第146話 サイド 冬蜻蛉4
ぐるぐると色んな思いが頭のなかを巡る。
朽木の役にたちたいという気持ち。
江奈・キングスマンの体調と、この事を伝えた時の彼女のとるだろう行動。
猫林檎達、子供達のこと。
そして、僕の重力軽減操作のスキル。
僕は衝動的に目の前にある二振りの小太刀をつかむ。
ばっと下から二枚目のジャンパーまでをめくり、左右の隠しポケットからジャケットホルダーを取り出す。小太刀が落ちないようにジャンパーの間で、体に固定する。
残念ながら、少しはみ出してしまう。軽く体を動かし、動きに支障がないことだけ確認すると、次に靴を革靴へ履き替える。
「届けるだけ。そう、届けるだけなら。ただ行って、帰ってくる。今ここにいる中で、僕が一番速い。だから届けてすぐに帰ってくる。そう、やることはそれだけだ」
自分にそういいながら、ブースを出る。
何故かブースの外にいる、猫林檎。
元々が気配りにたけ、気の利く猫林檎は、当然目敏い。
僕のジャケットからはみ出す小太刀と、僕の足元へ猫林檎の視線が移動する。
「……安心して行ってきてくだせぇ。アネキの留守はオラにどーんと任せて」と猫林檎。
「うん。いつもありがと」僕は猫林檎の横を通りすぎながら、右手をグーにして肩の高さに。
にかっと笑って、グーパンをそこへ当ててくる猫林檎。
僕は振り返ることなく、まっすぐネットカフェを出る。
そこへ、わらわらと集まって来るぷにっと達。僕の邪魔はしないまでも、どうやら僕の事を行かせたくない様子。
手に手に、ばつ印を作っては、左右に体を揺らすぷにっと達。
先程の猫林檎との会話を聞かれたのか。はたまた僕の様子を見て何かを察したのか。
どちらにしろ、行く手を遮られている訳ではないのだからと僕はまっすぐに走り出す。
まずは僕らがいたホームセンターへ。
そして目指すは市街地、朽木の元へ。
重力軽減操作の発動。
そして踏み出した、一歩。
その一歩は、僕にとっては普段歩く時に踏み出すのと変わらぬ一歩。
しかし、今の僕は、朽木から借りた力を得ている。その一歩に込められた力を実質何倍にもして、一気に加速する。
飛ぶように流れ出す景色。
幹線道路のまっすぐにつきすすみ。
あっという間に見えてきたホームセンターの残骸を尻目に。
──もっと。もっとだ。もっと急がなきゃ
額が地面につくのかというほどの前傾になり。
重力軽減操作の恩恵を最大まで引き出す。
眼前を流れる地面。耳元で荒れ狂う向かい風。
そして、市街地が見えてきた。
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