第4話 終息
アヤカと家に帰る途中、本屋から出てくるアヤカの隣に男がいた。今ならわかる。あの男は、俺である。
今朝はジャケットを着ていたのに、俺と同じくポロシャツとジーンズだった。俺は横にいるアヤカの手を握った。
前を歩く二人は、俺たちと同じ道を歩いている。当然、同じ家に入った。
「ただいま」隣にいたはずのアヤカは、いなくなっていた。
「おかえり」リビングからアヤカの声がした。男の気配なんてなかった。「まぁ私もいま帰ったところやけど」
「今日はどっか行ってたの?」
「ちょっと一人で散歩に行ってた」と楽しげに笑った。「そっちは?」
「俺は」俺は二人で過ごしていたはずだった。けれど「俺も、一人。本屋に行ったりカレー食べたり」などと答えるしかなかった。
なにごとも起きていないように、俺の隣に座るアヤカがいる。処方された薬を飲んで眠そうにしている。
夫婦で同じ夢を見ているのだろうか。隣にはずっとパートナーがいるという夢なのだろう。
生身のままでは互いに疲弊するだけなのは、確かだろうけれど。
玄関が開く音がした。誰かが出ていく靴音がした。俺とアヤカしかいない家なら出ていくのはアヤカのはずだが、もしかしたら、俺には見えていない俺が『ルビー』に行ったのか、大阪駅に行ったのか。知ったことではない。
寝室の扉の閉まる音がした。俺とアヤカのどちらかが寝たのだろうか。でも俺は起きている。寝にいったのはアヤカに違いない。もしくは俺にしか見えていないアヤカが寝に行ったのかもしれない。
あるいは、俺が寝室に行ったのかもしれない。すると俺は、隣で眠るアヤカにしか見えていないということなのだろうか。
どちらでもかまわない気がしていた。
俺の肩に頭をあずけたアヤカが本物であってほしい気はしている。これだけは、確かだ。
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