが私の秘書であり付き人でもある、イオタ・バーバンです」


「イオタです。運転中ゆえ、お顔をお見せできませんが、ご容赦ようしゃください」



 ガッツさんから名前の紹介があり、運転席からイオタさんの声だけの挨拶が返ってきた。


 領主の付き人というからてっきり男の人かと思っていたが、予想に反して若い女性の声だった。



「よろしくお願いします」


「はい。それよりも殿下でんか、勇者様、間もなくエイノット霊園に到着致します」


「えっ、もう?早いですね」


「ええ、エイノット霊園はブルウッド空港の目と鼻の先ですからね」



 俺達を乗せた車は霊園の駐車場らしきスペースに入り、霊園入口のすぐ近くに停車した。


 そして俺とラマニアはあらためて気合いを入れ直す。



「それではこれより私とリン様で鎮火活動ちんかつに向かいます。お二人はこちらで待機していてください」


かしこまりました。鎮火活動ちんかつを終えられましたら……今日はもうこのような時間ですので、今夜はぜひ私の屋敷へお泊まりください。部下へ連絡し、既にお迎えの支度したくはさせております」


「お心遣い感謝致します。それでは行って参ります」



 深々と頭を下げて見送るガッツさんとイオタさんを駐車場に残し、俺とラマニアは不気味な夜の霊園へと入っていった。

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