第141話 倍加スキルの検証、再び

 冬蜻蛉がイドの枯渇から回復し、再び向かった空き地で元々予定していた江奈さん考案の訓練を無事に終えたその夜。


 皆が寝静まった後、俺はこっそりネカフェを抜け出し、外にいた。

 こっそりとは言っても当然、不眠不休のぷにっと達は起きているが。


 回収を頼んでいた、真っ黒な革靴をぷにっと達から受けとる。


 ──よしっ、ここら辺でいいかな。


 俺はネカフェから十分離れた所で持ってきていた懐中電灯をつける。そのまま昼間、冬蜻蛉と使った空き地へと歩き出す。

 自分が増やした雑草に気を付けながら。


「さて、倍加のスキルで増えたこの革靴だが。重力軽減操作のスキルもついている装備品になのかどうかが問題だ。もしくは解放スキルまでついているって可能性まであるよな」空き地に着き、俺は独り事をもらす。夜、一人だけということで、いつもより独り事が駄々もれに。


 俺は今つけているGの革靴を外すと、もう一つの革靴をはこうとする。


 そこで、あることに気がつく。


「あれ、サイズが小さい?」


 俺は二つの革靴の底を合わせるようにしてサイズを比べてみる。

 一目瞭然、新しく倍加で増えた方の革靴が小さい。

 まるで子供用と言ってもいいぐらいのサイズだ。


「おかしい。どういうことだこれ。これまで倍加で増やした物はどれも同じだったよな?」


 俺は二つの革靴を懐中電灯の光のもと、細かい部分まで比べていく。


「形は一緒だよな。このダサめの刻印も、小さくなっているけど同じように刻まれているし……。しかし装備出来ないと、ステータス確認でスキルの有無がわからないな」


 俺は革靴の表面を指でなぞりながらそう呟く。


「仕方ない、諦めて次の検証に進むか」


 俺は一旦増えた方の小さくなっている革靴をしまうと、ホッパーソードを抜き放つ。

 そして、しゃがみこむと、持ち手の方が下になるようにして、足元の柔らかくなっている地面に刺していく。


「よいしょ、よいしょ」ぐぐっと地面に押し込むようにして突き刺したホッパーソード。

 何とか自立するぐらいまでは地面に差し込めた。


「刃を地面に刺すと痛むって聞いた事があった気がするからな。本当どうかわからないけど。さて、これでよしと」


 俺は次に取り出した妖精の鍬を取り出す。

 地面に置いた懐中電灯の光が、ホッパーソードに当たるように微調整。

 出来映えに一つ頷くと、次に自分のステータスを確認しておく。


 鍬を振りかぶる。


 狙い違わず、鍬の歯がホッパーソードのすぐ隣の地面へと突き刺さる。

 ぽんっという音と共に、増えるホッパーソード。


「よしっ」


 倍加スキルで実際に装備品が増えることは、これで確実となった。

 次に開きっぱなしだったステータスに再び目を通す。


「倍加スキルで使用するイドは、他の物を増やした時と同じか。ふむ……」


 俺はステータス画面のイドの項目を見ながらそう、呟く。これはある程度想定していた通りだった。もう一つの可能性として、装備品を倍加で増やす時はイドの消費が大きくなるかも、と思っていたのだが。

 そして、いよいよホッパーソードを比べていくことにする。


 増やした方がどちらかわからなくならないように、慎重に地面から抜くと、右手に元々のもの。左手に新しく増えた物を持つ。


「サイズも一緒、だよな。冬蜻蛉が妖精の鍬を使ったから革靴の時はサイズが違う可能性が高くなってきた」


 俺はそのまま、ステータスに目を通す。


「二つ持っても、装備品として表示されるのは一つ分、と。イドとオドの増減分も一つ分だけと。これも想定通りだな」


 俺はこの結果には少し残念に思いながら。もしかして同じ装備品なら二つ持てばイドとオドの増減が二倍になるのではと言う淡い期待があったのだ。

 そしていよいよ、二つのホッパーソードを一つずつ、持ってみることにする。


「どちらも、スキルでイド生体変化、あるな」


 俺は倍加で増えた方のホッパーソードを装備すると、イド生体変化のスキルを使う。


 何の違和感もなく。まるで長年使い慣れ親しんできた装備品かの如く。

 無事に、イド・エキスカベータを作成に成功する。

 そしてそのまま、消費したイドを回復させた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る