“さとるくん”、やってみた

 さとるくん、と呼ばれる交霊術があるのをご存じでしょうか?


 やり方はとても簡単。まずは公衆電話を探し、それに10円玉を入れる。そのまま自分の携帯電話の番号にかけます。すると、携帯に着信が。この着信を受けて「さとるくん、おいでください」と言えばいいのです。


 すると近日中に、さとるくんから電話がかかってきます。彼に質問をすると、何でも答えてくれるそうですよ。



 実は私、先日この交霊術を実践してみました。


 普段通学に使っているバス停の傍に、電話ボックスがあるのですが、今回はこれを利用しました。「今時電話ボックスなんて置いてあるの?」と思う方もいるかもしれませんが、言わせてもらいましょう! 案外まだあるんですよ(笑)


 失礼。5月のある日、講義が午前だけで終わった日のことです。

 人の往来がある中、私は交霊術にチャレンジしてみました。なぜそんな人目につく時間に? と思った方も多いでしょう。……独りでやるのが怖かっただけです、はい。


 続けます。

 まずは電話に10円を入れました。それから自分のスマホに電話をかけます。そして鞄の中からスマホを取り出し、応答ボタンに触れる。この時の私は、外からみれば相当怪しいことをしていたと思います。だって、電話ボックスの中で、公衆電話の受話器を外したまま、自分のスマホで通話しているんですよ? 首を傾げるしかないでしょう。


 私はスマホに向かって話しかけました。

「さとるくん、さとるくん、おいでください」

 それだけ口にすると、スマホも、公衆電話も、どちらも切る。この時胸がバクバクいって大変でした。なんとか胸を落ち着かせてから、電話ボックスを出ました。


 作業はたったこれだけなのに、何だか偉業をやり遂げたような気分になりました。

 手順で言えば、最初の最初なのに、これだけで全部やりきったような気になってたんです。なかなか間抜けですな。



 そして今――。

 結果から言うと、電話はかかってきませんでした!


 携帯が鳴るのも、友達からのLINEとか、ゲームの通知とか、就活の案内とか、いつも通りです。どうやらさとるくんは、私の所には来てくれなかったみたいです。

 実験が失敗したことは残念ですが、正直良かったと思っています。


 だって、さとるくんには怖い噂もあるんですもの。

 電話が来て「ぼくはさとるくん。今、君の後ろにいるんだ」と言われて(メリーさんみたい)、振り向いたら最期。魂を取られてしまうとか。振り向くな!

 他にも「君は何者なの?」とか、彼の正体に触れるような質問をしても同様らしいです。


 だから、失敗で良かったんではないでしょうか。

 うん。軽い気持ちで交霊術なんてするものじゃないですね。もっと自分の行動に責任を持たなくちゃ。


 ちなみに、もしもさとるくんから電話が来たら、どんな質問をするつもりだったのかと言うと……。

「どうしてアタシの小説は読んでもらえないんですか!?」

 ――うん。真実を伝えられたら、ショックで寝込むかもしれない。なおさら、失敗して良かったです。



 あれ。誰かから着信が来てる。

 ごめんなさい、今回はこの辺で筆を置かせていただきます! また今度!

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